第26話「GAME OVER!」


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)26

「GAME OVER!」                     







「ご、ごめん。イヤホン抜いたら、こうなっちゃって……」


 部室にもどると、空気がおかしかった。

 吸血鬼であることがバレた男って、こんな感じじゃなかったかと思う啓介であった。

 千歳も須磨も、できたら同じ空気を吸いたくない。そんな感じで距離を取っている。


 すぐに分かった。


 ノーパソが点きっぱなしで、画面の中では3か月かけて軌道に乗せたグローバルクラブがクローズドになっている。5人のメイドさんたちは、3か月前、クラブに来たときの私服に着替え、ボストンバッグやキャリーバッグを手にして背を向けている。

「だ、大丈夫。セーブさえしていなかったら、やり直せますから……」

 啓介は、エスケープキーを押して強制終了させてから再起動させた。


 GAME OVER!  時間がたちすぎてしまいました 最初からお始めください


 画面には無情の一行が点滅していた。

「あ、あああああああああああ」

 啓介は、くずおれてしまい、年代物の椅子が断末魔のような悲鳴を上げた。

「で……でもね先輩ぃ……部室でアダルトゲームやってるのも、その……どーかと……」

 千歳は、車いすを軋ませて、やさしく言った。

「この部室では、何をやっても自由やねん。カルチェラタンやねん、そやさかいに……」

「そうなんだろうけど……あたしも、須磨先輩も、こういうのには慣れてないから……ってか、それと、もっと三次元に係わったほうがいいと思うんですけど」

 やさしい物言いではあるが、けっこう厳しいことを言う千歳ではある。

「千歳ちゃん、ちょっと言い過ぎじゃないかな。啓介君はイヤホンでやってるし、席を立つときも画面は見えないようにしていたよ。今回は、部長さんたちが押しかけてきてオフにする暇もなかったんだし」

「いや、オーラルモードをロックしてなかったのが悪いんです。もっかい最初からやり直します」


 啓介は、カーソルをニューゲームに持って行ってクリックした。


 千歳と須磨は、申しわけない気持ち半分、好奇心半分で画面を覗き込んだ。

「あーー、掃除からせなあかんねんなあ……」

 グローバルクラブというゲームは、自分でメイドクラブを経営するゲームで、最初に、手に入れたクラブの建物の掃除からやらなければならない。

「ほー、ひたすら画面をクリック、あるいはタッチするのね」

 啓介は、三月の終わりにグローバルクラブを始めた時に腱鞘炎になりかけたことを思い出した。

「あ、先輩。あたしも手伝います」

 千歳が、しおらしく申し出る。

「じゃ、ボールペンの尻でタッチしてもらえるかなあ」

「よし、あたしも」

 須磨も加わって、三人で画面をタッチし始めた。


 <<<ドバッ!!>>>


 いきなり画面が震え、次の瞬間、爆発のようなエフェクトがあって、画面は無数の、そしてありとあらゆる害虫に覆いつくされた。


 高温多湿の6月なので害虫が大量発生しました!


「すごい、このゲーム、カレンダーに連動してるのね!」

「ハハ、リアル~!」

 やり始めると、面白がる二人だが、啓介は思い出した。


「そうや! えらいことになってるんやった!!」

 

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