第14話 全部吐いて楽になってください

 朝。

 隣から聞こえるうなり声で目が覚める。

 久々の布団! ぐっすり眠れたなぁ!


「おい……お前……」


「はい? なんですかフィロさん」


 うなり声の正体は近くに転がっているご主人様である。


「お前……やはり毒を盛った……のか……」


「そんな訳無いじゃないですか。俺は何もしてないですよ。大体毒を盛るっていったって、昨晩は同じもの食べてたじゃないですか」


「じゃあ、なんだというのだ……この頭の痛さと、胸の気持ち悪さは……」


 あー。昨日飲み過ぎてたもんねぇ。

 お酒はほどほどにしないと。

 そしてちゃんと水分とらないとだめだよ?


「二日酔いですよ、二日酔い。ちょっと飲み物持ってきますから、ゆっくりしててください。全く情けない騎士様だこと」


「なんだと? ……叩き切ってや」


「え!? なんですか!? 聞こえません! 大きな声じゃないと! 聞こえません!」


 フィロさんの言葉をさえぎって大声を出してやる。


「や、やめろぉ……大声を出すな……頭がぐわんぐわんする……」


「なんですか!? 叩き切るんですか!? お水持ってきてあげませんよお!?」


「すまない……私が悪かった……」


「全く、仕方ないですねぇ」


 台所に行き、グラスに水と蜂蜜、レモン果汁を入れてよくかき混ぜる。

 なんて優しいんだ。

 暴言ご主人様にここまで尽くすなんて、シンデレラ並の健気さだよ。


「はい。レモン水ですよ。ゆっくり水分をとってください」


「すまない」


 フィロさんはレモン水を飲んで少し落ち着いたご様子。

 布団を確認するが、ゲロらしき物はない。

 麗しの男装騎士が寝ゲロとか、あってはならないからね。

 まぁ、そういうのに興奮する変態も日本には多少なりともいる気はするけど。


「二日酔いというのは、こんなに辛いものなのだな……騎士の連中が二日酔いになったと言っているが、こんな苦痛によく耐えられるものだ。精神が強いのだな」


 いえ、どちらかというと精神が弱いから飲み過ぎて二日酔いになるんです。


「今日は仕事休みますか?」


 騎士の仕事が何なのか知らないけど。


「バカを言うな。騎士が酒なんぞに負けて良いものか」


 完敗してますけど。乾杯はしなかったのに。


「じゃあ熱いお湯でも頭から浴びてスッキリしてきてください。汗をかくと多少楽になると思いますよ」


「分かった。行ってくる」


 フラフラと立ち上がったフィロさんは、風呂場へと向かい……隣のトイレへと入っていった。


「オウッ……ォウエッ……はぁ、はぁ、ォッ、エゥッ……」


 あー、二日目に吐いちゃうタイプですか。

 コンコン。


「大丈夫ですかー?」


「大丈夫……らない……」


「吐きたいのに吐けない感じですかー?」


「そ、そうら……」


「口に指突っ込んで、舌の奥を押さえると吐けますよー」


 サークルで得た知識がまたもや役に立った。


「オオオ、オウッ……エゥッ……」


「吐けませんかー? 俺がやってあげましょうかー?」


「そんな侮辱ぶじょく……受け入れられるか……」


 はぁ、なら頑張って下さいね。


 三分後。


「す、すまない……吐かせてくれ……」


 堕ちるまで早かったな。

 高級カップ麺でも五分は耐えるぞ。


「はいはい。じゃあ入りますよ?」


 女性とトイレにいるというのに、色っぽい雰囲気が皆無だなぁ。


「はじめてだから……優しくしてくれ」


「大丈夫ですよ。慣れてますから」


「経験が……豊富なんだな」


「じゃあ、いれますよ」


「……頼む」


 俺はピンと立ったモノを、フィロさんの暖かく湿った所へとゆっくり入れる。

 粘膜が絡み付く。柔らかく温かい肉がまとわりつく。


「ぁっ……」


 フィロさんが小さくあえぐが、俺は構わず奥まで突っ込んだ。

 ビクンと身体が跳ねる。

 それでも俺は許してあげない。

 フィロさんの一番奥の敏感なところを、何度も何度も突いてやる。


「ひゅまらい……ひきほうら……」


 フィロさんは上気した顔で、懇願こんがんするようにこちらを見る。


「いいですよ。たくさん、イッてください」


 フィロさんは俺の言葉に、ブルブルと身体を震わせた後、


「お、ォウエッ! ヴぇッ! オロロロロッ! オロロロロロロロ!」


 盛大に吐いた。

 あー。手の甲をゲロが流れる感覚。

 何度やっても慣れねぇなぁ。


「しゅばない……ほんどうに……しゅばない……」


 俺は汚れていない方の手でフィロさんの背中をポンポンと叩く。


「大丈夫ですよ。大丈夫です。辛かったんですね、苦しかったんですね。全部吐いて、楽になってください」


 もう一度舌の奥をグッと押さえる。


「オオウェッ! ヴォッ! オロロロロ!」


 残ってると気持ち悪いからね。頑張れフィロさん。




 手をしっかり洗ってリンゴを剥いているとフィロさんがシャワーから帰って来た。

 うんうん。さっぱりしたね。


「……」


「はい、リンゴです。ゆっくり食べてください。今日は消化に悪いものは控えてくださいね」


「……食欲がない」


「ちょっとずつで良いですから食べてください。水分とビタミンと糖質とっておかないとだめですよ」


 フィロさんは小さくシャクリとリンゴをかじり、必要以上にモグモグと噛む。

 小動物ですかあんたは。


「あの……あ……ありが、とう」


「はいはいどういたしまして。俺は奴隷なんですから当然ですよ」


「……そうか」


「落ち着いたら着替えてお仕事に行ってくださいね。でも無理はしないように。疲れたら休んでください」


「分かった」


 あらまぁ素直になっちゃって。

 まぁ飲みすぎたときに介抱してあげると、大体の奴は素直になるからね。

 後輩を従えたい時は、じゃんじゃん飲ませてから介抱すると良い。


 しばらくチビチビとリンゴを食べていたフィロさんは、大分落ち着いたのかいつもの男装騎士の姿に着替えてきた。


「ふぅ。大分楽になった。では行ってくる」


「はい。何かしておいてほしいことはありますか?」


「いや、特にない。夕飯には戻る。必要だったら使え」


 フィロさんから五千ベル貰う。


「ではご飯を作ってまってますからね。行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 エプロンで手を拭きながらフィロさんを見送る。

 まぁ、足取りはしっかりしているから大丈夫だろう。


「……って新妻かよっ!」


 俺の突っ込みは広い屋敷の中に吸い込まれ消えていった。

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