第76話『キャシーへの手紙』

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

76『キャシーへの手紙』   





 日本に来て三日がたったよキャシー。


 知識としては知っていたけど、現実に知るとビックリすることがあるんだよ。


 日本の学校にはプールがある。知っていたけど、実際プールを見ると、とてもクールだ。

 ラッキーなことに、初日にプールの授業があったんだ。

 25mで5コース、水はとても清潔で気持ちがいい。

 授業の最初にラジオ体操をするのかと思ったら簡単なストレッチだった。ラジオ体操はマスターしてるので、日本人の生徒と一緒にラジオ体操をやってみたかったんだけど、それは、また後日。

 体育の授業は隣の4組と合同なんだ。いっしょになると70人を超えてしまうんだけど、それではプールの定員を超えてしまうので男子ばっかで34人。

 海パンは全員お揃いだ。紺色でトランクスみたいな形。

 男がお揃いの海パンだと、なんだかアナポリス(海軍士官学校)みたいだけど、あんなにガチガチじゃない。

 クロールについてのレクチャーがあって、ウォーミングアップして実際に泳いでみる。

 泳いでビックリしたよ。


 なんと、僕がトップだ! 13秒だった。50メートルだったら23秒くらいになるかなあ。


 むろん、その日のレコードになったらしいけど、噂じゃ水泳部も混ざってるとか。でも、シャイだから実力を発揮していないと思う。

 あ、それと交換留学生への礼儀として僕を追い越さなかったのかもしれないけどね。


 掃除当番もやったよ。


 いい習慣だと思う。自分たちで使った学校は自分たちで掃除する。学校に愛着を持たせるいい習慣だと思うよ。

 いい習慣だけど、そのままアメリカでやるわけにはいかない。だって、清掃担当スタッフの仕事を取り上げることになるからね。

 この掃除は成績に反映されたりはしないんだけど、みんな真面目にやってるよ。

 こんな無償の行為はシスコのグリーンエンジェルスでもなきゃやらないと思うけどね。


 一日同じ教室に居るというのも新鮮だ。


 学校って、授業別の教室というのが当たり前なんだけど、このカラホリハイスクールじゃ先生の方が教室に来てくれる。

 ラクチンだし、ずっと同じ教室に居るとクラスの一体感が違うよ。

 第一印象は良い制度だと思う。でも、生徒の主体性という点ではどうかなあと思う。

 三日間の印象では、生徒は大人しい。授業中に喋る奴もいなくて、でも熱心に授業に参加してる感じでもない。授業中先生が質問しないのもね、コミニケーションのない授業は、ちょっと息苦しいかな。


 そうそう、教室じゃ机が一列に並んでて、先生は黒板の前で喋るだけなんだ。


 だから授業中にやることと言ったら、先生が黒板に書いたことをノートに写すこと。

 僕は日本語分からないから、先生が用意してくれた英文バンショプリントをノートに写す。これは苦行だね。


 クラスにはシカゴ出身のミリーという子が居て、必要なことは通訳してくれる。


 シカゴ訛が新鮮だ。

 うっかり言ったら「ミッキーこそ訛ってるよ」と返された。

 自分の感覚で物を見てしまうのはエスノセントリズム(自分の所属集団を一番だと思うこと)なんで「アイムソーリー」なんだけど、大阪人のエスノセントリズムは凄いよ! とはミリーの発言。

 ちなみに、マクドナルドのことを東日本ではマックというらしいんだけど、大阪ではマクドというんだぜ。

 マックというのはMacDonaldを詰めた言い方だよね。僕にも分かりやすい。

 マクドというのは、一度カタカナ日本語にして上三文字をとったもの。

 同じ日本でも言語感覚と文化の受容の仕方が違うようだ。ま、これもミリーから聞いたんだけどね。

「どっちが多いか考えといて、これ宿題だから」

 ミリーの答えはまだ聞いてない。

 ミリーは、いろいろ興味を持たせる話をしてくれるのでありがたい存在。

「でもね、渡り廊下でハグはしないでよね」

 と念を押される。


 スクールポリスについて話したかったんだけど、それは今度にするよ。


 お休みなさい。 

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