第27話「和解のシュチュエーション」 


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)27

「和解のシュチュエーション」                   







 演劇部は、部室棟から締め出されそうだ。


 部室に湧いた害虫をバルサンしたところ、害虫たちは他の部室に移動して大繁殖してしまったのだ。




「「「「「「「「「「演劇部は出ていけ!」」」」」」」」」」


 演劇部排斥の声が部室棟に満ち満ちた!




「こら、グローバルクラブの害虫退治やってる場合やないなあ」


 啓介は、害虫たちに蝕まれていくグローバルクラブに痛ましい目を向けながらノーパソを閉じた。


「オワーーーーー!!」


 はずみでノーパソから1000匹ほどのダニとシラミが噴き出てきたような気がして、千歳と須磨はのけ反った。

「あ、これはノーパソに溜まってたホコリやさかい……」

 害虫退治はやったが、掃除までは行き届かない演劇部である。

「ちょっと話つけてくるから、2人はここに……長引くようやったら先に帰ってくれてええさかい」

 そう言うと、テーブルを「バン!」と叩いて、啓介は立ち上がった。

 演劇部を糾弾する声が、すぐそこまでに迫っている。

「啓介くん……」

「啓介せんぱーい……」

 千歳と須磨は、絞首刑をうける囚人を見送るような声音で啓介を見送った。


「え…………」


 廊下に出て驚いた。部室棟の住人達は、演劇部とは離れた廊下の西の外れ、それも背中を向けてざわめいている。

「ん……あれは?」

 人ごみの向こうで、形の良い両手がハタハタと動いているのが見える。近づいてみると、両手の間に見慣れた顔が演説している。


「だぁから~! これは演劇部だけの問題じゃないの! 害虫が湧くというのは、この部室棟全ての問題なの!」

「そやろけど、現に、演劇部だけがバルサン焚いて迷惑こうむってるのは事実やねんから!」

「せや、まずは、演劇部の責任や!」

「それとも、生徒会が先頭に立って、どないかしてくれるんか!?」

 並み居る住人達を、小柄な瀬戸内美晴が制している。敵ながらアッパレなもんだと、啓介は感じてしまった。

「ちょっと、いまの言葉プレイバック!」

 一瞬静かになった。美晴が初めて反撃的な言葉を発したのだ。

「……いや、せやから、生徒会がどないかしてくれるんか……て?」

 美晴の反撃に、発言者はたじろいでいる。


「間違ってるわよ。そうでしょ、部活って自律的なものよね? 生徒の自治活動のカナメだと思う、思うよね? だったら、なんで部活同士はテンでバラバラなの? こんな古い木造の建物で、それもジトジトの梅雨時。虫が湧いても当然じゃない。でもって、いちばんたくさん湧いちゃったのが演劇部。おそらく南側に生け垣が密生してるんで、いちばん湧きやすかったんでしょ。で、演劇部は自分たちの力で駆除をした。間違ってないわよね? ただ一点、ほかの部と協調できていなかったこと。それは他の部も同じでしょ。だったら、みんなで相談して、いかに、この部室棟から害虫を駆除するかって話にならなきゃおかしいでしょ。演劇部を糾弾したって、害虫問題は解決しない。イラついてスケープゴート作ったってしかたないじゃやん!!」


 住人たちは沈黙してしまった。


「で、ここから建設的に考えたいの。害虫退治はやみくもにやっても効果は薄いわ。まず、部室棟全体の調査が必要。その上で効果的な対策を練りましょ」

「せやけど……そんな専門的な調査は、俺らだけではでけへんで」

「なんのための生徒会だと思ってんのよ! そういうグローバルな仕事をやるためにこそ生徒会があるのよ! 今週中にも専門の方に入ってもらって調査をやります! その結果をふまえて、みんなで考えましょ、力になるから」

 美晴が見まわすと、住人たちは、互いの顔を見合わせながら頷いた。

「じゃ、最後に握手して」


「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」


 住人たちは戸惑った。

「なに言ってんの。みんなで演劇部の部長つるしあげたんでしょ。害虫問題を実質的に提起したのは小山内君なんだから、握手くらいはしときなさいよ。これからは、なにごとも連帯してやってかなきゃならないんだから」


 なんだか映画のラストシーンのような和解のシュチュエーションになってしまった……。

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