07 初めての狩り

 やっと、俺でも倒せそうな動物を発見した。

 牛やで牛、牛の肉は美味しいんやで。

 ぶっちゃけ、好物やわ。

 心の中ではもう、食べた気分になってしもて、涎がじゅるりと滴るでぇ。

 しかしまぁ、どうやって狩ればいいんかな?

 領では牛ってどうやって、絞めてたっけ?

 そう言えば、俺、領に居る時って誰の何の手伝いもせんと、悪戯しかしてへんかったもんなぁ。

 料理は出て来たもん食べるばっかりで、料理人が作ってるんは知っとるけど、そこに至るまでの過程が全く分からへんわ。

 何にも考えてなかったんやなぁ……。

 何も考えんと、美味しい美味しい思って食べてたんよなぁ。

 まずいって思ったもんは、少し食べては捨ててたっけ。

 もしかして、苦労して作ってたんやろか?

 牛を食べるって事は、肉を切るんよね。 

 肉を切るって事は、そいつ殺さなあかんよね。

 牛からすると痛いよね。

 ふっ……。と頭が一瞬くらりときた。

 足元もちょっとガタガタぶるぶると震える。

 背中がゾクゾクする。

 嫌な汗が出てくる。

 俺って、ドッキリとかしてた時も絶対に誰にも怪我させんように気ぃつけとったし、俺自身も痛いんは嫌なんやで。

 その俺が、俺が、牛を……殺す?

 え?

 

 え?


 嫌な汗が噴き出してきて止まらへんで。

 な、なぁ、パーやん。

 やっぱり植物とかだけ食べて生きて行けへんやろか?


「それは不可能です。」


 あっさりと嫌な事を即答で言い切りよった。 


「生きていく事すなわち殺し続けること。 これは生きとし生けるもの全てに共通します。」


 そ……、それは何となく分かるし、そりゃぁ俺も肉美味しいとか思ってたし……。

 けど、じゃぁ魚とかどうや? ほら、ここって島やし海あるし。

 おいしい魚もぎょーさん居るで。


「魚も生き物ですよ。」


「そんなん分かっとるわ!」


 いや、分かってへんのか?俺。

 そりゃそうやな、魚かて生きてるもんな……。

 貝かて動いてるからには生きてるんよな……。

 よくよく考えたら、植物かて生きてるんよな……。

 そうやんな……、生きるってそういう事やねんよな。

 そんなん考えとると心がきゅぅぅんってなるわ。

 なんや、無性に悲しゅーなるわ。

 心の臓がズキズキするで。

 せやけど、せやけどなぁ、食べな生きて行かれへんねん。

 それは真理やねん。

 せやったら、やったろうやないの。

 食べたろうやないの。 殺したろうやないの。

 

 俺は決心した。

 もりもりったる。

 そりゃぁもう殺したる。

 って殺して”くっころ”や。

 せやけど、食べる分以外は殺さへん。

 殺さへんでぇえ。


----------

 

 俺は意を決してテントを出る。

 近くに魔獣が居らんのは確認済みや。

 今は雨も降ってへんし、太陽がギラギラと照らしてくる。

 昼間は魔獣の活動も消極的で、動物も油断してるはずや。

 狙いはバーテンウシ。

 待っとれよバーテン野郎!

 俺は調べた内容を思い出しつつ、片手剣を持って木陰に隠れる。

 奴らは、危険を感じたらこっちを襲ってくること請け合いやからな。

 静かに、そっと、バレへんように近づく。

 俺ってばドッキリの時にバレへんように風魔法で気配を消すんは結構得意なんやで。

 狙いは雌の一頭、その一頭のみ。

 それ以外の無駄な殺生はせーへんのや。

 他にも雌と子がぎょーさん居るから、また増えよるやろ。

 子孫繁栄にも困らへんやろからな。


 近づいてきた!

 俺は木の影から、風魔法でそれとなく雄と雌を誘導しながら雌一頭になるように移動させた。

 ほんで、一頭になった雌の後ろからさらに風を送り込む。

 雌がこっちに一頭で近づいてきた。

 どきどき……。

 心の臓がさっきからバクバク言うて止まらへん。

 落ち着け~、落ち着け~、俺。

 一撃。

 一撃でその命を絶ったるで。

 苦しまんように。 絶対に一撃で殺したる。

 俺は剣に魔力を通す。

 剣の周囲に白く淡い光が漂う。

 しっかりと剣に魔力が行き渡ったようだ。

 これだけ魔力突っ込んだら、もしかしたら魔獣かて倒せるかもな、とか思いながら雌が近づくのを待つ。

 少し落ち着いてきた。

 大丈夫。俺なら出来る。

 近い。

 五、四、三、二、一。

 今や!

 こっちに近づいてきた雌バーテンの頭を目掛けて、魔力のこもった剣を両の手でしっかりと握り込み、上段から一閃する。

 片手剣?それがどうした。

 俺には両手で扱うんが一杯一杯やで。

 真っ直ぐな切っ先は魔力輝く白い光を残像として残し、美麗に清らかに振るわれた。


「必殺!屠殺とさつ剣!」



 ”がぎぃいぃん”


 ふぁ?


 思わず甲高い声で、頭の天辺から声が出て行ったような間抜けな声が出てしもた。


「は、外してもーた!」


 俺の振るった剣は鼻先を微めるだけで地面に突き刺さってしもた。

 ぬ、抜けやん! 剣が抜けへんでぇ。

 しかも地面に剣が当たった衝撃で、手が腕がめっちゃ痛いで。

 ってか必死こいて剣を抜こうとしとったら、遠くに追いやったはずの雄バーテンがこっちに突っ込んでくるやんかいな。

 雌、雌バーテンはどっかに逃げてったで。

 やばい、やばいで。

 雄めっちゃ速いやん。

 あかん、あかん、逃げろ、逃げろー。


「うひゃーぁぁぁ。」


 俺は叫びつつ必死に逃げた。

 そりゃぁもう逃げた。

 めっちゃ逃げた。めっさめさ逃げた。

 わき目も振らずに逃げに逃げた。

 後ろを振り返った。

 雄バーテンはもう見えんくらい離れとった。

 けど、後ろを振り返ったせいで、足元がおろそかになって、俺は転んだ。

 走った勢いそのままで、前方に跳ぶ様に、派手に力強く転んだ。

 曲芸団の様にぐるぐる回りながら転んだ。

 転んだ勢いでさらに、前に有ったっぽい木?にぶつかった。

 

「痛ったああぁっぁぁ」


 ちょっと意識飛んでもうたわ。

 腰を強烈に打ってしもたで。

 動くんが億劫やで。 

 安全確認して安全やったらこのまま休憩したろ。

 と、スクリーンを見た俺は痛みが吹っ飛ぶ程の恐怖に陥った。

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