第15話 憲兵さんはあちらですよ?

 それでは恒例のガチャの時間、なんだけど……


「どのスキルを上書きしようかな」


 今持っているスキルは

・スキルホルダー(小)

・ホーミーマスター

・異世界言語

・シースルー

 の4つ


 スキルホルダーは絶対に上書きする訳には行かない。

 シースルーもAランクスキルだし、絶対に必要なものだ。

 何のためにとは言わないが必要なものだ。異論は認めない!


 異世界言語と、ホーミーマスター。

 どちらを上書きするか。

 悩む。悩むが、答えは決まっているのだ。


「ごめんよ、ホーミーマスター……」


 今までで一番使ったスキルだ。

 悲しいとき、寂しいとき、ホーミーのお陰で乗り越えることが出来た。

 君がいてくれたから、今の俺がいるんだ。

 ありがとう。本当にありがとう。

 いつかまたきっと会えるから。

 その時まで、お別れだよ。


「……ガチャ」


『上書きするスキルを選択してください』


「……ホーミーマスターで」


『Eランクスキル、(ウォーターガン)、を会得しました』


 俺のホーミーマスターは、呆気なく消えていった。


「……ウィーーウィーー」


 出来損ないのホーミーが、虚しく屋敷に響いた。


 ……さて

 新たなスキルはウォーターガンですか。

 Eランクスキルだから大したことはなさそうだけど、出来ればこの世界にきた1日目に会得したかったなぁ。


 指を鉄砲の形にして、


「ピュー」


 ピュー


 水が出ました。うんまぁ、要らないね。

 さて、しかし困ったことがある。

 次に素晴らしいスキルを手に入れてしまった場合、その次のガチャをどうするかだ。

 異世界言語とシースルーはどうしても手放したくないが……

 最悪、異世界言語を上書きしてこの世界の言葉を自力で覚える必要がある。


「英語もまともに覚えられなかったのに? ムリムリ」


 というわけで出来ることは運任せ。

 スキルホルダー(中)以上が出ることを祈るしかない。


「ま、レアスキルが出ちゃったらその時に考えましょ」


 さて、今日もお仕事頑張りますか。

 昨晩使った食器を片して、お布団を畳んで、ちょっと汚れてしまったお手洗いをお掃除。

 洗濯は……とりあえず自分のだけしておこう。

 後はダイニングとキッチンを掃除してっと。


「ふぅ。もう昼過ぎか。主夫も楽じゃないわねぇ」


 主夫じゃなくて奴隷だけど。

 夕飯の買い出しも兼ねて、またぶらつきに行きますかねー。




 露店の立ち並ぶ目抜通りを歩く。

 活気に溢れてていいねぇ。


「ようにいちゃん! 今日も仕事もせずフラフラしてんのかい!?」


 焼き鳥屋のおっちゃんに話しかけられる。


「今休憩時間なんすよ。焼き鳥ふたつ!」


「あいよぉ!」


 焼き鳥旨いんだよなぁ。


「ようにいちゃん! 今日も仕事もせずフラフラしてんのかい!?」


 キンキン屋のおっちゃんに話しかけられる。


「だーかーら、休憩時間だっての。キンキン一杯!」


「あいよぅ!」


「ねぇおっちゃん。広場の裁判って毎日やってんの?」


「いや、罪を犯した奴がいるときだけだ。ミミットちゃんが罪を認めてないって話みたいだから、また見れると思うぞ」


「サンキューおっちゃん」


 焼き鳥とキンキンを手に持ち広場へと向かう。

 昨日より時間が早いからか、人はまだまばらだ。

 うーん。キンキンもう一杯買っとけば良かったかな?

 裁判が始まるまでに全部飲んじゃいそうだ。

 でも、キンキンはキンキンに冷えていてこそのキンキン。

 キンキンに冷えてないキンキンはキンキンじゃないからなぁ。


「やぁ。君も裁判を見に来たのかい」


 高台が一番よく見える場所でキンキン片手に悩んでいると、怪しい男に声をかけられる。

 どう怪しいかと言うと、マスカレードマスクをして、黒いマントをたなびかせ、手には杖を持っている。そのくらい怪しい。

 怪しすぎて逆に怪しくないまである。


「えぇ。丁度仕事が一段落付いたので。貴方は何者ですか?」


「見ての通りだが?」


 なるほど。


「変質者さんでしたか。憲兵さんはあちらですよ?」


「はっはっは! 面白い冗談だ!」


 いや、冗談はあんたの存在ですけど。


「どうだい? お近づきのしるしに。キンキンでは裁判までに温くなってしまうだろう。キンキンはキンキンの内に飲んでしまって、こっちのウィスキーを一緒にどうかね?」


「ゴチになりまーす!」


「はっはっは! 素直なのは良いことだ!」


 二人で床に座りお酒をたしなむ。

 昼間から飲む酒は最高だねぇ!


「ところで変質者さんは何者なのでしょうか?」


「変質者ではない。私は冒険者だ。時にモンスターを倒し、時に貴重な薬草を取りに行き、時に町の人のお手伝いだってする、さすらいの冒険者リヒターである」


 へー。冒険者ってもっと筋骨隆々で荒くれものみたいなの想像してたよ。

 変質者寄りの仕事なのか。


「俺はミユキです。時に掃除をし、時に買い物に行き、時に料理を作る使用人兼奴隷です」


「使用人兼奴隷であるならば、時にではなく毎日やりたまえ」


 なるほど確かに。


「しかし、使用人兼奴隷であるにもかかわらず昼間からこんなところで酒を呷るなど、主人には怒られないのかい?」


「ご主人様は優しい方なので。まぁ一応それなりに仕事してますし。さすらいの冒険者さんこそこんなところで酒を飲んでていいんです?」


「冒険者とは自由であるから冒険者なのだ! 好きな時に働き、好きな時に酒を飲む! これぞ冒険者の特権!」


 おお! なんて良い職業なのだ!


「そして好きな時に酒を奢る訳ですね。旦那っ! 流石っす!」


「はっはっは! 気分がいい! 好きなだけ飲むが良い!」


「いよぉ! 太っ腹!」


 いやぁ、良い出会いをした。

 何よりただ酒出来てラッキー。


「静かに! 今日の裁判を行う!」


 昨日と同じくミミットという少女が高台に上がらされる。


「この者は勇者召喚の儀に失敗しておきながら、未だに罪を認めていない! 市民の大切な血税を使い込んでいるのにだ! この者の罪を君たちに決めてもらいたい!」


「違う! ボクは失敗していない! 本当なんだ! 本当に……」


「黙れ!」


 ドンッ


「ひぅっ」


 ここからの流れは昨日と同じだった。


 市民(おっさん)が叫ぶ。

 ち! じょ! く! 

 ち! じょ! く!

 ち! じょ! く!


 ミミットがスカートを捲る。

 うおおおぉぉぉぉ!

 兎さーーん!


 そしてミミットが泣く。


「ふえぇぇぇぇ!」


「いやー。良いものを見せてもらったのである」


 リヒターさんが高台でうずくまるミミットを観ながら言う。


「素晴らしいシステムですよね。市民の溜飲が降り、国はより良くなる。この制度を考えたお方は天才ですね」


「本当であるな! ではサボり魔のミユキ、またいずれ会おう!」


「変質者のリヒターさんもお元気で」


 さてさて、今日も良いものが見れたので帰ってご飯でも作りましょうかね。

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