フラッシュバックストーリー

「こっちおいでよ」


 君が手を引っ張って僕を寄せる。

 懐かしい声に夢中になってた僕は無気力で、それに逆らう気持ちもなかった。


「夢って見てる?」

「夢?」

「うん。夢」

「夢はあるさ。君を幸せにするっていうね」

「嬉しいけどそういうことじゃなくて! 夜見る方の夢のこと!」

「ああ、そっちの夢か。度々見るよ、毎夜は見ないけれど」

「夢って不思議だなと思って。それで昔私のおじいちゃんがね、不思議なことは人に聞けって言ってたのを思い出したの。だから」

「なるほど。夢についてどう思うかってこと?」

「そういうこと」


 ぼやけた景色は眩しすぎるけれど、君の笑顔だけは、明確に鮮明に映っていた。


「確かに夢は不思議だ。記憶の整理とは言われてるけれど、見たこともない人とか現象とかも出てくることがある。脳には無限大の可能性があるってことかな」

「ふむふむ」

「だけど不思議だからって解明したいとは思わない。夢って言葉が使われてる以上、きっと願いごとを意味する夢と同じくらい、あの映像にはロマンがあるはずなんだ。夢は見続けるものだから、ずっと輝くように、あえて解き明かす必要はない。まあ偉そうに言える立場でもないけどね」

「でもなんとなく伝わったよ。ありがとう」

「いえいえ」


 僕はあまり深く考えなかった。

 此処が何処なのかも。今が何時なのかも。君がどうして急にそんな話をするのかも。

 だけどそんなことを気にしなくても、何故か分からないけど、とても幸せで、今を壊したくなくて、余計な言葉を誤魔化した。


「夢って現実とはまた違った姿を見せるけど、時として、忘れたはずの現実、過去の思い出をそのまま再現したりもするよね」

「幼少の頃の思い出とかを夢で見て、思い出すことは確かにあるかな」

「寝て夢を見て、現実逃避をしようとする人もいたりするけど、それで結局昔の現実を見せられちゃったら本末転倒、大変だ!」

「でもまあそれでも夢は楽しいよ。さっきも言ったけど夢はロマンだから、追いかける方の夢と同じくらい、寝るときに見る夢も楽しいもののはずさ」


 君は何処に向かっているのだろう。

 何故こうも此処は眩しくて、君以外何も見えないのだろう。

 まあそれでも、君の声が聞けて、君の姿が見えれば、そんな些細なことどうでもよくて、なんて素敵な時間なんだと思える。


「僕は幸せさ。今、君と喋れて」

「ふふ、急にどうしたの」

「いやふと思ってね」

「ありがとう。私も幸せかな、こうして喋れてること。だからさ、また喋ろうよ」

「もちろん」

「今度は夢じゃなくてちゃんとさ」

「うん」


 ようやく思い出した。

 此処は夢だからこうも曖昧だったのだ。

 でも夢の中でも君の姿だけははっきりと見えた。それだけ想いが強いのだろうか。


「昔おじいちゃんが言ってたよ」

「えっ?」

「言わなくちゃいけないことは後でじゃなくて、今すぐ言わないとダメなんだって」

「そうなんだ」

「うん」


 そして僕が何か喋ろうとしたとき彼女は笑って一言。


「もちろん夢じゃなくて現実でね、ふふ」


 君は手をゆっくりと離した。

 君の姿もぼんやりとしていく。


「現実の私にもよろしく。さっきみたいに素直なあなたを見せればきっと大丈夫だから」


 瞬きをするとそこはいつも通りの部屋で。

 目が覚めて僕は電話を取る。

 フラッシュバックしたこの映像を忘れないうちに。


「急にどうしたの?」

「いや夢を見てね」

「夢? 怖い夢でも見たの?」

「いいや。そんな夢じゃなくて」

「じゃあどんな?」


 君を幸せにするっていう夢さ。

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