09 男たるもの裸一貫

 チリチリになった髪の毛を手櫛で軽く整えて、ボロボロになった服を脱ぎ捨てる。

 

 はぁぁ……。

 十歳の誕生日に爺ちゃんに貰った一張羅やったのになぁ。

 領主一族として、恥ずかしくない衣服やったのに、さすがの俺も今の様相を呈して憮然としてため息をつく。


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 誕生日に貰った服は上半身は俺の悪戯好きで、活発な動きに馴染むように、袖は短く肘までの長さで袖の先端は貴族らしく、ひらひらが編み込まれて軽やかに。

 脱ぎやすく着やすい為の大きな鼈甲べっこうの留め具が三つ。

 全体の色は誕生月の翡翠色で肩から先の袖に向かうにつれて色は薄れていく。

 下半身も動き易さを重視して、膝までの長さでゆったりめのキュロットで履き心地は抜群だ。

 鮮やかさが控えめな若苗色に薄い白色の縞模様が縦に横に走り抜ける。

 若苗色は、小さくとも逞しく育つようにと爺ちゃんの想いが込められた新芽の色で俺は好きやで。

 小さいっちゅーんは余計なお世話なんやけどな。

 爺ちゃんかて、普通の大人の平均よりかなり小っちゃいからな。

 俺が小っちゃいんも遺伝やで!い・で・ん。

 黒く艶やかな生地に夜空に輝く星のような文様を散りばめて織り込んだ外套を羽織り、灼熱の太陽から、夜の寒さから身を守る。

 星の紋様はホシノ領の家紋やで。

 結構かっこええねんで。

 これが俺のいつもの服装やってんで。


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 外套は夜とか日差しが強すぎる時以外はパーやんの中に収納しとったんが幸いか。

 衣装をもらった当時は体にまだ合わんかったけど、二年も経って俺にも長さが合うようになって、似合ってきたな、馴染んできたなと思った矢先にこれやで。

 ま、ええわ。

 また、いつか爺ちゃんに出会えたら服をおねだりするねん。


 さてさて、結局のところ何がどうなってこんな状況になったんやろか?

 改めて俺は周囲を見渡す。

 結界石が四方に置いてあり、その外側は地面が少し抉れたようにズタズタである。

 そして、確か調理をする前、テントに入る時は夕日が見えたような記憶があるが、今現状はもう少しで太陽が真上に来るであろうか、ぎんぎらぎんに照りつけている。


 なんでこうなった?

 教えてパーやん先生!


「結論から言いますと、爆発しました。」


 ばく・はつ?

 俺の料理が芸術過ぎたって事かいな?


「……」


 返答無しである。


 ちょっ。 無言は怖いで自分。

 指輪のくせに変な圧力かけてくんなよな。

 指輪から”もわっ”と変な赤いゆらゆらが見えるで。


 冗談はさておきやな。

 えっと、なんで爆発したんよ?


「マスターの拾ってきた薪木は油が大量に含まれていましたよね?」


 うんうん。

 ちゃぁんと調査して燃えやすい木材やったはずやで。

 ナガレ氏の辞典にも良く燃えるって書いてたしな。


「風魔法で燃焼を加速させましたよね?」


 せやな。

 俺は火を消すつもりやったんやけどな。

 燃えすぎたところに風を送ったらさらに火力が上がるって知ったで。

 また一つ勉強になったんやで。

 いつか攻撃魔法として昇華させる時もあるかもやで。


「燃えてる火元に水をかけましたよね?」


 覚えていますか?

 と問われ、そこまでは覚えてるって答えたんよ。


「それが原因です。」


 はぁ?

 解らん珍やで。

 火には水やろ?

 焚火とか雨降ったら消えるやんかいな。

 見たことあるで。

 そんなん学園に行かんでも知っとるわ!

 常識やで常識。

 だーかーらー、なんでやねんって。

 つーまーりー?


「熱して高温状態の油に水をかけると爆発します。」


 マジっすか。

 ってかホンマかいな?

 俺を騙そうとしてへん?

 火と油ならなんとなく分かるけど水と油もあかんねや。 

 ほぇぇ〜、知らんかったわぁ。

 棒読みである。

 ホンマか嘘か今はまだ信じられへんで。


「ちなみに、爆発した瞬間の火力は、王都の魔法騎士団十人分の火魔法の威力と同等です。」


 とかなんとか言っとるで。

 そんな魔法喰らったら、即死っしょ。即死。

 王都への家族旅行の時に騎士団の演習で見た事あるんやで。

 騎士団の上位の人らは、うちの領軍の魔法使いと同等くらいの魔法使ってたんやで。

 あ、もうあれか、”うちの”領軍ちゃうけどな。 ホシノ領軍な。


 ほな、なんで俺、生きとるんや。


「私が生命維持しましたから。」


 またもや生命維持とか……。

 即死っぽい状態でも生命維持可能なんやぁ……。

 もしかして俺ってパーやんが居れば、魔力の続く限り無敵なんちゃうか?

 んで?止めんかったんは理由があるんやろ?


「はい。 マスターに火耐性LV4が付きました。」


 これで殆どの火に対する耐久が着いたんやと。

 ホンマに、ええかげんにしてほしいわぁ。

 痛い思いとか、怖い思いは嫌やって前にも言ったやんなぁ?

 頼むでジブン。

 痛ぁなる前にさ、こう、防御壁とか張ってくれたほうがどんだけ嬉しいかっちゅうねん。

 

 その後もネチネチと、パーやんに対して愚痴を言い続けた。

 それにしても……。

 はぁぁぁぁぁ。

 ため息しか出ぇへんでなもし。

 

 俺は、周囲を確認する。

 目視とスクリーン上の地図との両方で。

 何でって?

 そりゃぁ、食べれるもんを探してるんやん。

 やって、もう何日も飯っちゅう飯にありついてへんのやで。

 流石に限界が近いわ。

 あー、せやせや、パーやんよ、俺が地図見損ねてしまう事もあるやろうから、あれやで、魔獣とか危険が迫ってきたら教えてやー。

 

「了解しました。 アラート機能を解禁します。」


 あっらーと?

 どんなんどんなん?どんな機能なん?


「マスターに危機が迫った時または危機に陥りそうな際に警告を音と画面の点滅で知らせます。」


 おほぉぅ。

 そりゃーまた便利やな。

 最初っからそれ起動しとけよな!

 とか思ったけど、無事やったんやから今更やな。

 恐らく最初っから起動させられとったら、警告の嵐で不安で恐怖で心が壊れとったかもしれんしな。

 今は新しく増えた機能を喜ぶとするか。


 そうして、俺は飛び散った鍋と五徳を回収して廻った。

 調理してた野菜は何処にも見当たらず、男サツキ十二歳、裸一貫で無人島生活再開ですな。

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