第5話 こら、見ちゃいけません

「はぁ……はぁ……やっととまった……」


 あんなに遠く見えた城門にあっという間についてしまった。

 路上高速サーフィンなんて二度とごめんである。

 イケメン騎士は涼しい顔が門番らしき人と会話をしているので、抗議こうぎの意を込めてロープをクイッと引いてみた。

 めんどくさそうな顔で一瞥いちべつされました。


 しばらくの会話の後、イケメンがクイクイっとロープを引っ張ってくる。

 立てと言うことだろうか。

 やなこった。こうなったら最後まで路上サーフィンしてやる。

 流石に町中を爆走することはないだろうし。

 ……しないよね?


 板の上からかたくなに動かない俺を見てため息を着いた後、今度はゆっくりと進み出した。


 城壁から街に入ると、太い道が真っ直ぐと大きなお城へと延びている。

 左右には大小様々な建物が立っており、露店ろてんもたくさんあり、活気があってにぎややかな街だ。

 ちょっとしたヨーロッパ旅行の気分である。


「お、猫耳」


 ファンタジー世界では亜人あじんと呼ばれるであろう種族の人たちもちらほら。

 この異世界感。わくわくを禁じ得ないね!


 子供達がキャッキャと笑いながら俺を指差す。


「ハローチルドレン」


 手枷てかせされた両手をあげてヒラヒラと手を降ると、より一層楽しげに笑う。

 その子のお母さんらしき人がこどもの目を覆った。

『こら、見ちゃいけません』

 って感じがありありと伝わるなぁ。


 そんな俺を見てイケメン騎士はまた一つため息を着いた。そんな邪険じゃけんにしなさんなて。


 そのままお城へと向かうのかと思いきや、お城の手前で右にそれる。

 華やかなお城とは違い、質実剛健しつじつごうけんといった雰囲気の大きな建物の前へとたどり着いた。

 そこでイケメン騎士が馬から降りる。どうやらここが目的地のようだ。


「ーーー」


「はっはっは。何言ってるか分からないってば。ドゥーユーアンダスタン?」


 まぁ、中に入れと言っているのだろうな。

 多少めんどくさそうにされているが、物々しい雰囲気ではないのでいきなり殺されたりはしないだろう。

 騎士に続いて建物に入る。

 騎士とか兵士とかがいる建物なのかな?屈強くっきょうな男達がそこかしこにいる。

 イケメン騎士に向かってからかうような言葉を飛ばしているが、イケメン騎士はハイハイといった感じで相手にしていない。


 イケメン騎士に続いて廊下を歩き、階段を降り、地下牢ちかろうの様なところへと行き……


「え、牢屋とかマジ?」


 ぐいっ押されて入れられました。


 カシャン。


「え、鍵かけた今?」


「ーーー。ーーー」


「だから何言ってるかわかんないってばよ」


 イケメン騎士はそのまま立ち去っていく。

 ちょちょちょ、ちょっと待って!


「僕悪い人間じゃないよ! ちょっと! せめて手枷外して! ちょっとー!」


 手枷でおりをガンガンと叩いて叫ぶ。

 これじゃ背中かけないじゃん! 痒くなったらどうするのさ!


 しばらくするとイケメン騎士がため息をつきながら戻ってきた。


「ーー?」


 なんだ? とでも言っているのだろう。

 俺は必死に手枷をアピールする。

 イケメン騎士は檻の隙間すきまから手を伸ばしてきた。鍵が握られている。


「まったく。最初からそうしてくれればいいのに全く」


 俺が不服ふふくの表情で言うと、騎士はスッと手を引っ込めてしまった。


「あー! うそうそうそ! ごめんなさいごめんなさい! はずしてくださいお願いします!」


 必死にアピールして手枷を外してもらいました。


「ーーー」


「大人しくしてろって? はいはーい。おとなしくしときまーす」


 今度こそイケメン騎士は去っていった。

 さて、無事に? 街までやって来たわけだけど。異世界のスタートが牢屋からとかマジ勘弁。


「まぁ、しばらくお世話にりますかね」


 ……


 …………


 ………………


 暇である。

 スキルガチャは1日1回なので、暇潰ひまつぶしにはならない。

 外も見えないし、この地下牢にいるのは俺だけみたいだし。

 鉄格子を数えてみたり、鍵をいじってみたり。

 筋トレしてみたり、綺麗とは言えないが汚いわけでもないベッドに横になってみたり。

 ブリッジを何秒間できるか挑戦している最中に、先ほどのイケメン騎士がやってきた。


「あ、ちぃーっす」


 さかさまの視界のまま挨拶すると、イケメン騎士は今日何度目になるかもわからないため息を吐く。


「そんなにため息をくと幸せが逃げますよ?」


「ーーー」


「だーかーら。何言ってるかわからねぇっつーの」


 よいしょっという掛け声とともに起き上がる。

 もう一度イケメン騎士を見ると、手に食べ物を持っていることに気が付いた。

 異世界のサンドイッチである。そこそこの大きさだ。


「お! もしかしてごはんですか!?」


「ーーー。ーーー」


 イケメン騎士は異世界サンドイッチを鉄格子てつごうしから少し離れたところに置く。

 隙間すきまから手を伸ばすが、ギリギリ届かない。


「ちょっと。性格悪いよ? 顔はいいのに性格悪いと台無しですぜ?」


 抗議の意を込めて見上げるが、眉間にしわを寄せてこちらを見るだけだ。


「ーーー」


「よっ! ほっ! それっ! だめだ! 手がつりそうっ!」


「ーーー!」


「だからさぁ。そんな強い口調で言われたってわからないものはわからないの。それがわからないの?」


「……はぁ」


 イケメン騎士はあきれたようにため息をつき、しゃがんでサンドイッチを手渡してくれた。

 足で蹴り寄せられなくてよかった。お行儀ぎょうぎは言いようだ。


「サンキュー! それじゃ、まともな異世界ご飯。いっただっきまーす!」


 地球にいるときは特に嫌いな食べ物はなかったから、多分大丈夫だろう。

 パクチーみたいに独特のにおいのするものは駄目だったけど。

 サンドイッチには、玉ねぎ、レタス、トマト、干し肉がはさまっていて普通においしそうである。

 ガブリとかぶりつく。


「んー! ソースに酸味があってうまい! 日本のご飯にはおとるけど、合格合格」


 口いっぱいに頬張ほおばってむしゃむしゃと食べる。

 そんな俺を見て、少しだけイケメン騎士の表情が和らいだ気がした。


「ーーー。ーーー」


「ん? あぁ、ありがとうありがとう。また明日もよろしくねー」


「ーーー」


 多分また明日的なことを言っていたんだろう。

 飯が出るなら、しばらくこの地下牢にお世話になることにしますか。

 出て行ってもやることないし、いいスキルが出るまで、のんびり過ごさせてもらいますかね。

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