第78話『キャシーへの手紙・2』


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)78


『キャシーへの手紙・2』   






 北朝鮮の核ミサイルかと思ったよ。


 知ってるかなあ、核ミサイルというのは地上に激突しなくても、はるか上空で炸裂しただけで大きな被害をもたらすんだ。

 炸裂で途方もない量の電磁パルスが放射され、地上のありとあらゆる電気で機能するものを狂わせるんだ。

 50年代に、アメリカがハワイの上空で核爆弾を炸裂させた。もちろん実験でね。

 まだ、核エネルギーがどんなもんだか分かっていない時代で、ハワイの人間は特製花火を観るような感覚で海岸やら山の上でサングラスをかけて待っていた。

 時間になると、一瞬空の一角が光った、核爆弾が炸裂したんだ。

 思ったほどの輝きじゃないんで、見物人たちは、そんなに歓声はあげなかった。


 でも、次の瞬間、ハワイの空に壮大なオーロラが出現した。


 これには、みんな喜んで、こんな奇跡を起こす核爆弾と、それを作れるアメリカの力を誇らしく思ったんだ。

 その様子は、今でもYouTubeで見られるけどね。だれもがアメリカを偉大で誇らしい国と思ってる、ちょっと今の僕たちでは引いてしまうくらいのオポチュニズム。

 歓声が止むと、あちこちから一斉に電話のベルが鳴りだした。

 みんな、なんの冗談かと思ったけど、それでも大したことじゃないと思ってた。

 30年代にさ、オーソンウェルズが『火星人来襲』ってラジオドラマをやって、本当だと思った人たちがパニックになったって、ケリ-先生の『マスコミ概論』で習ったよね。みんな、あれが頭にあったんで、きっとそう言うことだろうって騒がなかった。

 でも、その後、鳴りっぱなしの電話が故障し、ラジオもぶっ壊れて、やっと大変な事態になったと思い知るんだ。

 で、それと同じ理屈でハワイのラジオも電話も故障してしまい、あちこち停電になって、冷蔵庫はただの箱になった。

 まだネットもパソコンも無い時代だったっから、それで済んだけど、成層圏での核爆発の恐ろしさを知るには十分だった。


 で、それが起こったと思ったんだよ。


 でも、それは単にスマホの電池がエンプティーになっただけというのが、周囲の状況で分かった。

 街はにぎやかだし、みんな平気でスマホを使ってるし。

 それで、僕は十三(jyuusou)という街で深刻な孤独に襲われた。

 スマホがダメになっただけで、外部世界の情報がまるで得られなくなった。グーグルマップもナビも翻訳機能もみんな使えない。

 

 あ、そうなんだ、ここは大阪市の北の十三って街。

 

 世界中で数字がそのまま街の名前になってるところなんて、ちょっと思いつかない。

 それも13なんだ。キリスト教国じゃ、ぜったいあり得ないネーミングだ!

 この街に足を向けたのは、学校の階段がほとんど13段だということに気づいて、それを調べる延長線上のことなんだ。

 

 それでどうしたかというと、生徒手帳……これも、クールなんだけど、それはまたいずれということで。

 生徒手帳にメモってた二人に電話したんだ。公衆電話を探しまくってね。


 こんなことでミハルを呼び出したくなかったけど、仕方がないよね。


 ミハルも、ボクの現在位置に着くのには苦労した。

 だって、ボクの居る座標がナビでは分からないんだもんね。

 それに、あとで分かったんだけど、ボクが迷子になったところは三年前の大火事で街の様子が一変してナビの更新が間に合ってないところだったんだよ。

 火災とかの影響は、街が復興しても尾を引くんだよね。火の用心を心がけよう。


 で、その火の用心も間に合わなかった。


 ボクは、この手紙をホテルで書いているんだ。


 なぜかと言うと、ボクがホームステイしていた田中さんの家が火事で焼けてしまったんだ。


 田中さんの家は十三じゃないんだけどね。ボクが好奇心だけで十三に足を踏み入れたタタリ?



 大阪市の担当の人が代わりのホームステイ先を探してくれている。

 まだ、ミハルとロクに口もきいていない。こんなのでシスコに帰るわけにはいかないからね。


 じゃ、また手紙書くよ。   親愛なるキャシーへ

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