03 無知は時として罰となる
結界を施したテントの中で、右側に魔獣用の剣を置き、左側には魔力で光る灯りが一つ。
テントは一人用で無理すれば二人は足を延ばして寝る事が出来るくらいの大きさだ。
俺一人なら十分過ぎる広さやで。
今後、どうするかな?と考えを巡らせようとしたところ、結界の中というのもあり、安心したのか、お腹が”ぐぅぅ~”と鳴り響く。
一人で良かった。周りに女の子とかおったら、めっちゃ恥ずかしいやん。
そういえば、家を追い出される前の昼に食事をしてから、何も食べてない事に今頃になって気づく。
あかん。腹減って考えるんも動くんもめんどくさなってきたわ。
腹が減っては戦は出来んってな。
とりあえず、何よりも腹ごしらえせなあかんわ。
さてさて、よーく考えたら指輪には食料の類は全く無かったんを思い出したで。
ヤバイやん。
外はもうすぐ真っ暗になるやろうし、どうするか。
朝まで空腹で耐えれるやろうか?
無理やな。
空腹で朝まで耐えれる自信があらへんわ。
確か、さっき外の木で”ソテツ”っぽい木があったな、あの実は確か食べれたはずや。
領内でも薬や何やとして重宝しとったはずやで。
俺は結界石に今一度魔力を込めて結界を維持させたまま、テントの外に出る。
雨降ってるし……。
しかも激しい雨やし……。
結界の中に居ったから聞こえんかったんか。
外の音が聞こえんのもちょっと考えもんやなと思いつつ、しゃーなしに外へ出る。
”ソテツ”と思われる木に登り、木の天辺にある白いもじゃもじゃの中から薄い赤い実をサバイバルナイフでごそごそと抉り取る。
その独特な形状の木の幹は木登りをするのに最適であった。
木の実は俺の小さな掌でも二つ三つは持つ事が出来た。
そうして、三つの木から実を大量に取り出して、腰袋が一杯になったところでテントへと戻る。
テントに入ってすぐにウォッシュの魔法で体についた雨やら泥を洗い流す。
足元に溜まった泥や水もテントの外に追いやる。
ふぅ。
さてと、食糧はゲット出来たで、とりあえず食べてみるか。
さっきのウォッシュで実も一緒に洗ってあるからそのまま食べてもえーやろ。
ガブリとその赤い実にかじりつく。
「んがっ!!」
ピリリと刺激が口の中に迸る。
めっちゃ苦い。
舌がぴりぴりするで。
良薬口に苦しやったっけ?
苦いのは体に良く効くって聞いた事があるで。
苦いながらも空腹には耐えられず、俺はもぐもぐと実を食べ尽くして満足したんやで。
後でとんでもない事になるとは思いもせずに……。
とりあえず、空腹は治まったし指輪もといパーやんの機能を調べなあかんな。
さてパーやん、落ち着いたしお前の機能を色々しっかりと聞いたるで。
俺は満腹になってどっしりと座りながらパーやんに問いかける。上から目線で。
「そうですね。 最初に説明した通り私はパーフェクトマルチメディアツールと魔法の指輪との混合物です。」
それは、もう聞いたから分かってるねん。
何が出来るんやっちゅーねん。
「マルチメディアという言葉は分かりますか?」
「いや、わからへん。」
「マルチメディアとは簡単に言えば、あらゆる情報を統合し収集したものをデータ化してそれを可視化出来るようにしたものです。」
俺は座って寛いだ姿勢から今度は寝転んでリラックスしながら更にに問う。
「って事は、さっきの地図みたいな情報って事かいな?」
「そうですね。 地図もその一つです。」
パーやんはさらに続けて話す。
「私はありとあらゆる情報を手に入れるように作られており、グランドマスターである流星さまから得た知識や情報も網羅しております。 もちろん今現在も周囲の魔素から様々な情報を入手しておりますよ」
パーやんが女性やったら、うふふん♪と言った自慢げなポーズで話したであろう言葉を聞きつつも、んー、ほな、爺ちゃんの知識もパーやんに全部詰め込まれてるっちゅー事かいな。
その知識やら情報は全部、俺が見る事は出来るんかいな?と問う。
「否、一部の情報はマスターに開示するには権限が不足しています。」
なるほど、どうやったらその権限がもらえるんかは分からんけど、一般的な知識としては地図を見る限り、十分過やし、それ以上の知識を俺も特に知ろうとも思わんし、大体のところは分かったわ。
ところで、お前を起動して色々と機能も使って来たけど、ここの島に来てからはあんまり俺の魔力が減ってへんのは何でやろうな?
領内の地下倉庫で収納した時や、転移盤で転移した時なんかは頭痛が結構あったはずや。
パーやんそのへんどうなってるんかいな?
「この島は魔素またはマナと呼ばれる魔力の素が豊富にあります。 その魔素を周囲から少しずつ私に溜め込む事でマスターの消費魔力は極わずかとなっております。」
そら便利やな。
こっちに来てからそんなに魔力を使った気がせんのはそういう事か。
普通、魔力をあれだけ使えばもっと頭痛がするはずやからな。
「ちなみに。 私とマスターが融合している今だから出来る事であり、通常は外部の魔素を体内に取り込む事は高位の魔法使いでも稀で難しいことなのです。」
えっへんと言わんばかりに自慢をしてくる。
元々、俺は周りからも魔力が高いだけの能無しと言われとったくらい魔力だけは多量にあると自負しとったけど、パーやんのおかげでさらに外部からも魔素?を補給出来るんはかなりお得やな。
寝転がって他にも色々な機能を聞きながらウトウトと眠くなりつつ、そろそろ寝ようかと思った時、突然にお腹に激痛が走る。
「ぐおぉぉぉおぉおぉおぉぉぉおお!」
やばい、やばいやばいやばい。
腹痛がヤバイ。
俺はお腹を押さえつつ這いずりながら、テントの外に出る。
(鰤鰤鰤鰤)
体の中から汁という汁がお菊さんからじゃーーじゃーと出てゆく。
塊では無く、液状やで。
それと同時に口からもげーげーと吐き散らす。
頬はこけて腹は常に力を入れとかんと耐えれん。
やっば。
俺、死ぬかも……。
水分という水分が体から抜けたところで、這いずり周りながらもなんとかテントに入り
意識が途切れる直前でかろうじてウォッシュの魔法を唱えた。
ウォッシュの魔法を唱えた途端に俺の意識は失われた。
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