第9話 何も思いつかないことはない

 何も思いつかない、ということはない。


 何も思いつかないのであれば、何も思いつかない、ということも思いつかないはずなので、そういった状態にはならない、ということがすぐに分かる。何も思いつかないのではなく、何も思いつかない状態であると思い込みたい、の間違いだと思う。つまり、何も思いつかない、という言い訳を述べているにすぎない。


 そんな複雑な話ではなくても、そもそも、何も思いつかない、などということが本当にあるのか。たとえば、人間は会話をする生き物だが、会話をしていて、何も思いつかない、ということがありえるだろうか。口を開けたまま、固まってしまって、言葉が何一つ出てこない、ということはたぶんありえない。会話は、反射的に行っているものだし、具体的な説明ができなくても、きっと、ほとんどの人間は、適当な言葉を言って誤魔化しているだろう。


 とりあえず、あ、とでも言っておくことは、できるはずである。

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