第21話 勇者ではなく詐欺師ではないのか?

「ミユキ。朝だぞ。起きろ」


 フィロさんの声で目が覚める。

 布団から顔だけ出してそちらを見ると、男装ではない、シンプルな服に着替えたフィロさんが立っている。

 こうやって見ると、改めて男装の技術が凄かったことが分かる。どこからどう見ても男だったもんなぁ。

 今はどこから見ても美女だ。

 こんな美女と一つ屋根の下かー。


「ぐへへへへ」


「なんだその気味の悪い声は。早く起きろ」


 ……はぁ。

 せっかく見た目は良いのにしゃべり方がこれだと萎えちゃうよ。

 朝の俺様のいきり立ったものさえ萎えちゃうよ。ナニがとは言わないけど。


「勇者様はこれからの活動のためにもう少し寝るんですー。しっしっ。フィロさんは女性らしい歩き方とか練習しといてくださーい」


 俺は勇者なの。つまりチヤホヤされてしかるべき存在なの。


「おい奴隷勇者。起きろ」


 奴隷勇者って……

 新ジャンル過ぎて受け入れられないわ。て言うか俺か。


「装備を整えて魔王を退治しに行くのだろ? はやく起きろ」


「はぁー?」


 何言ってるんですかねこの人。


「魔王なんて倒せるわけ無いじゃないですか。おとぎ話の読みすぎですよ。あーやだやだ。妄想と現実の区別はちゃんとつけなくちゃいけませんよー」


「はぁ!? お前、王の前で魔王を倒せると言っていたではないか! あれは嘘だったのか!?」


「嘘なんて言ってないですよ。人聞きの悪い」


「だったら倒せるのだろう!? その準備をするのではないのか!?」


 もー。ちゃんと俺の言ったこと聞いてた?


「俺は『今のままだと不可能です。いずれ強力なスキルが手に入れば可能です』って言ったんですけど?」


「あ、あぁ。つまり訓練して強力なスキルを得て、魔王を倒すのだろう?」


「誰も訓練するなんて言ってないじゃないですか。そのうち良いスキルが手には入れば魔王を倒せる可能性が生まれるってだけで。そもそも倒しに行くなんて一言も言ってないし」


「なっ……」


 フィロさんが絶句する。

 真面目な人は頭が固いねぇ。


「お前……王を騙したのか!?」


「そんなおそれ多いこと出来ませんよ。ただ、俺がちょっと言葉足らずだったのが原因で、王様が勘違いしてしまった可能性はありますけどね」


 会話って難しいねー。


「こ……この、駄目勇者が!」


 おーおー。変態勇者だの奴隷勇者だの駄目勇者だの酷いこと。


「まぁまぁ、そういきり立たないで下さい。俺だって良いスキルが手に入れば魔王討伐も考えますって。でも良いスキルを手に入れるにはガチャをする必要があって、ガチャは1日1度しか出来ないから、あとは時間が過ぎるのを待つしかないんですよ。オーケー?」


「オーケーじゃない! では何日待てば良いスキルが手に入るんだ!?」


「分かるわけないじゃないですか。望んで良いスキルが手に入るなら最初から手に入れてますって」


 ガチャはランダムだから楽しいの。

 強いスキルが簡単に手に入ってちゃ面白くないでしょうが。


「よし、じゃあその『ガチャ』とやらをはやくしろ。今日はまだやっていないのだろう?」


「えー、見てるんですか?」


「ああ、減るものでもないのだろう?」


「現在進行形で俺の睡眠時間が減ってるんですが……はぁ。仕方ありませんねぇ。ガチャ」


『上書きするスキルを選択してください』


 ストロングアイで。


 上書きするスキルを選択すると、紫色の光が放たれる。

 お、Bランクだったかな?


『Bランクスキル。(剣術)、を会得しました』


 おー、何か良さげなものゲット。


「どんなスキルを会得したんだ?」


「……寝れば寝るほど強くなるスキルです。じゃあおやすみなさい」


「嘘を言うな!」


 もーなんなのさ。


「何で嘘って分かるんですかー?」


「私は嘘を見抜くスキルを持っていると言っただろうが」


「……あ」


 そうでした。忘れてました。


「それで何のスキルを手にいれたんだ?」


 剣術っていうとめんどくさそうだな……


「視力が良くなるスキルです。うーん、残念。外れスキルなので明日に期待ですね。ではおやすみなさい」


 会得したのは昨日でもう消えちゃったけど、手に入れたスキルであることには間違いない。


「まて」


 もーめんどくさいなぁ。

 嘘はついてないんですけどー。


「もう一度聞こう。お前は、今日、今さっき、ガチャと言う能力で、何という名前の、どんなスキルを手に入れたんだ?」


「……」


「答えろ」


「剣術スキルって言う、多分剣の扱いが上手くなるスキルを手に入れましたー」


 くっそ。疑い深くなってきやがった。


「お前は……呼吸をするように人を騙すんだな……勇者ではなく詐欺師なのではないか?」


 失敬な。今まで法を犯した事など一回もないというのに。


「まぁいい。剣術スキルなんて素晴らしいではないか。魔王討伐にはもってこいだ。よし、今から少し手合わせしてみよう」


 えーめんどくさいなぁ。

 せっかく美人になったんだから、騎士キャラはやめてほしい。

 優しいお姉さんキャラにならないかなぁ。


「ほら、そうと決まればさっさと着替えて庭に行くぞ。ほらはやく」


 くそ……せめて脳内で美人お姉さまに変換してやる。


「『ほーら、男の子がいつまでもダラけてちゃ駄目だぞっ。ミユキ君の剣捌き、早く見たいなぁー。ね? いこ?』


はっはっは。フィローリアはせっかちだなぁ。仕方ない、いっちょやるか」


「……一人で何を言っている?気持ち悪い。はやく行くぞ」


 はぁ。ぶち壊しだよ全く。

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