第136話『温泉旅行本番!・2』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)


136『温泉旅行本番!・2』小山内啓介   






 浴室内の介助のあれこれも聞いたが、仲居さんの説明の都合でだ。


 オレが千歳の介助をやるわけじゃないぞ(^_^;)。引率者には介助のアレコレを伝授しておくのが宿の建て前らしい、たぶんその筋からのお達しなんだろうが、女子の浴場に足を踏み込むのはなんともなあ(#´o`#)。


 脱衣かごには女子が脱いだ下着やらが入っていて、脱衣棚の前にはタオルで前を隠す女子の後姿というかヒップ、洗面のドライヤー持って髪を乾かす女子からはシャンプーのいい香りが思い浮かんでしまう。


「なに赤くなってんのよ、浴場は日替わりで男女は入れ替わるのよ、今日が女子だから昨日は男子。ちなみに利用者の大半は高齢者だそうよ」


 松井先輩がジト目で真実を伝える。


「え、そうなん(;'∀')?」


 とたんに女子のヒップが弛んだ爺さんのケツに変わる。


 空堀高校はバリアフリーのモデル校だから、障害を持った生徒の率は他校よりは高い。同学年には車いすの男子が二人居る。修学旅行も数カ月後には控えているので、聞いておいて無駄にはならないと自分に言い聞かす。


 


 葛城山を借景にした庭はなかなかのもので、女子たちは陽のあるうちに見ておこうと連れだって出て行った。


 一緒に行こうと誘われたけど、オレは先に温泉に入ることにした。


 船場女学院の発声練習も聞こえないし、庭に出ても彼女らとは行き違いだろう。


 それよりも、基礎練の後だ、ひょっとして入浴の出入りくらいで会えるかもしれない。




 備え付けの浴衣とタオルを持って浴室への階段を降りる。


 カッポーン


 踊り場に差し掛かったところで、浴室のくぐもった音やら声が聞こえてくる。


 話の中身までは分からないが、~ちゃんとかの愛称とか、ああ極楽~の声が笑い声と共に聞こえてくる。


 この声は……八人くらいは居そうだなあと想像してしまう。


 女湯の手前の男湯の暖簾をくぐる。


 さっきの下見では気が付かなかったけど、どうやら浴室内の壁は上の所でイケイケになっているようで、脱衣場では楽しそうな声が一段と大きくなってきた。


 女子の嬌声なんか、学校ではしょっちゅうなんだけど、このシュチエーションは興奮するぞ!


 幸い、男湯はオレ一人なので、遠慮なく顔がデレてしまう。


 キャーーー!


 ちょ、サワちゃん!


 タオルを巻いて浴室の引き戸を開けたところで異変がおこった!


 女湯に悲鳴があがって、ドタバタ、パシャパシャ、ザブザブと慌てる気配だ!


 ひ、人を呼ばなきゃ!


 人工呼吸!


 担架持ってきてー!


 事故だ! 船場女学院の生徒たちが裸でうろたえているイベントが脳内画面に浮かんでドキッと……している場合じゃない。


 担架の場所は、さっき確認したところだ。他に人はいない……それ以上は考える前に体が動いた!




 担架持ってきましたあ!!




 浴室に飛び込んで、心臓が停まりそうになった。


 女湯の浴室には、推測した通り八人の裸の女性がいた……が、ひいき目に見ても五十代から八十代という、熟年の方々ばかりだ。


「人工呼吸できる!?」


 さっき聞こえた声だ。声質は若いが、声を発しているのはお袋と同年配。タイルの上で伸びているのは……描写している場合じゃない!


「や、やってみます!」


「サワちゃん! 今から人工呼吸してもらうからね!」


 中学野球のころから何度も救命救急講習は受けてる。


「気道確保!」


 バスタオルを丸めて首の下に回す。サワちゃんの鼻をつまんで、口を斜めに交差させるように合わせる。


 ああ、オレのファーストキスがあ(;゚Д゚)……。


 


 オレの救命救急措置がうまくいったのか、サワちゃんは事なきを得て、番頭さんが呼んだ救急車に載せられていった。


 振り返って歓迎札を見ると『船場女子演劇部の会御一行様』とあった。


 なんだこれは?


 スマホで検索すると、船場地域で演劇活動をしているシニア女性劇団であることが知れた……。

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