第19話 貴女に最敬礼を捧げます
「近こう寄れ」
「はっ! 有りがたき幸せ!」
え? なに? 何で急に武士みたいになってるの?
ミミットとフィロさんは王の前3メートルほどの所まで進みひさまずく。
俺も遅れてなるものかと真似をする。
どうだい? この完璧な土下座。
礼儀に関してはジャパニーズに勝てる民族はおらへんやろ?
(おいっ! ミユキっ! 何をしてる!)
(フィロさん、謁見中だから私語はだめですよ? 全くなってないんだから……)
(阿呆! 私の真似をしろ! 両膝を着くのは女性だけだ!)
チラりとフィロさんを見ると片膝だけを着いていた。
騎士だからじゃなくて男はみんなそのポーズなのね。
なに食わぬ顔でスッと片膝を立てる。
「ブフッ」
女王様が吹き出しました。
人の失敗を笑うのは失礼ですよ?
「いや、すまない。てっきり勇者との謁見だと思っていたのだが、まさか道化を連れてくるとは。一本とられた。ミミット、褒美をやろう」
「いえ、その……申し訳ありません」
「さて、余興はもう良い。して、召喚した勇者とやらは何処におるのじゃ?」
王様はわざとらしくキョロキョロと見渡す。
分かっててやってるだろ。性格悪いなぁ。
「この道化が、勇者にございます……」
「ほう。この道化が勇者とな。魔王を笑い殺すつもりか?」
「いえ……申し訳ありません……」
ミミットが謝り倒している。
こんなに小さな子を苛めるなんてかわいそうにでしょうが。
抗議の意を込めて王様を見ると、バッチリ目が合いました。
「冗談じゃ。して勇者とやら、名を何という」
喋って良いものかとフィロさんを見ると小さく頷いてくれた。
OKということだろう。
「お初お目にかかります。私は神宮深雪(じんぐう みゆき)と申します」
「なるほど。しかし余は勇者というものは髪も瞳も真っ黒だと聞いておったのだが、お主の頭髪は茶色ではないか?瞳は小さすぎてここからは見えんしの」
目がちっちゃいって言いたいんですか?失礼な。
「王、発言をお許しください」
「許す」
「有りがたき幸せ。私は騎士のフィロ・シュヴァリエと申します。このミユキは、本来の髪色は漆黒ですが、茶色に染め上げているのです」
「黒髪をわざわざ……何故じゃ?」
「それは……」
「ファッションです」
「ふぁっ?」
ふぁっ? じゃないよ。ファッションだよ。
「私が居た国では、黒い頭髪の人間ばかりでした。そのため少しでも目立とうと、頭髪を茶色に染め上げておりました」
「ほう。珍妙な国もあるものだ」
俺にとっちゃこの世界の方がよっぽど珍妙なんですけどね。
「しかし、主の瞳の色がここからでは見えん。もっと近こう寄れ」
「王、これ以上は」
王様の横に控える騎士が難色を示す。
ん?この騎士なんか見覚えがあるような……
牢屋にいるときに会ったかな?
「何、心配いらぬ。見よ、あの府抜けた顔と無防備な姿を。何を心配することがある」
「しかし」
「二度言わせるな」
「はっ!」
王様がこっちゃ来いと手招きをするので、恐る恐る立ち上がり近寄る。
うおっ! 圧がすげぇ! 圧が!
大人気アイドルの握手会に行った時みたいな感じがする!
オーラ? カリスマ? そんなのが溢れてるんですけどっ!
1メートルほど離れたところで止まる。
「何をしている? お主のミジンコのような小さな目はもっと寄らぬと見えぬではないか」
うるせいやい! 蟻んこくらいの大きさはあるやい!
もう一歩進んだところで、王様が急に俺の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
大きな目がまじまじと覗き込んでくる。
こわいこわいこわいこわい。
王様めっちゃ美人だけど怖い!
いや、美人だから怖い!
「ほう……確かに黒い瞳をしておるのぅ」
「お、王様は大変お美しくございます」
「知っておる」
ポイっとぞんざいに投げ捨てられる。
ひー、こわやこわや。
権力のある人間はこわいねぇ。
さっきよりも若干フィロさん寄りの場所で方膝を着く。
何かあったら守ってね。
「髪も瞳も黒なのは分かった。して勇者よ。お主は何が出来る?」
「1日に1度、何かしらのスキルを会得することが可能です」
「ほう? 珍妙な能力じゃ。ではそれを使ってみぃ」
「かしこまりました。……ガチャ」
『上書きするスキルを選択してください』
昨日会得したブリーズ(そよ風を起こすスキル)で良いや。
いいの来い! いいの来い! いいの来いー!
『Fランクスキル、(ストロングアイ:視力が良くなる能力)、を会得しました』
いらねえぇぇぇぇぇ!
何でこういうときばっかり予感が当たるんだよ!
うおー! 王様のご尊顔がはっきりと見える! 皺はありませんでしたっ!
「ほう。今の手が光ったのがお主の能力か。して、どんなスキルを会得したのじゃ?」
「それは……」
目が良くなりましたーアハハー。って、言えるわけねぇ!
えっと、えっと、何かないか、何か……
(シースルー)
部屋を透視する。
「……玉座の裏に一人、屋根上に一人」
王様がピクリと反応する。
「扉の外に二人。以上です」
「ほう。何故分かった」
俺が言ったのは、多分王様を隠れて守る影のもの的な存在だ。
シースルーするまで全然分からなかった。
「私が会得したスキルは、『視る』スキルをでした」
今会得したすぎる、とは言ってないから嘘じゃない。
「なるほど、気配を見れるのか。なかなか面白いスキルじゃ」
「ありがとうございます」
「して、そのスキルで魔王を倒せるのか?」
「今のままでは不可能でございます。しかし、いずれ強力なスキルを得た後には可能かと」
スキルホルダー(大)とか取って、不死身スキルとかめっちゃすごい魔法とか会得できたらね。
何年後になるか分からないけど。
「なるほど。毎日どのようなスキルが出るか見物じゃな。よし、ミユキ。余に隷属せよ。奴隷商を連れてくるのじゃ」
「そ、それは……」
王様の言葉にフィロさんがうろたえる。
私の奴隷を奪わないでっ! てか?
可愛いところあるじゃん。
「不都合があるのか?」
「た、大変申し上げ憎いのですが、手違いで、その、現在私の奴隷となっておりまして……」
王様の目が丸くなる。
「なんと……勇者を奴隷にしたと申すのか」
「申し訳ございません! その、直ちに隷属契約を解除して参りますので、暫しお待ちを!」
「よい、よい。くくくく。お主らは良く笑わせてくれる」
王様が肩を揺らして笑っている。
そんなに面白かったか?
「勇者は髪を茶に染め、騎士は勇者を奴隷にするか……くくくく、面白い。ミユキ、魔王を倒す準備が出来たら報告に来い」
「かしこまりました」
「お主のような腑抜けに魔王が倒せるとは思えぬがな。いやしかし、これだけ笑わせてもらえれば勇者召喚の儀を行った甲斐があったと言うものじゃ。下がってよいぞ」
「はっ!」
ふん、偉そうにしちゃって。
帰り際に振り向いて、
(シースルー)
さてさて、偉そうな王様は何色ですかねー?
お前のパンツは何色だー!?なんちゃって。
……えっ?
「履いて……ない……?」
「ほう」
王様がこちらを見て不適に笑う。
「ミユキよ、開放的なのは良いぞ?」
気づかれた!? いや、感が恐ろしく良いのか!?
そして見られたにも関わらず、あの堂々とした振舞い。
これが、これが王か……勝てない……
俺はもう一度王の方を向いて片膝をつき頭を垂れる。
ノーパン女王様。貴女に、最敬礼を捧げます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。