プロローグ5

「ほんで? これ元に戻せるんかいな?」


 俺は文字を楽しみたいんやのぉて、ここにあった物をこれからの旅立ちに持っていきたいんや。

 どないしてくれんねん。


「もちろん元に戻せます。 戻したい物を目線か指で選んで強くイメージして下さい。あ、イメージとは、想像する事を言います。 その場所にそれがあるのだと強くイメージするのです。」


 んっと、目線で選ぶ?

 俺は薄い膜に張り付いた品目の文字を上から順に目線で追う。

 すると、どうだろう見えない範囲のところまで目線が下がってこれ以上は無いところまで膜の下まで目線が行くと、ずらずらと文字や絵が次々に入れ替わるやないの。


「はい、そのような現象をスクロールと呼びます」


 そっかぁ、スクロールね。

 覚えたで。 

 いやいや、ってか、今俺喋ってないよね?なんで答えるん?

 人の心読むとか気持ちわるー。

 きっも。

 何々?お前悪の魔法使いなんか?


「心外ですね。 先ほどお伝えした通り、イメージによるものです。 思念の込められた思いや、感情は全て私に通じています。 あなたは私で、私はあなたなのです。」


 もう、まったく意味が分からんし、考えたくないし、そういうもんやとあきらめよっと。


 品目の中で、まずは領地を抜け出すのに必須と思われるものを出してみようと考える。

 そして、領地内をうだうだ歩いて出ていくんは何となく腹立つし、兄貴の言った通り、迷惑や何やといちゃもん付けてくるんもたまらんし。

 いっその事、転移して知らん所に行ったほうがええんちゃうか?との考えに至った。

 確か、転移の魔法が込められた魔道具があったはずや。

 俺はリストの中から、該当するものを強くイメージする。

 リストとは品目を一覧にしたものを呼ぶのだそうな。

 あれこれ考えてる間に、指輪さん(仮名)からの情報で色々な表現方法を学んだんよね。

 多分この指輪さんが知らん事って無いんちゃうやろか?と思われるほどの膨大な知識を持っているんが分かったで。


「よし、出てこい!転移盤!」


 俺のイメージ通りにイメージした場所にイメージした瞬間に転移盤がそこにあった。

 転移盤が出る瞬間、少し頭にピリリと針でつつかれたような痛みがあったけど、倉庫内の物を収納する時のような鈍痛では無いのでさほど気にはならなかった。

 が、一応、聞いてみる。

 物を出し入れすると、もしかして頭が痛くなるんかいな?


「……」


 無言である。


「なんか喋れや!」


 ついつい指輪にツッコんでしもた。

 誰かに見られたらヤバイで。

 変な奴や思われるで。


「私と会話をするなら、始動キーを唱えて下さい」


 なんや、めんどくさい事になってるで、さっきまで、こっちが聞かんでもそっちから言いたい放題、先回りして知識を寄こしよったくせに……

 で、始動キーってなんや?

 爺ちゃんが昔言ってた変な呪文とかかいな?

 確か”てくまくまやこん”やったか?それとも”あらじんちゃびんはげちゃびん”で良かったか?


「全然違います」


 聞いとったんかいな、ほな、何やねん。 

 早よ言えや、イラつくで、ほんま。


「では、オッケー指輪さんと」


 は?

 何がオッケーなんやねん、ふざけんなよ。

 おい指輪!でええんちゃうんかいな?


「第二案で、へい!指輪さん!と」


「……」


「では、第三案の ねえ指輪さん でどうでしょう?」


「いやや」


 すぐさまに答えつつ頭を右に左にブンブン振り回す。完全否定の仕草やで。


「いややいやや、絶対に嫌や! 指輪に語り掛ける変な奴って周りから絶対に白い目で見られるわ。 ほんで、その空気に耐えれんわ」


 どないしたろ? どないしてこの指輪をしばいたろか?

 発動させるんにいちいち呼ばなあかんなんか、絶対に嫌やで。

 せやけど、この指輪が便利で使えるんは間違いないしなぁ……


「しかたありません。 では、私に名前を付けて下さい。」


 名前、名前かぁ……。

 昔から名前を付けるとかめっちゃ苦手なんよなぁ。

 ペットにしてた犬にも中々名前付けれんでおったら、妹のヤヨイが勝手に付けてしもたし……。

 まぁ、ええわ、考えたろ。

 ん?ところで、お前ってどんな機能があるんかいな?

 ってか、アイテム名みたいなんあるんやろ?


「そうですね。 私を作った創造主は私をパーフェクトマルチメディアツールと魔法の指輪の混合物と言っていましたね。ピーエムエム……」


「ほな、パーフェクトのフェ、マルチのル、メディアのディアでフェルディアって呼んだるわ」


 指輪が最後まで話す前に、直観で決めたった。

 そして被せて言ったった。


「普通、そういった時は頭文字で略すのでは……」


 と、いちゃもんを付けてきよったから、


「ほな、もうええわ。 パーやん! これで決まりな」


 そんなこんなで、指輪の名前は”フェルディアの指輪”愛称はパーやんで決定した。


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 そして、俺はこの領地の人間が誰も知らへん場所で暮らすんやと意気揚々と転移陣に乗り込んだ。

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