第135話『温泉旅行本番!・1』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
135『温泉旅行本番!・1』小山内啓介
なにをボーっとしてんの?
先にロビーに向かった須磨先輩が引き返してきた。
「え、あ、いや、なんでも」
焦って応えると、ちょっと軽蔑した一瞥といっしょにルームキーを渡された。
「あたしたち、部屋に行ったら、とりあえず温泉に直行だから。食事までは自由時間てことで。部屋出る時は、必ずキー持ってね。閉じ込めなんて情けないことにならないように」
それだけ言うと、クルリと踵を返してロビーの女子組に合流する先輩。いつになく「キャハハ」とか笑ってるし、先輩なりにリラックスしてるんだろうな。
まあ、降ってわいたような温泉一泊旅行に、女子たちはウキウキしている。
オレは、福引コーナーに張り出されていたもう一組の当選者『船場女学院演劇部』に気をとられていた。
気をとられるだけじゃなくて、彼女たちも一緒になるに違いないと思い込んでしまっていたのだ。
だから、玄関前の『歓迎~御一行様』の札の列に気をとられていた。
そこには、うちの『空堀高校演劇部御一行様』しか見当たらなかった。
バカだよなア~(^_^;)
いっしょに当選したからと言って、同じ日に来るわけがない。
「小山内君、館内の説明とか受けるから、来てえ」
朝倉先生に呼ばれる。
「いま、行きます」
千歳の事があるから、動線とか館内の様子は事前確認と言われていた。
今年きたばかりの新任だけど、こういうところは、やっぱり先生だ。ちょっと見直す。
「「あ、すんません」」
入れ違いに出てきた番頭さんとぶつかりかけて同時に謝る。
すぐにロビーに行ったんだけど、番頭さんが手にした『歓迎~御一行様』の札がチラリと見えた。
どうやらかけ忘れていたので、慌てて掛けに行くところのようだ。
お!?
ほんの一瞬だけど見えた『船場女……』の歓迎札。
番頭さんの体に隠れて上半分だけだけど、間違いない!
オレは、やっぱりツイテいる!
担当の仲居さんから、一通りの説明を受けて、オレと朝倉先生とで動線の確認をしておくことになる。
「先生、やっぱり、しっかりしてるわ」
「当たり前でしょ、引率のイロハだわよ」
仲居さんに先導されて、あちこちの確認。
「一応、お風呂も確認しますか?」
「え、女湯も!?」
「うん、万一というときは小山内君の力も借りなきゃだからね」
仲居さんが『準備中』と札を返した女湯に続く。
準備中だから、当然無人なんだけど、数分後か数十分後かには船場女学院御一行様がお入りになるのかと思うと、ちょっとだけ脈拍が早くなる。ちょ、ちょっとだけだからな、ちょっとだけ(;^_^。
リフト付きの入浴用車いすとか、あちこち付けられた手すりやスロープに感心する。万一の場合のAEDの場所やら通報ブザーの場所など、やっぱり、確認しておかなければ役に立たない。
「担架は、男女共用なので廊下にございます」
廊下に出ると、入り口の向かいの壁に『👇担架』の標がある。
「事前に見ておきませんと、いざという時は、この字が見えないものなんです」
仲居さんは、以前、必要になった時役に立たなかった話をドラマチックに話してくれる。この仲居さん、演劇部向きかもしれない。
ア エ イ ウ エ オ アオ……
どこからともなく、演劇部の定番発声練習の声がしてきた!
「同宿の演劇部の方たちですね、裏の丘なんですけど、風向きによって聞こえてくるんでしょうけど、ハツラツとなさって、いいものですね」
仲居さんは、それとなく「お騒がせします」のエクスキューズを言ってるんだろうけど、オレは『船場女学院演劇部』のロゴ入りジャージを着て発声練習に勤しんでいる美少女たちの姿がアリアリと浮かんでくるのであった!
☆ 主な登場人物
小山内啓介 二年生 演劇部部長
沢村千歳 一年生 空堀高校を辞めるために入部した
ミリー・オーエン 二年生 啓介と同じクラス アメリカからの交換留学生
松井須磨 三年生(ただし、四回目の)
瀬戸内美晴 二年生 生徒会副会長
朝倉美乃梨 演劇部顧問
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