第25話「お帰りなさいませ、ご主人様!」


オフステージ(こちら空堀高校演劇部)25

「お帰りなさいませ、ご主人様!」                   







――お帰りなさいませ、ご主人様!――


 画面の下に台詞が出て、甘ロリのメイドさんが、画面いっぱいの笑顔で出迎えてくれている。




「か、かわいい……」

 須磨の声がうわずった。

「……なんだか、いけない可愛さのように思えます……」

 そう言いながら、千歳も画面に釘付けになってしまっている。

「イヤホン外してみようか……」

 須磨は、ノーパソに繋がれていたイヤホンのケーブルを外した。


――メディアが外されました オーラルモードになります――


 画面の上にテロップが現れ、メイドさんが嬉しそうに手を叩いて喜んでいる。

『嬉しい、ご主人様! オーラルモードでやってくださるんですね!』

「「かっわいいいいいいいいいいいいいいい!!」」

 須磨と千歳の声が重なった。

『ご主人様ぁ、お食事になさいますか? お風呂になさいますか? そ・れ・と・もぉ……』

 メイドさんは、ポッと頬を染め、顎の下で指を絡ませた。

「そ・れ・と・もぉ……って、なんなのでしょう?」

「そ、そりゃ、このシュチエーションなら……」

『シュチエーションならぁ…………?』

 メイドさんの顔がアップになり(つまり近づいてきた)潤んだ声で迫って来た。

 須磨は、思わず「H」のキーを押した。

『あ~ん、オーラルモードですよ、ご主人様。声に出しておっしゃってくださいませぇ♪』

「え、え、え、声で……だそーですよ! 先輩」

「まかしといて……Hがしたいなあ!」


 すると、サロン風だった画面は冷凍庫の中のように凍てつき、メイドさんの顔から笑顔が消えた。


「そ、その声、ご主人様じゃない! で、出て行ってえええええええええええええ!!!」


 顔中を口にしてメイドさんが叫ぶと、ショックのエフェクトになり、ビューンとサロンが遠ざかり、

 ガチャピーン!!

 鉄の扉が閉まって、ゲームオーバーになってしまった。


 ガチャガチャガチャ!


 立て付けの悪い最後のドアが開いた。

「ここが一番ひどいんや!」

 漫研部長が開いたドアの中は、肉眼でも分かるほどに害虫が蠢いていた。

 ダニやシラミは普通見えないが、まるでコショウかなにかをぶちまけたようなものがゴニョゴニョしている。小さな雲みたく、部屋の隅では蚊柱が立ち、ゴキブリさえも羽を伸ばして飛び回っていた。

「演劇部がバルサンたいたから、演劇部はきれいになったやろけど、他の部室に害虫が集まりまっきてしもてんねんぞ!」

「ど、どないしてくれんねん!!!」


 部室棟の部長・マネージャーたちが、いっせいに啓介につめよった。


「か、かんにん!!」


 啓介は無条件降伏するように両手を上げた。そして、廊下の片隅でほくそ笑んでいる人影があった……。 

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