第3話 魔法っぽくて異世界感あるね!

 チュンチュン、チュンチュン。


「朝か……流石さすがに体がバキバキだな」


 硬い河原かわらで寝ていたのであたりまえか。体のあちこちが痛い。


「いかんいかん、火が消えちゃう」


 夜中に何度か目を覚ましてまきをくべていたので、何とか消えずにはすんだ。

 弱々しい火をともすそれに、新しく薪を追加する。


「朝御飯ー。朝御飯ー」


 昨日と同じ要領で魚を取り、焼いて食べる。

 ちょーおいしー!

 栄養がかたよりそうだけど、まぁまだ大丈夫だろう。

 今日は山菜とかとれないかなー。春だし果物あるかな?

 簡単な小屋とか、作ってみようかなー?


 ……


 ……ってちょっとまって。


此処ここ、異世界ぞ?」


 何でサバイバルYouTuberみたいなことやってんの俺。

 違くない? そうじゃなくない?

 これじゃ、耳の良い人が遭難そうなんしてるってだけじゃん。

 あ、そうだ。スキル検証しないと。


 耳を澄ませてみる。遠くの音もはっきりと聞こえてきた。

 たぶんだけど、


・ガチャで会得した能力は、次のガチャを行うと能力が上書きされる

が正解っぽいな。


 となると、今日ガチャしちゃうと遠くの音が聞こえなくなる訳で。

 うーん、地味に便利なんだよなこれ。人探すときとか役に立ちそうだしなぁ。


 って、ちゃうちゃう。Fランクスキルじゃん。

 ガチャリストたるもの、SSランクスキルを目指さないと。


 よし、気合いを入れて行こう。

 SSランクをイメージ。にじ色の光をイメージするんだ。

 いざ!


「……。その前に周囲の音聞いとこ」


 特に人の声とかはしませんでした。

 では改めて、いざ!


「んんぅぅぅーー! ガチャア!」


 天にかかげた手が、青白く光る。

 白色じゃない!


『Eランクスキル、(小さな火種を起こす能力)、を会得しました』


 わおっ、初のEランクスキル。

 しかも魔法っぽくて異世界感あるね!

 これで何時でも火を起こせるじゃん!

 やったね、ラッキー。


「って、遅えぇぇぇぇぇぇ!」


 昨日の苦労はなんだったんだよぉ! くそがあぁ!

 ふざけんなよマジでえぇ!


 ………………ふぅ。


 落ち着いた。いやいや、まぁ。悪くないじゃん。うん。

 だって雨が降っても大丈夫なんだから。ちょっと私達出会うタイミングがおかしかっただけで。

 神様がイタズラしたのかな? でも、ちゃんと出会えたんだから。

 1歩ずつ関係きずいて行こ? ね?


 気を取り直してスキルの検証。まずはグッドイヤーが使えるかどうか。

 耳を澄ませてみる。

 うーん、近くの音しか聞こえない。やっぱり能力は上書きされるっぽいな。

 続いて(小さな火種を起こす能力)だ。


「フレイム」


 ……


「ファイヤー」


 ……


「ライター」


 ……


「マッチ」


 ポッ


 なるほど、マッチ程度の能力ってわけか。

 あ、ううん、責めてないよ、責めてない。

 もしかしたらもっとすごい炎が出るのかなって勘違いしちゃっただけ。うん、あたしの勘違い。

 火なんてマッチ位で丁度良いと思うわあたし。必要十分よ、必要十分。もーまんたいもーまんたい。


 さて、スキルの確認が終わったところで。どっちにいきますかね。

 まぁ、この川沿いに下っていくことにしますか。人がいるところを目指すなら下るべきだろうし。


 森の中と違い川沿いは歩きやすい。

 雨が降ると増水して周りの草木を押し流すからだろうか。


 歩いて、水を飲んで、魚をとって、焼いて食べる。疲れたら座って休憩きゅうけい

 うーん。昨日の朝は死ぬかもって絶望してたけど、水と火と食べ物があるだけで随分ずいぶんと気が楽になるもんだなぁ。

 人間なんて腹がふくれれば大抵の悩みなんてどうでも良くなるもんなんだろうな。


 手頃てごろな長い枝を振り回しながら歩く。木の枝は男の子にとってエクスカリバーなんだい。

 ふーんふーんふーーん ふーんふーんふーーん


 鼻唄はなうたを歌いつつ歩く。

 歩く。


 歩く。


 ……


 疲れた。日が暮れたんだけど。

 下流に行くにつれてちょっとずつ川幅は大きくなってる。

 そろそろ山を抜けても良いと思うんだけどなー。仕方ない、今日も野宿しよう。


 薪を集めて


「マッチ」


 ポッ


 火をつける。

 昨日に比べると便利っちゃ便利なんだけど、何かもっと良いスキル無かったもんかねぇ。

 あ、うそうそ。凄く役に立ってるわ。だって手に豆が出来なくてすむんだもの。

 素晴らしいスキルだと思うわよ、あたし。


 一通り茶番ちゃばんえんじてからごろんと横になる。


「あー、さみしい」


 とりあえずの命の危機が無くなると、また新たな欲求が生まれるものである。


「誰かとしゃべりてぇなー」


 春の夜風だけが優しく肌をでる。


「この世界、人間がいないなんてことない……よな?」


 そんな不安が頭をよぎった。

 いやいや、ないない。大丈夫大丈夫。

 女神様美人だったし、優しそうだったし、おっぱいおっきかったし。無人の世界に放置なんてことしないはず。

 明日も頑張って歩いて、何とか人里ひとざとに降りよう。





 チュンチュン、チュンチュン

 小鳥の鳴き声で目が覚める。

 異世界生活四日目。今のところほとんど異世界感ないけどさ。


「さて、今日も頑張って歩きますかねぇ」


 一日が経過したので今日もガチャができるわけだけども。

 うーん、火種を起こせる能力って、ぶっちゃけかなり必要なんだよなぁ。

 だって今のところ街どころか村にもたどり着いていないわけで。

 少なくとも人里にたどり着くまでは自給自足が続くわけで。


「しばらく歩きながら考えるか」


 しかしながら。あるけどあるけど山の中。

 幸いなことに川の水はきれいな様で、おなかを壊すなんてことも今のところない。

 肉体的にはまだ何とかなっているけど、だけど


「やばい、さみしすぎる」


 人肌が恋しくなるなんてなぁ。肉体的によりも、精神的にダメになりそうだ。

 よし決めた。

 今日の夜、しっかりと焚火を焚いて火種を確保してから、ガチャしよう。

 この状況を打開だかいする一手が打てるかもしれないし。


「よし、そうと決まったらもう少し頑張って歩きますか。意外と近くに人がいるかもしれないしな」


 ……


 …………


 いませんでした。


「くっそ。毎日歩いて歩いて歩いて……健康になってしまうわ」


 いやまぁ健康はいいことだけどさ。

 さて、日も落ちてきたことですし、しっかりと焚火を焚きますかね。

 枝を集めて


「……マッチ」


 火をつける。

 そしてさよなら、俺の能力。今まで本当にありがとう。

 君のおかげで、今日も暖かくして眠れるよ。

 だけど、俺はもっと先に行かないといけないから。

 だから、君とはここでお別れ。


「じゃあね、初のEランクスキル。俺はSSランクを求めて、ガチャをするよ」


 それじゃ、気合を入れて、いざ


「SSランクよ来い! ガチャーー!」


 掲げた俺の両手から、紫色の光が放たれた。

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