177 ぬりかべ令嬢、職人になる。
この世界の魔石は宝石と同じ様に希少性と美しさで価値が全然違う。魔石は魔力を持つ魔物から採れる場合と、魔力が溜まる自然の場所で採れる場合がある。
魔物から採れた魔石より自然に出来た魔石の方が価値が高い。それは魔物の魔石より自然の魔石の透明度が高いからだ。魔石は透明度が高い程希少なのだ。
だから魔物の魔石は主に魔道具に、天然の魔石は装飾品に使われる事が多い。
以前ハルに作ったブレスレット──後にペンダントにしたお守りの石は、自然の魔石の中でも特に透明度が高く希少なものだったらしい。それぐらいの物でないと私の魔力に耐えられず割れていただろう、とディルクさんが教えてくれた。
マリカが作る魔道具も基本は自然の魔石を使っているのだそうだ。だからどうしても高価になってしまうけれど、その分魔力効率がとても良いらしい。
レオさんが持って来てくれた魔石は全て天然の魔石のようだった。しかも純度が高いのがチラホラ伺える。
(……えっと、どうしよう。予想よりも数段グレードが高そうなんだけど!)
ちょっと戸惑ってしまったけれど、レオさんが遠慮無くと言ってくれたのもあり、私は折角だからと今回はマリアンヌに石を選んで貰う事にした。
「ねぇマリアンヌ。この中から石を選んで貰っていいかな?」
「えっ! 私が選んでも良いのですか?」
「うん。マリアンヌの為のお守りだし、自分が気に入った石を身に付ける方が良いと思って」
「確かに!」
私の言葉に納得したマリアンヌは箱の中の石を真剣な顔で見ている。どれもとても綺麗な石だから迷っちゃいそうだ。
マリアンヌと石を選んでいると、ふと乳白色のような灰色のような、柔らかい色の魔石が目に入った。乳白色といっても半透明で、少し青みがかって見える不思議な石だ。
魔物から採れるような透明度が低いものではなく、自然に半透明となった石のように感じる。
石の中で光が屈折・反射して独特の光が浮かび上がる様を眺めていると、マリアンヌもこの石に気付き「あ、これ……」と呟いた。
「マリアンヌもこの石気になる? 何だか不思議な石だよね」
「はい! これ『ブルームーンストーン』に凄く似ています! 『ムーンストーン』は私の誕生石なんですよ! 私この石にします!」
マリアンヌがとても嬉しそうに石の事を話してくれる。「ブルームーンストーン」という名前の石や「誕生石」という言葉は初めて聞いたけれど、マリアンヌが楽しそうだし今は詳しくは聞かないでおこう。
「お決まりのようですね。では、こちらの石で宜しいですか?」
私達の様子を見ていたレオさんが声を掛けると、「はい! この石をお願いします!」と、マリアンヌが元気よく答えた。
レオさんが「かしこまりました」と言って石を綺麗なケースに入れてくれているのを見ていたら、マリアンヌが何かに気付いたのかハッとした表情をしたので、どうしたのか気になって聞いてみたところ……。
「勢いと言うか、一目惚れで決めちゃいましたけど、もしかしてもの凄く高価な石だったらどうしましょう……」
……と、心配そうな表情で言った。
「大丈夫だよ。私がマリアンヌにお守りを持って貰いたいと思ってお願いしたんだから私が購入するよ」
この先何があるか分からないし、大切な人達にはお守りを持っていて欲しいから私が自分から作るって言ったのに、マリアンヌがお金を払うのは違うと思うのだ。
「いえいえ! 私ずっとお給金貯めてきましたし、支払いは問題ないです! ただ、宝石ほど高くは無いでしょうけど、貴重な魔石のようだったのでちょっと心配になっただけですから!!」
マリアンヌが私の申し出にブンブンと首を振って断りを入れる。このままだと押し問答になりそうだったので、マリアンヌの一応の主人である私はその権限を使って納得させようと思ったけれど、ディルクさんから待ったが掛かる。
「譲り合っているところ悪いんだけれど、もし良かったらこの魔石達にミアさんの魔力を付与して貰えないかな? そうしてくれると今回の魔石代は魔力付与代として相殺出来るし、店にとっても凄く有り難いんだけど」
ディルクさんの話では、「コフレ・ア・ビジュー」で販売していたお守りの評判がとても良かったので再販したかった事、ここソリス支店でも販売してみたいという事だった。
「もちろん、魔力付与でこの魔石代が相殺されるのは有り難いですけど、それで魔石代は足りるのですか?」
「とんでもない! 足りるどころかこちらからミアさんには魔力付与代を支払わないといけないぐらいだよ」
魔道具に使う魔石に必要な属性を魔力付与する人を魔力付与師と呼ぶのだけれど、れっきとした仕事なので私にも付与した分は支払ってくれるそうだ。
(そう言えば、以前やけにお給金が多い時があったけど……もしかしてお守りの分だったのかな?)
「特にミアさんは貴重な属性持ちだからね。四属性よりは遥かに高額になるよ」
「……え! そうなんですか……?」
私がディルクさんの言葉に驚いていると、カルヴィンさんからもお願いされてしまう。
「例のお守りは化粧水と同じく大変好評とお聞きしました。化粧水を我がソリス支店で取り扱うのは現状無理ですが、お守りなら石さえあれば後はこちらで制作できますので、ミアさんには是非ともご協力いただきたいのです」
カルヴィンさんの話になるほど、と思う。それにお世話になっているディルクさんから頼まれたのなら、私に断るという選択肢はない。受けた恩は倍にして返さなければ!!
「分かりました。そう言う話なのであれば喜んで協力させていただきます」
私がニッコリと微笑んでそう言うと、ディルクさんは安心したように、カルヴィンさんはもの凄く喜んでくれた。
そうと決まれば善は急げということか、お店にあるありったけの魔石が部屋に運び込まれ、私は魔力付与師の如くひたすら魔石に魔力を注いでいった。
そうしてしばらく、一時間ほど経ってようやく魔力の付与を終える事ができた。結構な数だったからちょっと疲れてしまったけど。
「……まさか、全ての魔石に魔力付与を行えるとは……!!」
カルヴィンさんが絶句しているけれど、もしかして全部の魔石に付与しちゃいけなかった……?
「ああ、心配しなくても大丈夫だよ。カルヴィンは短時間でこの量の魔石に魔力を付与した事と、これだけの魔力を使っても気絶していないミアさんに驚いているだけだから。念の為にと持ってきた石にまで付与して貰えてむしろ有り難いよ」
ディルクさんはそう言ってカルヴィンさんの心情を察し、説明してくれた後、「お疲れ様。魔力の扱いがだいぶ上手くなったね。熟練の職人みたいだったよ」と言って褒めてくれた。
今回の魔力付与も販売用のお守りと同じように「ほんのり」と、それでも身に付けた人を守ってくれるぐらいの聖属性を付与しているから、売れてくれたらとても嬉しい。
そうして珍しい魔石を手に入れ、更に一仕事を終えた私達はカルヴィンさんに別れの挨拶をして、帝国へ向かうべくお店を後にしたのだった。
お店を去り際、カルヴィンさんが「また近くにお越しになられた暁には是非とも我がソリス支店にお立ち寄り下さい。出来る限りの便宜を図らせていただきます」と言ってくれた。
今回の急ぎの旅が終わったら改めてお店を訪れて、もっとゆっくりお店を見せて貰いたいな、と思った。
ちなみに師団員三人分のお守り代も「警備して貰っているお礼も兼ねているから」と、ディルクさんが負担してくれるそうだ。
……本当にディルクさんは太っ腹だなぁ……細身だけど。
* * * * * *
お読みいただき有難うございました!
魔力付与職人になったミアさんでした。
これからもちょくちょく魔力付与する予定。(伏線)
次回のお話は
「178 ぬりかべ令嬢、打ちのめされる。」です。
どうぞよろしくお願いいたします!
次回の更新は未定です。
更新の報告はTwitterでお知らせしています。
【お知らせ】
11月12日(金)に書籍版2巻が発売です!
大幅な加筆修正に追加エピソード満載です。改稿頑張った!
特に豚屋敷編ではあの人が乱入する展開になってます。
公式ページに書影や人物紹介が載っていますのでぜひご覧ください!
マリウスやエリーアスがカッコいい…!そして意外なことにエフィムが可愛い(笑)
詳しくはこちら:https://arianrose.jp/novel/?published_id=3461
詳しい特典情報などはまた後日お知らせさせていただきます。
何卒、よろしくお願いいたしますー!
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