第14話 無の不思議

 人間が理解できないものに、無、というものがある。もちろん、概念としては理解できるが、それが具体的にどういうものなのか、ということについては、なかなか理解するのは難しい。


 たとえば、無視、という言葉がある。これは、他人の話に耳を傾けない、という意味を表わしていて、文字通り「視」が「無」だ、という意味ではない。それでは、もし「視」が「無」になったら、どうなるのだろう? たとえば、目を瞑ると何も見えなくなるから、それはたしかに「視」が「無」である状態かもしれない。けれど、目を瞑っても暗いとは感じられるのだから、それは本当の意味で「視」が「無」であるのではない。これは、視覚以外の感覚、たとえば嗅覚や触角についても同じことがいえる。無臭、といっても、それは完全に匂いがしないことを意味しているのではない。手が痺れていても、何も感じないことを感じることができる。


 無といえば、無限を連想するが、無限というのも理解できない。人間は、まだ、自分たちが住む宇宙のことを理解していない。

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