第75話『渡り廊下でハグすんな!』
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)75
『渡り廊下でハグすんな!』
転校生が全校集会で紹介されることはありえない。
普通、クラスの朝礼で担任が紹介しておしまい。
でも、交換留学生は違うみたい。
始業式、校長先生の挨拶と訓話が短かった。
え、もうおしまい? 思っていると教頭先生に合図されて一人の男子生徒が朝礼台の上に現れた。
女子に比べてダサダサと言われている男子のブレザーをカッコよく着ている。上背があって脚が長い。
とたんに女子を中心としてどよめきが起こった。
制服という属性の為に気づくのが遅れたけど、彼は外人だ、それも多分アメリカ人。
「今日から始まる二学期一杯一緒に勉強するミッキー・ドナルド君です。アメリカのサンフランシスコからやってきました。学年は二年生です。ドナルド君は……あ、ファーストネームね、ミッキー君は地元の高校では生徒会の副会長をやっています。クラブ活動や生徒会活動に関心があるようです。えーーそもそも交換留学生というのは……」
訓話が短かった分の演説が始まりだしたので、みんなは校長の声を意識から遮断して、壇上のミッキー・ドナルドをシゲシゲと観察し始めた。
全校生徒、特に女子の観察には大変な圧があって、ミッキーはみるみるうちに赤くなっていく。
で、わたしも立派な交換留学生なんですけども。
なんせ、入学した時から普通に存在しているので、今さら交換留学生という認識はされていないようでありがたい。
中三の時にもカナダから交換留学生がやってきて、同じアメリカ大陸の人間だと言うことだけで担当にされて嫌な思いをした。
ま、交換留学四年生としては、そっとしてほしいというのが本音。
ところが、始業式終わって教室に向かうところでミッキーの方から声を掛けられてしまった。
「やーミリー!」
な、なんであたしの名前を知ってるんだ!?
まわりの生徒は、やっぱアメリカ人同士ってな温かい目で見てるんだけど、わたしにしては新年度の初日(アメリカは秋が学年の始まりだから)に面倒そうな男子に声かけられたって感じ。正直、ヌソっとしていて民主党的建て前で生きてますって男子は引いてしまう。だって、そういう男子は粘着質のグローバリストに決まってるから。ほら、日本にもいるでしょ、宇宙人の二つ名の元首相。
「オー、ナイスチューミーチュー!」
あとあと祟られたくないので、十七年の人生で身に付いた渾身の外交辞礼的スマイルで握手の手を伸ばす。
握ってきた手の温もりがやりきれないけど、おくびにも出さず簡単な自己紹介をする。
「あ、覚えてないかな、ボクのこと?」
「え……?」
ディズニーキャラを親類に持った覚えはないので瞬間凍り付く。
「ほら、シスコのチャイナタウンで隣のテーブルだった……」
「あ、あ、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
思い出した。
フォーチュンクッキーで盛り上がってた時に……隣のテーブルから声をかけてきたのは……?
「たしか、ミハル・セトウチといっしょだったわよね?」
演劇部因縁の生徒会副会長との有りうべからずの邂逅を思い出してしまった。
「そうそう、ミス・ミハル!!」
なんで感嘆詞が二つも付くんだ?
「ミハルはなんで三年生なんだろうなーーー」
なんでため息? まるで体中の幸運が逃げ出してしまいそうな?
「ミハルと同じクラスになると思っていたのにーーーー」
190はあろうかというドンガラが萎んで消えてしまいそう。
「あ、え、えと、二年生だったわよね?」
「あ、うん、確かミス・ヒメダのクラス」
背中を脊髄に沿ってゾゾゾと来るものがあった。
「それって……わたしのクラスじゃん?」
ミッキーは地獄で仏のような笑顔……まではいいんだけども。
「オーーー、アメイジング!」
コラー! 渡り廊下でハグなんかすんなよおおおおおおおおお!
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