第8話 久々のシャバの光だぜ
バァンという扉の開く激しい音と共に、男装騎士が荒い足取りでやって来る。
何をそんなに怒ってらっしゃるのですか?
「おい! お前!」
「はい、何でしょう」
「お前が言ったことをジーク隊長に伝えたら、私が頭のおかしい人扱いされたじゃないか! 頭がおかしいのはお前なのに! お前なのに!」
肩を
痛い痛い! 壁にぶつかって痛い!
「意味のわからない国からきた意味のわからない民謡を歌うお前のせいで! 私が頭のおかしい人扱いされてるんだぞ! あやまれ!」
「あの、私が来た国は日本で、民謡はモンゴルという国のものなので、そこはちゃんと覚えてくれないと……」
「知るか知るか知るか! あやまれ! あやまれぇー!」
「ご、ごめんなさい……」
「許すかぁ!」
ど、どうしろと……
「はぁ……はぁ……くそっ。お前なんて拾わなければ良かった……
「あの、女性があまり汚い言葉を使うのは良くないかと……」
「うるさい! 私は男だ!」
あっ、はい。
「くそっ、お前が敵国のスパイなら
「いえ、私は迷ってこの国にたどり着いた
「それじゃ殺せないだろうがぁぁ!」
男装騎士はガックリと
いや、殺されると困るんで……
「なぁ、私はお前をどうすれば良いんだ? 一体どうすればいいんだ?」
「とりあえず、牢屋から出して自由にしていただけたらと……」
「私の秘密を知っている者を野放しにできるか!」
「え、だって自分のせいで女だってばれたんじゃ……」
「うるさい!」
あかん。ヒステリックになってしまっている。
「おーおー、何を叫んでるんだ? フィロ隊員さんよぉ」
ツカツカと歩いてきたのは、ゴリラ騎士だ。
「はっ、ジーク隊長殿! この怪しい者に尋問をしておりました!」
先程までの乱れっぷりはどこへやら。
フィロさんとやらはピッと背筋を伸ばして敬礼している。切り替えの早いこと。
「こいつが例のニホンとやらから来たという、頭のおかしい奴か」
「はっ、その通りであります」
「どれどれぇ?
ジーク隊長とやらは俺の顔をマジマジと見てくる。
やめて、男に見られる趣味はないのあたし。
「そこら辺にほっぽりだしゃいいんじゃねぇの? どうみても敵国のスパイって顔じゃねぇだろ。筋肉もねぇし顔にしまりもねぇ。
「しかし、怪しいことには変わりありません」
「あー、じゃあお前の
「はい。ひとまずそのようにしようかと。もしこやつの頭が正常に戻ったら、そのときに改めて処遇を決めたいと思います」
「そうしろそうしろ。おいお前。おい、軟弱そうな頭のおかしいお前だよ。名前は何て言う」
あ、俺ですか。
「ミユキっていいます。これからよろしくお願いします」
「そうか、ミユキか。せいぜいこのフィロ坊っちゃんにへこへこして恩でも打っておくんだな。運が良ければ犬小屋でも買ってもらえるだろうよ」
「あ、はい。がんばります」
「……。張り合いのねぇやつだなぁ」
いやだってジーク隊長ムキムキマッチョマンだもん。口答えなんて出来ないってば。
「それじゃ、俺は仕事に戻る。この頭のおかしいガキはお前がなんとかしとけ」
「はっ! 了解であります!」
ジーク隊長は手をヒラヒラと振りながら去っていった。
「おい、ミユキ」
「何でしょうかフィロさん」
「とりあえずお前の
「了解であります」
「くれぐれも変な気を起こすなよ?私は力こそ無いがスピードには自信がある。
「はーい」
「くそっ。緊張感の無い奴め」
首に剣を突きつけられてる訳じゃないから、そんなに緊張なんてしませんてば。
歩き出したフィロさんとやらの後について行く。
おそらく
実に10日ぶりの太陽である。
「あー、やっぱり太陽はいいねぇ。このまま地下牢にいたらナメクジになっちゃってたよ。久々のシャバの光だぜぇ」
「何を訳のわからないことを……こっちだ」
男装騎士ことフィロさんに着いて街を歩く。
俺の服装が珍しいのかチラチラこちらを見てくる人はいるけど、石を投げられる様なことはない。
良かったー。とりあえず表向きの治安は良さそうだ。
ファンタジー小説だと、亜人が奴隷としてひどい扱いをされていたり、エルフが高値でバイバイされてたりするけど、そんなことはなさそうだ。
奴隷制度とか無いみたいだね。
うんうん、人類みな兄弟。仲良きことは美しきかな。
「着いたぞ」
フィロさんの言葉に、目の前の建物の看板を見上げる。
『奴隷専門店』
……
あのー、人類、皆兄弟ですよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。