第18話 まるで女みたいに女々しいですよ?
「おい、早く起きろ」
フィロさんに小突かれて目が覚める。
部屋はフィロさんの隣の空き部屋を借りてます。
いやー、広くて快適ですなぁ。
奴隷にしては破格の待遇かもしれないな。
「おはようございますフィロさん」
「主人より遅く起きる奴隷がいるものか。さっさと起きて準備しろ」
ここ最近いつも朝起きて吐いていたくせに、ちょっと元気になるとこうですわ。
昨日も飲ませておけば良かった。
「王様の予定はまだわからないんですよね? なら予定が決まってから準備すればいいんじゃないですか? 大体今日予定が合うかもわからないのに」
「阿呆。王は多忙でいつ予定が開くかなどわかるものか。それに王を一秒でも待たせるなんてことがあってはならない。準備して城に控えておくぞ」
えー……なんて非効率な……
大企業の社長への接待見たいで嫌だなぁ。
でも王様だから社長なんかよりもえらいか。
「ほら、さっさと起きろ。クローゼットに父が昔使っていた服があるから合いそうなものを着て来い」
「うぃーっす」
もそもそとベッドから這い出る。
それでは毎朝恒例のガチャを……
「あ、今日はやっちゃダメなのか。うーん、もどかしい」
王の御膳で披露っていっても、良いスキルが出るとは限らないんだよなぁ。
視力が良くなるスキルとか出たらどうしよう。
王の顔のシワでも数えてやればいいのかな。
まぁなるようになるかー。
衣装部屋に行き、着られそうな服を探す。
一番シンプルで目立たない服を選ぶ。
ごてごてしたやつは流石に恥ずかしいからな。
「お、それにしたのか。シンプルで良いな。お前の平凡な顔と良く合う」
美人お姉さまはイケメン騎士へとフォームチェンジしてました。
肌を見ると、浅黒く見えるように化粧も施している。徹底してるなぁ。
「ほら、早く食べて出発するぞ」
ダイニングのテーブルの上にはトーストとベーコンエッグ。
「まったく。主人に朝食を作らせるとはとんだ奴隷もいたもんだ」
「フィロさん面倒見が良いから騎士なんかより家政婦とかの方が向いているんじゃないんですかねー?」
「うるさい。私は騎士なのだ」
きひらんら!
「て言うか良いんですかねー」
「何がだ」
「国がお金をかけてやっと召喚した勇者様を奴隷にしちゃったんですよね? いやー、怒られると思いますけどねぇー?」
「……おい、今から契約を解除しに行くぞ」
「あれ? 急がなくて良いんですか? 王を待たせるなんてこと一秒でもあってはならないんですよねー?」
「ぐっ……くそっ。もし何か問われたらその時に何とかする。あまり手の甲が見えないように振る舞ってくれ」
「王様の前でポケットに手を突っ込んでれば良いんですか? いやー、無礼すぎて俺には出来ませんよー。武器を隠し持ってると思われたらどうするんですかー?」
「うぅ……出来る限りでいいから。頼む」
「はいはい、仕方無いですねー。困ったご主人様だこと」
「ぐっ… …」
さて、フィロさんをからかうのもこのくらいにしておきますか。
「良いか? お前は真面目に、誠実に振る舞うことだけ考えろ。礼儀は知っているようだから、変なことさえしなければ大丈夫なはずだ。今の王は小さいことは気にしない素晴らしい人間だから問題ないとは思うが、くれぐれも無礼な行いはするんじゃないぞ」
城に向かう道中、フィロさんは何度も念を押してくる。
五回目くらいなんですけど、その忠告。
「分かりましたってば。男だったらドンと構えててくださいよ。まるで女みたいに女々しいですよ?」
「だからそう言うことを言うから不安になるのだ! いいな! 絶対に余計な事を言うなよ! なんなら何もしゃべらずに頷く程度で良い!」
「それじゃつまらないじゃないですか」
「面白くする必要性が無いんだ!」
フィロさんってばソワソワしちゃって。遠足前の小学生じゃないんだから。
城のそばまで来ると、門の前で小さい子がこちらに手を降っているのが見えた。
「フィロ、ミユキ。大変だ。王に勇者の件を伝えたのだが、今すぐに会いたいと仰られている。急ぐぞ」
小さい女の子はミミットでした。
15歳っていってたけど、本当は12歳くらいなんじゃないの?
ミミット、フィロさんに続いて城の廊下を走る。
王様どれだけせっかちなの?
まだ心の準備出来てないんだけどなぁ。
しばらく歩くとひときわ大きく豪勢な扉にたどり着く。
ミミットさんは扉の前にいる兵士と一言二言話すとこちらを振り向いて言う。
「王はすでに謁見の間にてお待ちのようだ。王を待たせるわけには行かない。ボクたちも中に入ろう」
えー、心の準備が全然出来ていないんですが……
ミミットのノックの音が響き渡る。
「宮廷魔術師のミミット、先日行った勇者召喚の儀にて召喚した勇者と、その勇者の発見者を連れて参りました! 誠に恐縮ではございますが、謁見の許可をよろしくおねがいいたします」
「入れ」
あまり大きくないが凛とした声がミミットに答える。
「失礼致します!」
ミミットが大きな扉を開け、中の様子が少しずつ見えてくる。
ちょっと緊張するんですけど。
大きく開かれた扉の先、長く続く赤いカーペットの先の豪華な椅子に、王が座っておりました。
「まじか、めっちゃ美人じゃん」
この国の王様はおじいさんではなく、とてつもない美女でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。