第103話『八重桜の教育的手腕・1』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
103『八重桜の教育的手腕・1』
無い知恵を絞った。
『夕鶴』の登場人物は以下の通り。
与ひょう(傷ついた鶴を助けてやるお百姓) つう(与ひょうに助けられた鶴の化身のヒロイン)
そうど(与ひょうをそそのかし、つうに千羽織を織らせる) うんず(そうどの仲間の小悪党)
こどもたち
字面で見ると、こどもたちというのはモブキャラで、ほんの添え物。
だから、どうとでもなる。と、軽く考える。
軽く考えて、そこいらの知り合いに声をかけて本番だけ舞台に立ってもらおうと思った。
ところが八重桜に言われ、1/20の舞台図を書いて、1/20の役者を配置してみると……暑苦しい。
与ひょうやつうと変わらない体格の子どもたちが四人も五人も舞台に出ると、もう、なんちゅうか言葉が無い。
俺のソウルフードである冷やし中華に例えると、主役である中華麺よりもゆで卵とかキュウリとかが幅を利かせすぎの感じ。
冷やし中華の上に、丸まるのゆで卵とキュウリ、トマトも焼き豚もマルッポ入ってたら……これは完全にアウト。
う~ん
演劇部に入って、こんなに芝居の事を考えたことは無い。
長年歩いた通学路、目をつぶってても歩ける道やのに、事故に遭いかけた。
わっ!!
目の前に三輪車に乗ったガキが横の道から飛び出してきよった。
「ビックリするやないか!」
怒ると、三人のガキはケタケタ笑いながら行ってしまいよった。
三輪車やと背丈が半分になってしもて、とっさには視野に入れへんのや。
まあ、近所のガキなんで怒っても効き目は薄い。追いかけてカマシタロとも思たけど、その時思いついた。
せや、三輪車や!
子ども役を三輪車で登場させたら背丈は半分、ペダル漕いで動くから、小回りきくしチマチマとした動きは子どもらしいやんけ!
それに千歳も出せるんちゃうやろか?
車いすの方が三輪車よりもかさ高いけど、ちょっと大きめのオネエチャンいう感じでええことないやろか!?
「先生、アイデアです!」
あくる日、さっそく八重桜に提案した。
ちなみに、八重桜の事を――先生――と呼ぶのは、めっちゃ久しぶり。いつもは――あのう――で済ましてる。
「うん、それはいいアイデアね」
まず誉めてくれた。八重桜でも褒められると嬉しいもんや。でも、これは教師としての教育的配慮やった。
「ダンス部が小道具の三輪車持ってるから、ちょっと借りてためしてみよう」
演劇部一同で三輪車三台を持って体育館の舞台を目指した……。
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