第104話『八重桜の教育的手腕・2』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
104『八重桜の教育的手腕・2』
アイデアはよかった。
ミリーとミッキーが舞台に立って、三輪車の須磨先輩と啓介先輩と助っ人の美晴先輩が二人の周囲をグルグル周る。
うん、ちゃんと子どもに見える。
「じゃ、カゴメカゴメやってごらん」
八重桜先生の指示でミリーを真ん中にカゴメカゴメを始める。
かーごめかーごめ かーごの中のとーりーは いーついーつ出やーる……(^^
あ、いい、これいい!
みんな、そんな感じ。
面白くなって、鬼を交代してみんなでやり始める。
最初は、三輪車なんてどうだろう? 『夕鶴』の世界に馴染まないんじゃないだろうかと思った。
でも、三輪車というアイテムは高校生に子どもの心を思い出させてくれるようで、みんな喜々としてやっている。
「そうよ、ここで大事なのは子供らしいハズミなの。三輪車って、みんな子どものころに乗ったじゃない、背丈も子どもの背丈に戻るじゃない、するとね、なんの演出もしなくても子どもを演じられるのよ(^▽^)/」
先生はガキ大将になったような楽しさで解説してくれる。
「じゃ、沢村さん入ってみようか」
「え、わたしですか!?」
「あれなら、混ざれるでしょ」
「あ、え……」
「千歳、やってみようや!」
啓介先輩が賛同して舞台に……。
それが簡単ではなかった。
さすがバリアフリーモデル校である空堀高校もステージまではできていない。
車いすではいかんともしがたく、一瞬みんな固まってしまうが「ダッコしたらいける!」啓介先輩が叫んで、一番体格があるミッキーがお姫様ダッコで舞台に上がった。で、生まれて初めてのお姫様ダッコでもあったのです!
「ディズニーアニメにこんなシーンあったな~」
ミッキーは優しい男の子だけど、なんたってアメリカ人、体格もタッパもあってルックスはもろ欧米系のナイスガイ。
ほんの三十秒ほどだったけど、ドッキンドッキン!
それでカゴメカゴメをやってみる……なんとか出来た。
なんとかというのは、車いすでミリーの周りをまわると、舞台の前に出ると、ちょっと怖い。
府立高校の舞台というのは、奥行きが3・6メートルしかない。
それもカタログデータで、実際は幕とかホリゾントライトが置かれるので、実際は3メートル。
中ほどにミリーが居て、その周りを車いすで回ると……ちょっと狭い。
舞台の高さは1・3メートルだから、目の高さは2メートルを超える。タイヤと舞台の端っことは30センチほど。
でも、雰囲気がアゲアゲになっているので怖いとは言えない。
「じゃ、鬼ごっこしてみよっか」
先生の一言、みんな「おーー!」って感じでノッテいる。
わたしもおっかなびっくりで参加。でも、ものの数秒でみんなは停まる。
「先生、鬼ごっこは勢い付いて怖いってか、危険です」
さすが生徒会副会長、美晴先輩が異議申し立て。
「やっぱりね、こうやってやってみると実感するのよね」
先生は演説を始めた。
「府立高校の舞台は床下にパイプ椅子を収納するために標準より40センチも高いの。それにフロアの床面積とるために奥行きが無くって、じっさいやってみると、もう身の危険を感じるくらい。体育館に講堂の機能を併せ持たせたつもりが、文化施設としての舞台機構の無理解、意識の低さが舞台を高く狭くして、ひどく使いづらいものにしてしまった。ね、これが大阪府、いえ、日本の文教政策の現実! 見た目だけに気を取られて、本当には現実に目が向いてないのよ! この現実に、わたしは断固抗議するものです!」
思わず拍手してしまった。
最初に、この演説を聞かされたら、正直腰が引ける。
でも、じっさいに自分たちがやってみて危険や不便さを感じると肯けるし、正直な拍手になる。
わたしは八重桜先生をちょっとだけ見直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます