08 ピンチの後にピンチあり

 スクリーンで地図を見た俺は自身の青い点の外側を囲うように集まってくる赤い点滅を見て、血の気が引いた。

 木にぶつかって痛かったんも既に何も感じへん。

 赤い点滅はどんどん近づいてくる。

 ”チェック”も”サーチ”も同時に使えるようになってるから、ヤバイ状況なのが手に取るように分かる。

 おワタ。

 俺終わったかも。

 なんてったって、囲まれて近寄ってくるんは、レベル20とか30とかの”アネクネメボア”の集団なんやもん。

 あいつら動いてるものを襲うってナガレ氏が書いてたし、俺、派手に走り回ってたし。

 そりゃぁ狙われるよね。

 常に地図を開いて見とかんとあかんかったんやね。

 また一つ勉強になったわ。

 人生最後の勉強かもやけど……。

 どうしよ?パーやん。何とかならへん?

 

「はぁ……」


 パーやんは呆れた様子で、ため息混じりに返答する。

 表情とか見えへんのに見える気がするんやで。

 いや、もうめっちゃピンチやねんて。

 助けてぇな。

 死ぬって、ホンマに。


「得意の落とし穴を作れば良いのでは?」


 落とし穴!

 そうやん、俺の得意の魔法やん。

 かれこれ何個ほど、どれだけ落とし穴作ったかっちゅうねん。

 

「はっは、はっはっは、はぁーはっはっは」


 思わず笑いの三段活用してもたで。

 急に自信がわいてきた。

 早速落とし穴を作ろう。そうしよう。


「せいっ!」


 ”ぼふん”と俺の真下に小さく深い落とし穴が作成された。

 作成と同時に俺はその穴の下に潜る。

 さらにグングン掘り進める。

 隠れるんは得意やで。

 これで、あいつら、ここには来られへんで。

 さすが俺やな。

 奴らの大きさやったら、この穴には入って来れへんやろ。


「マスター……。 あのー、非常に残念なのですが」


 何がや?

 ほれ、スクリーン見て見ぃや、あいつら去ってったで。

 

「いえ、この場合は魔獣を落とし穴にはめれば良かったのでは?」


 へ?

 いや、せやかて魔獣をハメる?

 何で?あれぇ〜?

 そう言われたら、そうかな?


「いや、俺は無駄な殺生はせぇへんって誓ったんや」


 せやから奴らを全部ハメるとかあかんねん。

 と言い訳する。


「駄目ですね、ダメダメです。がっかりですマスター。」


----------


 しばらくの間、地図上で赤い点が近くに居なくなるまで、大人しく穴で休憩した。 

 ただ、待つだけは退屈やからスクリーンと地図、チェックとサーチの使い方を勉強がてら、食用可能な植物の分布とかを調べる。 


 さて、魔獣も近くにおらんし、そろそろ穴から出るか。

 基本的に落とし穴を作る時は、土を圧縮して作成している。

 それを緩めて盛り上げていけば、穴は元通りに戻る。

 深く掘る時は、硬い土やら砂利やら木の根とか結構あるんやけど、それも含めて熟練なんやで。

 幾度も行った熟練のその技で、落とし穴の底から土を盛り上げて、地上に出る。

 地面はすっかり元通りや。

 穴が有ったとは誰にも気付かれへんで。


 地上では太陽が沈みかけて、夕日が綺麗だ。

 まるで、俺の生還を祝福してるかのようやで。

 海が近く、遮るものが何もないから、日が沈む様子が良く分る。 

 綺麗やなぁ〜。

 ちょっと、領地に戻りたくなってきた。

 王都の西側には海があって、旅行の時は家族で夕日をよぉ眺めとったっけな。

 っと、感傷的になってもたで。

 俺は成り上がるまで故郷には帰らへんねや。


 そうして、俺は食べれる野菜と燃料用の枝を拾えるだけ拾ってテントに入る。

 とりあえず、腹ごしらえせなな。

 野菜だけでも食べな体力が持たんからな。

 アネクネメボアに集団で襲われた後の穴の中で、スクリーンの使い方もさらに熟練して、今では現物の植物を見ながら、情報を調べて横のスクリーンで確認するのも可能だ。

 情報を選別する事で、植物を見て食べれるか食べれへんかすぐさま確認も出来るようになった。

 不要な情報は見れへんようにも出来るし、これで、今後は採取も問題なかろうよ。


 間違いなく毒も無く食べれる野菜を取ったし、燃料の枝は良く燃える油分が含んだ枝ってのが、あったし万全やで。

 俺は倉庫を思い浮かべ、鍋と五徳を出す。

 指輪のパーやんから物を出し入れするのも大分慣れたよ。

 今では、持ってるものを思い浮かべれば出てくるで。

 収納も地面に刺さった剣を取りに行った時に、刺さったままでも収納出来たんやで。

 使い慣れてくるとパーやんがホンマに便利すぐるわ。

 五徳っちゅーんも、便利やで。

 爺ちゃんが自慢しとったわ。

 この五徳と鍋があればどこでも飯にありつけるってな。

 五徳の下に拾った枝を置き、火の魔法で火をつける。


 魔力がもったいないから、種火として火魔法を使うだけで、残りは木とか別の燃料で料理した方がいいんやで。

 結界を維持するんにも魔力使っとるからな、魔力が枯渇したら多分、死ねるやろうしな。

 節約できるもんは節約せなあかんのやで。

 そのへんは爺ちゃんに嫌っちゅう程、教わったからな。


 火を起こしたら五徳の上に鍋を置く。

 ウォーターで鍋に並々と水を溜めたら、後は野菜を入れるだけ。

 おっと、ちょっと水を入れすぎたか?

 少ぉしだけ、こぼれたで。

 まぁいっか。

 野菜は沸騰した水に入れて食べるのが良いってナガレ氏の百科事典に書いてあったで。

 後は待つだけやで。

 ぐつぐつぐつ。

 ぐつぐつ。

 火力も上々。

 パチパチ言いながら弾けるように枝も順調に燃えとるで。

 湯気がテント内に充満する。

 湿気が多くなり、テント内中にもやもやが籠る。

 俺は風の魔法でテントから湯気を追い出す。

 そろそろ出来るぞ、さあ食べよう。


 と思ったところで、ふとした事に気が付いたんや。

 カトラリーの類が全く無いやん……。

 ど、どどど、どうやって食べよ?


 とか考えてる間もなく、鍋は沸騰しまくった。

 そりゃーもう沸騰しまくった。

 おこやで、おこ。

 ほんで、沸騰した水は泡を弾かせながらボコボコと溢れかえって、テント内に散らかしたおす。


 どうしよ、どうしよ?

 とりあえず、風魔法で火を消すかと火に向かって風魔法をかけた。


 ……

 

 あ~らビックリ!

 火力がとんでもない事になったではあーりませんかっ。

 ついつい驚いた時の仕草、ほっぺに両手を捻じ込ませてお口を大きく縦に開く貴婦人様御用達の”んま~”の仕草。

 いやー、ヤバイで。

 火がどんどん強くなるで。

 風を送れば送るほど火が強ぉなるで。


 て……テントに火が燃え移るうぅぅ。


 あかん、消さな。


 風がダメなら、水やで水!

 水で火を消そうと火元に向かって


「そいやっ!」


 と、ウォーターで水をかけたんよ。

 そこまでは覚えてるねん。


 水をかけたあとが、思い出せんのよ。

 なんでって?

 だって、服はボロボロに焦げ落ちてるし、髪の毛チリチリやし、俺、ぶっ倒れてるし……。

 ってか、テントがもう、見るも無残に散ってしもてるし。


 あじゃぱ〜!やで。

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