第16話 暇な人

 俺は暇じゃないんだ、と主張する人間に限って暇である。


 これは、自分が理想とする状態を口にすることで、そうだと思い込もうとする、という心理であると考えられる。簡単に言えば、幼い子どもが、ヒーローの台詞を口にするのと同じである。そうすることで、自分がヒーローだと思い込むことができる。暇じゃないと口にすることで、自分は暇ではないと思い込むことができる、というわけである。まあ、本当に暇ではないのなら、そんなことを言っている暇はないと思うが……。


 そもそも、暇とはなんだろう? 何もすることがない状態を、暇、と呼ぶのであれば、そんな状態は考えられないかもしれない。なぜなら、人間は、必ず、頭で何かしらのことを考えているからである。手持ち無沙汰、というのが、暇という状態なのかもしれない。しかし、そういう人は、学校や会社から与えられた課題を、もう充分に終わらせたのか、と疑問に思う。


 少なくとも、私は暇ではない。

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