第23話 受付嬢と仲良くなるパターン

「ここが冒険者ギルドですか」


「そうだ。取り締まる方としては何度か来たことはあるが、冒険者としてくるのは初めてだ」


 荒くれ者が多そうですもんね。あ、でもリヒターさんも冒険者だったっけ。

 変質者が多いのかな?どっちにしろ憲兵が出動しそうだけど。


 重厚な扉を開けると、ワイワイガヤガヤと喧噪が押し寄せてくる。

 入って右側には冒険者ギルドが運営しているであろう酒場があり、向かって左側には受付カウンター。

 そして正面には巨大な掲示板があり、様々な紙が貼りつけられている。

 クエストボードとか言う奴だろう。

 わくわくしてくるぜ!


「よう。冒険者ギルドは初めてかい?」


 入り口の近くの席で酒を飲んでいた冒険者らしき人に話しかけられる。

 筋肉もりもり、背中にはでっかい大剣。めちゃめちゃ強そうなんだけど。

 もう俺の代わりに魔王退治してきてくれない?絶対俺より強いから。


「初めまして。今日冒険者登録をしに来たミユキと言います。よろしくおねがいいたします」


「やめろやめろ、堅苦しくて寒気がするぜ。ここは冒険者ギルドだ。敬語なんざ使うもんじゃねぇ」


 バシバシと背中を叩かれる。

 痛い痛い。いい人そうだけど痛い。


「しかし、坊主でも無さそうだな。となるとそっちの綺麗な嬢ちゃんの方かい?」


「えっと、何がですか?」


「噂によると、ミミットの勇者召喚の儀が成功していたらしくてな、勇者が冒険者登録に来るんじゃないかって噂でもちきりよ!」


「あ、それ俺です。よろしくお願いします」


「あーっはっはっはっはっは! お前みたいに弱っちそうな奴が勇者なもんか! 勇者ってのは魔王を倒す力を持った奴のことだぜ? お前よりは幾分か俺の方が可能性があるってもんだ! あーっはっはっはっは!」


 はい。俺もそう思います。


「あの、勇者様ですか?」


 可愛らしい声がして振り返る。

 かわいい魔法使いっぽい恰好をした女の子たちがキラキラした目で見ています。

 フィロさんを。


「いや、私は勇者ではない。私はフィロというしがない剣士だ」


「本当ですか? 凛々しくて美しくかっこいいお方……勇者様のようです……」

「あの、どなたかとパーティを組まれていらっしゃいますか?できれば私と!」

「私、回復魔法が使えます! お役に立てると思いますので、連れて行ってくれませんか!?」


「いや、すまない、そういう訳には……おいミユキ! 助けてくれ! ミユキ!」


 ちらりとフィロさんを見る。

 はいはい、フィロさん美人でかっこいいもんね。はいはい。

 どうせ俺は勇者っぽくないですよ。ふんだ。


「すみません。冒険者登録したいんですけど」


 フィロさんを放置して受付に向かう。


「冒険者ギルドへようこそ! ご登録ですね、こちらの用紙にご記入ください」


 えーっと、名前、年齢、性別、種族、職業に保有スキル、と。


「あの、保有スキルは全部書くんですか?」


「書かれて差し支えないもののみで結構です。クエストの依頼がある時やパーティメンバーを探すときに役に立つように記入していただいているだけなので。もちろん、秘匿したいものがある場合には書かなくて結構ですよ」


 受付嬢は人差し指を唇に当てて、いたずらなウィンクをしてくる。

 なにこれ。かわいい。

 えーっと、ってあれ、書けるのなくない?

 剣術はどうせ上書きするだろうから書けないし、異世界言語がしゃべれるなんて当たり前だし、シースルーは秘匿しておきたいし……。


「書けるものが無くても問題ありませんよ。冒険者はこれからなんですから、たくさんスキルを覚えて立派な冒険者になってくださいね。応援していますっ!」


 あれ。この子いい子過ぎない?

 思えばこの世界に来て初めてのまともな女性じゃない?

 一人目は男装騎士で、二人目は天才ロリっ子。三人目はノーパン女王様だもんなぁ。

 受付嬢と仲良くなるパターンでしたか。

 いやいや、悪くないね。悪くない。

 むしろ最高まである。


「冒険者ギルドのお役に立てるように精一杯頑張らせてもらいますよ。ところで受付嬢さん。俺はまだ駆け出しですが、報酬の良いクエストをクリアした際には、いっしょにお茶でも……」


「ミユキ、先に行くなんて酷いじゃないか」


 フィロさんが女の子達を振り切ってこっちに来ました。

 今良いところだから邪魔しないでほしい。


「ん? もう登録手続きをしているのか。お嬢さんすまない、私にも一枚くれないか?」


「は、はいぃ……あの、こちらですぅ……分からないことがあったら、あの、なんでも聞いてくださいぃ。その、些細なことでも良いので……」


「ありがとう。助かるよ」


「どう、いたしましてぇ……はわぁ」


 おい。受付嬢さんが女の顔をしてるんだけど。

 はわぁゆうてるやないかい。

 さっきまで小悪魔風だったのに、今や少女マンガの主人公じゃないか。

 取らないでくれない? 取らないでくれない?

 後もう少しでデートの約束出来そうだったのに。


「ふむ、こんなものか。お嬢さん、確認してくれ」


「は、はひ……剣術スキル、乗馬スキル、初級魔法まで……あの、貴方が勇者様なのですか?」


「いや、私ではないよ」


「……では、私だけの勇者様に……ぁ、いえ、何でもありません……」


 受付嬢さーん。

 こっちも書類書きましたよー。

 本物の勇者ですよー。


「あ、はい。承りました。お二人とも初めてという事なので、詳しいご説明をいたしましょうか?」


 二人とも、っていってるのにこっちは全く見ないね、君。

 視線がフィロさんに行きっぱなしだよ?


「大体分かるのでけっこーでーす」


 ふんだ。なんだいなんだい。

 どいつもこいつもフィロさんばっかり。

 どうせ俺は勇者っぽくないですよーだ。


「あの、でしたらフィロ様だけでも……」


「いや、連れが必要ないと言うのなら、必要ないのだろう。困った時に都度頼らせて貰うよ」


「そうですか……」


 しょぼーんってしちゃった。え? 何? 俺が悪いの?

 あーはいはい。俺が悪いですよー。

 魔王が人間にいたずらするのも、世界から戦争が無くならないのも、地球温暖化だって俺のせいですよー。

 ぺっぺっ。


「では、冒険者カードが出来るまで少々お待ち下さい。冒険者カードはクエストを受けるときや、ランクの昇格の際に必要となりますので、くれぐれも無くさないようにご注意下さい」


 はいはい。分かりましたー。

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