無人島生活
01 そこは無人島でした
俺は転移盤に乗った。
幾何学模様が足元に輝き、少しの頭痛と共に景色が揺れる。
さっきまでの地下倉庫のジメジメした空気から一瞬にして、暑い空気に切り替わる。
「暑い。 ってかあっつぅ」
思わずに叫んでもーたわ。
家を出る時は夜やったのに、今は燦燦と太陽が輝いている。
ギラギラと言った表現の方があっているかな……
転移魔法は通常、行先を決めてまたは行先が固定であるのだが、この転移盤は普通の転移とは少し違う。
爺ちゃんの魔改造によって、ランダムに転移する仕様となっているのだ。
どこに転移するかは、その時々によって違うし、一回転移したら一か月は使えない。
非常に爺ちゃんらしい微妙な使い勝手の物である。
せやけど、海の中とかじゃなくて良かったわ。
爺ちゃんに昔聞いた時は海中に転移する事があったらしく、改良して生活範囲圏にのみ転移するように直したとは聞いていたが、実は少し不安であったのだ。
海中もさることながら、極寒の地に降り立った日にはどうするつもりだったのか?とパーやんに聞かれたけど、無視無視。
そん時はそん時、なんとかしたらえーねん。
周りを見ると、領内で見慣れた木である”ヤシ”っぽい木、他には広葉樹やシダ系の植物が見えた。
昼と夜が反転したけど、生息している植物はあんまり変わらんっぽいな……。
気温も暑いっちゃぁ暑いけど、普段の領とそんなに変わらへん。
さて、ここはどこかいな?
パーやん分かる?
「はい、ここは約北緯10度、東経150度にある島ですね」
いや、そんなん言われても全く分からんわ。
俺は兄貴と違って、学園にも行ってへんし、碌に教育も受けてへんからなぁ。
というか、真面目に勉強しなかったのは自分のせいでもあるんやけど……。
まぁ今更やで。
勉強してもしゃーないねん。
どうせ領主になる事もなかったしな。
ほんで、さっきまで居ったホシノ領とはどれくらい離れてるんかいな?
「真反対ですね。 ホシノ領は約南緯10度、西経30度です」
だから、全然分からんっちゅーの。
何やもっと分かりやすくしてもらえんかなぁ?
とパーやんに問いかける。
すると、指輪から例の薄く青い膜が現れた。
パーやん曰く”スクリーン”と呼ばれるものだ。
既に見慣れたスクリーンを見ると左側に大きな土色があり、右側と上側に小さ目の土色がある。
その他は大体が青色で、所々に小さな土色が点々としている。
そのスクリーンの真ん中の少し右寄りにある土色部分で青く丸い点が点滅している。
もしかしてこれは地図かいな?
「はいそうです。こちらは世界地図となっています。」
世界地図……。
うちの領で見た事のある地図はもっと大雑把で左側に海と上側に山があり南に大森林があって、右側には帝国領と表示されているのみで、こんなに詳細なものでは無かった。
しかも、領で見た地図は羊皮紙に黒の炭で書かれたものでこんなに色んな色がついてへん。
もしかして学園や王都に行くとこんなに詳細な地図が出回っているんやろか?
「いえ、この地図は出回っておりません。」
はぁ……。
なんやわからんけど、めっちゃ便利なんは分かったわ。
ほんで、この青色に点滅してるんが今おる所って事かいな?
パーやんは正解ですと答えた後、ズームしますか?と問いかけてくる。
「せやな、なんか分からんけど、ズームしてちょ」
すると、青い点滅を中心に土色が画面いっぱいに広がって、木々や山、川などがはっきりと形が分かるようになる。
「な、ななな、なぁ~!?」
目で見て分かるくらいに詳細な地図に驚いた。
ちょっとパーやん凄すぎへん?
これって、爺ちゃんが言ってたチートってやつちゃうんかいな?
俺は地図を色々と指でなぞりながら動かしてみる。
なんとなく、このスクリーンの使い方を分かってきた気がする今日この頃やで。
地図の画面を右に左に色々と動かしてみて分かった事は、今いる場所の周りは全て海と言う事。
ズームはスクリーンを真ん中から親指と人差し指で中心から離れるように触れると出来て、その逆に中心に向かって指を絞るように触れるとズームアウトする。
何とも便利な機能やで。
あれ?なんか赤い点がこっちに向かって動いてるで?
なぁ、パーやん。
俺が青い点やん?で、この赤い点は何やろか?
非常に嫌な予感がするで。 額から嫌な汗が吹いてきたで。
「魔獣ですね」
至極冷静に答えが返ってきた。
「はぁぁあ? マジかいな?」
ちょっと目がビックになってもーたで。
「マジです」
いやいや、ヤバイって、ホシノ領でも魔獣は強く、襲われた人が何人も亡くなっているんやで。
基本的に魔獣を倒そうとしたら、ホシノ領でも一部の冒険者と辺境伯領軍くらいなもんで、一般人や領民は領都の結界に守られてる範囲からは出えへんのが常識なんやで。
普通の鉄の武器やらは通用せんし、魔法か銀の武器やないとあかんのよ?
俺も魔獣が居る領域には基本的に出入り禁止で、悪戯好きな俺でもそんな冒険はしたことないっちゅーの。
て言うか、武器もなんもあらへんがな……。
俺の身体と指輪のみで、足元に転移盤が転がっとるのみやで。
どうしよ?
どうする?
頭の中でぐるぐる考えながら、とりあえず海と思われる場所に向かって俺は走った。
最悪の場合、海に潜って逃げようと考えたんよ。
陸地に住む魔獣は基本的に泳いだり出来へんからな。
え?俺?俺は領地内の川で泳ぎを楽しんだりしてたし、一応、水泳は出来るで。
ってか、魔獣のやつ、俺を目にしたとたん、めっちゃダッシュで来るやん!
ヤバイって。
俺はさらに必死に海に向かって走る。走る。
「いやー、やめてんかー、こんといてー」
かつてこんなに一生懸命に走った事なんか無かったわ。
意外に走れるもんやなぁと自分に関心しつつ、やっとの事で海に着いた。
途中のシダ系の葉っぱで腕には擦り傷が出来てるけど、しゃーない。
命には代えられんわ。
後ろを振り返ると、いつの間にか魔獣は居なくなっている。
地図で確認すると、どうやら途中の木々で奴はぶつかったみたいやな。
今更やけど、落とし穴に落とすっちゅー手もあったかと思いついたわ。
人間、パニックになったら当たり前の事が出来へんのやなぁと気付いたで。
それにしても、うーん、魔獣の住む島かぁ……
とりあえず、太陽が昇ってる
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