第77話『演劇部には同情されたくない!』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)77


『演劇部には同情されたくない!』   







 久々にタコ部屋の部室に集まった。


 ここのところの涼しさで、タコ部屋でもええやろという判断。

 図書室の部活ではエロゲがでけへん。

 須磨先輩も椅子を並べた簡易ベッドで昼寝もでけへん。

 千歳は自慢のお茶を淹れることがでけへん。

 ミリーは、部室棟の解体修理が中断してるんで、どこで部活やってもいっしょ。そやけど、放課後、部員四人でマッタリする習慣が付いてるもんで、やっぱりタコ部屋がええらしい。他の部員がマッタリしてないとミリーもマッタリでけへんみたいや。


「ミッキーの相手は疲れるわあ」


 だらしなく椅子に座ってミリーは天井を仰いだ。

「ミッキーは美晴先輩が好きなんじゃないんですか?」

 チャイナタウンの中華レストランで一緒になった時の様子で、ミッキーが美晴先輩に気があるのは分かってる。

「あいつ、自分からはアプローチしないのよ。せっかく交換留学でうちに来たのにさ」

「シスコで、なんかあったんじゃない?」

「学年違うから、なかなか自分から出向いてなんてことできないのかもね。ミッキーはアメリカ人にしてはシャイなんじゃないかなあ」

「その分、あれこれ興味持っちゃって、質問攻めでまいっちゃうわ。さっきなんて、階段の段数が十三だって発見して大騒ぎ」

「え、学校って13階段だったの?」

「先輩、六年も在籍してて気づかないんですか?」

「うん、知らなかった」

「で、なんでなんですか13階段?」

「デフォルトだと思う。13が忌み数字だなんて、ちょっと前の日本じゃ知られてないわけでしょ、日本人の体格とかで建てたら、たまたま13になったんだと思うわよ」

「ちょっと試してくる」

「先輩……どこ行くんだろ?」

 

 しばらくすると――ちょっと来てみそ――と声が聞こえた。


「やっぱデフォルトだね、これ以上高くても低くても上り辛いよ。当然下りづらいし」

「クレバーですよ須磨先輩!」

 ミリーは三回ほど階段を上り下りしてチョ-納得した感じ。

「いやあ、なんかあるんだろうって事務所まで行って確認したんだけどね、事務長さんが古い図面まで出してくれたんだけど分からなくって、学校中の階段数えるハメになったのよ。よし、これであいつも納得でしょ」

 すると、ミリーのスマホが鳴りだした。

「ゲ、ミッキーだ……イエス、ミリー、スピーキング……」

 ミリーはスマホを耳にあて、声とは裏腹なウンザリ顔で電話に出た。


「え、あ、うん……じゃね。幸運を祈ってる」


「なんちゅうてきよったんや?」

「阪急京都線に13……あ、漢字表記だから十三てところがあるから調べるんだって。あいつ付き添って欲しそうだったから『そういうことは生徒会の美晴先輩の方が詳しいから』て振ってやったの。ナイスアイデアって喜んでた」

 すると階段の上の方からセカセカといら立った足音が下りてきた。部室から顔だけ出すと目が合った。

「あ、副会長」

 俺は、今までのいきさつで副会長という呼び方しかしない。

「ひょっとして、ミッキーですか?」

「うん、たった今電話してきてね、十三(じゅうそう)で迷子になったから助けに来て欲しいって」

「それで、今から?」

「うん、こんなことまでミリーに頼めないしね、ちょっくら行ってくるわ」


 階段の残り二段を子どものようにピョンと飛び降りると下足室に向かって走っていった。

 なんだか、とてもトラブル慣れした身のこなしに案外の苦労人かなあと思う。


 演劇部には同情されたくない!


 そんな副会長の心の声が聞こえたような気がした。

 

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