日々

Rain-girl & Rain-boy

「雨降っちゃったね、やっぱり私たち雨女と雨男なんだよ」


 君は落ち込んでいる。

 もちろん僕も落ち込んでいる。

 なぜなら今日は二人でドライブに行く約束だったからだ。出会ってから早五年、今では恋人である二人の大切な記念日、それを雨で台無しにされては落ち込んでも仕方ない。


「どしゃっー! って雨ではないけど、通り雨でもなさそうだし、今日一日は止みそうにないなぁ……」


 君は悲しそうに窓の外を見つめてる。

 僕はなんとかして励ます。


「でも雨も別に悪くないよ。二人でゆっくり喋りながら、読書したり、テレビを見たり、自由に過ごすのも素敵な一日さ」

「でもっ! やっぱり雨よりは晴れ、引き篭もるよりはドライブ、の方が楽しいに決まってるよ!」

「確かにそうかもしれないけど……」


 やっぱり僕は雨も悪くないと思うけどなぁ。

 むしろ好きな方だと思う。

 だって。


 ポツポツ


 ポツポツ


「急に雨が降るなんて困ったなぁ」


 すると隣から声が。


「……本当ですよね」

「えっ!? もしかしてあなたも此処で雨宿りを?」

「そうなんです。慌てて走ってたところにこの停留所を見つけたので」

「こんな急な雨なんて、お互い災難ですね」

「まあでもたまには雨も良いですよ。心が落ち着いて」

「確かにそうかもしれませんが……」

「そうだ! 良ければお話でもしませんか? 雨、止みそうにないですし」

「ええ、是非!」


 ポツポツ


 ポツポツ


「やっぱり雨も良いけどなぁ……。雨男な自分に感謝したこともあるし」

「変わってるよ」

「そうかなぁ?」

「うん、変わってる。私は雨女で損ばかりしてきたよ」

「ふーん。覚えてないのね」

「えっ?」

「君には些細で覚えてないことでも。僕は雨女と雨男だからこそ今があるって、感謝してるよ」

「どういうこと?」

「教えない。読書したいし」


 君は頬を膨らませた。

 僕は『レインガール&レインボーイ』という小説を読みながら、「昔は君の方が雨が好きだったんだぞ」と心の中で呟く。しかし、今の君も好きだから、別に君の思うままでいいとも思う。


「でもまぁ」

「えっ教えてくれるの?」

「いやそうじゃなくて」

「じゃあ何?」

「いや別に」

「ちょっと!? 気になるじゃん!?」


 でもまぁ。

 過去の君も僕の好きな君だから、雨女と雨男な二人のことも忘れないでおきたいものだ。

 そう思いながら僕は大切な記憶ページに栞を挟んで本を閉じた。

 そして水滴がついた窓を見つめてる彼女にさりげなく声をかけるのであった。

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