171 ぬりかべ令嬢、お守りの効果を知る。
モブさん達に懇願され、お守りを作る事を約束した私はディルクさんとレオさんにまだ資材が残っているかどうかを聞いてみた。
レグの首輪を作った時に数種類の資材を見せて貰ったから、大丈夫だとは思うけれど。
「はい、魔石や革紐ならまだ残っておりますよ」
「良かったです! では、男性用のブレスレットを作るので色が濃い目の革紐をいくつかいただいてもいいですか?」
モブさん達飛竜師団の三人のブレスレットはガッチリとした物にしよう。前線で戦ってくれるのだから、すぐ切れないような丈夫な物じゃないと困るよね。
レオさんからブレスレット用の資材を受け取ろうとすると、マリアンヌが慌てて「ダメです! 私が持ちますから!」と言って、私の代わりに受け取ってくれる。そうしてテントへ戻るべくマリカ達と一緒に歩いていると、リシェさんとラリサさんがやって来た。
「ミアさん、マリカさんおはようございます。あら、それって……」
「おはようございまーす! ……あ! ミアさん、もしかしてお守り作るんですか?」
「二人共おはよう。うん、モブさん達のお守りを作ろうと思って」
「それは喜ばれるでしょうね。私は長年の悩みだった偏頭痛が治ってとても助かりました。有難うございます。他の従業員達も何かしら効果があったようですよ」
「私も! 貰ってからいつも身につけているんですけど、すごく体調が良くなりました! 有難うございます!」
「本当? 皆んなの役に立ったのなら嬉しいな」
リシェさんの言葉で思い出したけれど、以前ディルクさんに頼まれてランベルト商会の従業員全員にお守りを作ったのだった。
研究棟の皆んなで作った時はすごく楽しかったなぁ……。
「そうそう、従業員の皆んなもすごく喜んでいましたよ! アメリアさんとソフィちゃんは両思いになれたって言っていたし、悪夢にうなされていた子はお守りを付けた途端、悪夢を見なくなって肩も軽くなったって言っていました!」
……えーっと、悪夢はともかくアメリアさん達の恋愛はお守りと関係ないと思うんだけど……。訂正した方が良いのかな?
「そう言えば私も聞いた事がありますよ。ずっと探していた失くしものが見つかったとか、取引で大口の顧客を獲得したとか」
「……いやいや、流石にそれはお守り関係ないんじゃないかな? 失くしものもそうだけど、顧客云々はその人の努力の賜物だと思うよ?」
その人の努力で成し遂げた事までお守りのおかげにするのは違うと思ったのだけれど、ラリサさんは人差し指を立てると左右に振って「チッチッチ」と舌打ちして言った。
「それが意外と関係あるみたいですよー? 要は心の持ちようって奴です!」
んんー? ラリサさんの言葉にどういう事かな、と思っているとリシェさんが補足してくれた。
「ミアさんのお守りをつけていると心が落ち着いて来て、周りを見る余裕が出来るんですよ。そうなると視野が広がって些細な変化にも気付けるので、その結果失くし物に気づいたりお客様の要望に細かく対応出来たのだと思います」
おお、なるほど……。心の持ちようってそう言う意味なのね。
商会の皆んなに作ったお守りは魔除けのつもりだったけど、基本は聖属性だから人に安らぎを与える効果もあるんだ。
「そう言えば、お店でもお守りのブレスレットを売っていたよね。今はどうなっているのかな? 売れていたらいいんだけど」
「あの販売用のブレスレットですが、化粧水と同じく口コミで広がって結構な人気商品になっていますよ。今は在庫切れで入荷待ちですね」
リシェさんはお店の経理を担当しているから、どの商品がよく売れているのか把握しているらしい。
魔力制御の練習を兼ねて魔力を込めた魔石は商会と提携している工房にお願いし、ブレスレットにして貰っていたのだ。魔石は百個以上はあったからまだまだ在庫はあると思っていたのに売り切れていたなんて。
「そう言えばあのブレスレット、アルムストレイム教の関係者が目を付けたらしいって噂があるんですよね……」
「神殿の高価な護符より効果があるって評判でしたからね」
ラリサさんの言葉にリシェさんが同意しているけれど、私にとっては初耳だ。まさかそんな事になっているなんて!
「ええ!? それって大丈夫なのかな……? 商会の皆んなに迷惑を掛けていたらどうしよう……」
もう王都から出立したし、私自身は大丈夫だろうけど、もしお店の方に法国関係者が押しかけたりなんかしたら……!
「……ミア、大丈夫。ディルクが放置している訳がない。何かしらの対策をしている」
マリカが私を安心させようと掛けてくれた言葉で思いだす。
──そうだった。ランベルト商会の危機をディルクさんが放置する訳がないのだ。きっと先回りをしてお店を守ってくれるはず!
「そうだよね、ディルクさんに任せておけば大丈夫だよね!」
それに商会の皆んなはとても優秀なのだ。きっと皆んなで力を合わせて頑張ってくれるに違いない。
気を取り直した私はモブさん達のお守り作りを頑張る事にする。
「そう言えば、どうしてお守りを作るんですかー?」
ラリサさんが思い出したように聞いてきた。確かに旅の途中でお守りを作ろうなんて普通は思わないよね。
「えっと、実は──……」
私はラリサさんとリシェさんにもマーナガルムの事を簡単に話した。ちなみに変異体だった事は伏せている。下手に怖がらせても可哀想だし。
それでもマーナガルムの事は意外だったらしく、二人共若干顔色が悪くなっている。
「私が寝ている間にそんな事があったのですね……。マーナガルムなんてこの辺りにはいなかったのに……」
「私、何度もこの道を通っていますけど、そんな魔物が出たって初めて聞きましたよー」
やはりあの変異体は何かを探しに来たのかもしれない。それが一体何なのかは分からないけれど、もう遭遇しませんように、と祈るばかりだ。
「レグくんもマーナガルムは怖かったわよね? 大丈夫だった?」
リシェさんが屈んでレグの頭をよしよしと撫でている。レグは「わふぅ」と鳴いて気持ち良さそうにしている。
「同じ狼の魔物でもレグくんはこんなに可愛いのにねー?」
そう言いながらラリサさんもレグをモフるのに参戦する。二人から頭や顎の下を撫でられているけれど、レグは大人しくじっとしていてされるがままになっている。
レグは撫でられるのが大好きらしく、いつも嫌がらずに撫でさせてくれるので、皆んなの癒しになっているのだ。
私達がレグをモフりながら話していると「ああ、リシェ、ラリサ! こちらを手伝って下さい」と、レオさんがリシェさん達を呼ぶ声が聞こえて来た。どうやら私達は結構な時間話し込んでしまっていたらしい。
「はい!」
「今行きまーす!」
レオさん達が朝食の準備をしているのを見て、私も慌てて手伝いに向かう。
私は寝られなかったと言っていたモブさん達の為に、元気が出る料理を作ろうと思い、何にしようかな、と考える。
(朝は少し肌寒いから温かいものがいいよね。となるとやっぱりスープかなぁ……?)
野菜がたっぷりの具沢山スープにして、栄養もたくさん摂って貰おう。いつもお肉ばっかり食べているみたいだし。
私はレオさん達に「スープは私が作りますね」と伝えると、早速調理を始める。
昨日の料理で私が魔力で出した火と水がとても身体に良い事が分かったので、今回も惜しみなく魔力を使うつもりだ。
「……聖火で炙ったベーコン入り聖水野菜スープ」
スープが煮込まれている鍋を見ながらマリカがボソッと呟いた。……いや、確かにそうだけど、改めてそう言われると皆んな食べにくいんじゃないかな……。
「マリカ、そんな料理名をつけたら皆んなが恐縮しちゃうよ」
ディルクさんがマリカにツッコミを入れるけれど「でも、法国関係者が聞いたら卒倒しそうだよね。ちょっと見てみたいな」とハルみたいな事を言うので、私はディルクさんも意外とハルに似ているのかもしれないな、と思った。
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お読みいただき有難うございました!
次のお話は
「172 ぬりかべ令嬢、師匠になる。」です。
次回の更新は未だストックがたまっていないので未定です。
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