166 ぬりかべ令嬢、魔物と遭遇する。
リシェさんやラリサさん、マリアンヌに請われてハルとの馴れ初めを話す。本当はハルが誘拐されていたとかその辺りの話はせず、ただ迷子のハルを助けたという事にしておいた。
「はわわ〜! それから一途にお互いを想い合っていたなんて……っ!」
「……うぅ、再会出来て本当に良かったですぅ〜〜〜〜!!」
「これは何人たりとも二人の間に入りこむ事は出来ませんね……」
私の話を聞いた三人それぞれが思い思いに感想を聞かせてくれた。まるで自分の事のように再会を喜んでくれてとても嬉しい。
……そうだよね。私とハルはかなり珍しい出会いだったのに──この広い世界で、もう一度出逢えた事が本当に奇跡のようだな、と思う。
「本当はもうちょっとお喋りしたかったけれど、明日も早いしもう寝ましょうか。また野宿する予定もあるから、続きはその時にしましょうね」
リシェさんが皆んなに声を掛け、恋バナ大会はお開きとなった。
ランプを消し、皆んなが「おやすみなさい」「おやすみー」と挨拶をして眠りについた。
私とレグは一緒の毛布に入る。レグのふわふわの毛並みとほんのり温かい体温のおかげで、私はあっという間に眠りにつくことが出来た。
そうしてテント内の皆んなが寝しずまった真夜中、私はふと何かを感じて眠りから覚める。私が起きたのと同時にレグも目を覚ましたらしく、しきりに外を気にしている。
──この底が知れない不安感は何だろう……?
何か嫌な予感がした私は皆んなを起こさないように、そっとテントの出入り口から外を覗いてみる。するとちょうど交代の時間だったのか、焚き火の傍で寝ずの番をしていたモブさんとベンさんが会話を交わしているところだった。
二人の様子から変わったことは無い様で、先ほど感じた何かの気配は私の勘違いだったのかな、と思ったその時──ゾクゾクとした、悪寒めいたものが私の全身を駆け巡っていく。
この重苦しくて胸を圧迫するかの様な……邪悪な闇の気配を私は知っている──!!
以前襲われた<穢れを纏う闇>と同じ系統の、邪なモノが近くに顕れたのかもしれない。闇が澱んだ様に空気が重たくなっていくのを肌で感じる。
いつもは大人しいレグも闇の気配を感じたのか、もふもふしていた毛を逆立てて「ウゥゥゥゥ〜……」と唸っている。
いつもの愛くるしい表情から一変、鼻には皺が寄り、険しい表情で森の奥を睨んでいる。
レグの声に気づいたモブさん達が何事かと走ってきたので、私はレグを抱いてテントからそっと抜け出すと、人差し指を口に当て、大きな声を出さないようにと二人にジェスチャーする。そんな私に何かを察したモブさん達が、そっと頷いて了承の意思を伝えてくれた。
「……ミア様、何か問題でも──……」
モブさんが小さな声で話そうとしてくれたけれど、その言葉は濃厚な闇の気配に掻き消されてしまう。ベンさんも同じ様に気配を感じ取ったらしく、見る見るうちに二人の顔から汗が滲み出る。
「……! こ、これは……!!」
重厚な闇の気配を感じたのは初めてなのか、二人が凄く戸惑っている様子が窺える。
「何か闇のモノが近くにいるかもしれません……<穢れを纏う闇>と似た気配がします」
「「!?」」
モブさん達が酷く狼狽える。<穢れを纏う闇>のような闇のモノに遭遇するのが初めてなのだろう。確か以前の会話でアレは天災のようなものだと言っていたっけ。
「……話に聞いてはいましたが、この重圧……凄まじいですね」
「悪寒が止まらないなんて、初めてですよ……全身鳥肌が立ちっぱなしです……」
結界が張ってあっても気配は遮る事が出来ないのか、段々と闇が濃厚になっていく気配に、誰一人として声を出す事が出来ない。
息が詰まりそうな静寂の中、呼吸する音さえ禁忌の様な気になってくる。
そんな異常な空気の中で焚き火の光と熱、木が爆ぜる音だけが、ここが現実だと教えてくれている。
「──っ! 焚き火を消せ!! 俺は風で匂いを消す!!」
「はいっ!」
モブさんが呪文を唱えて風を起こし、空気を発散させる。そしてベンさんも呪文を唱えて 焚き火に手をかざすとフッと火が消え、辺り一面が漆黒の闇に包まれる。火が無くなったことで、更に恐怖心が増していく。
そうして私達が未知の恐怖に立ちすくんでいる時──ソレは顕れた。
血のように赤黒い十個もの眼球が、漆黒の闇の中で浮かんでいるみたいに見えたソレは、禍々しい闇の眷属が狼のカタチに具現化したかのようだ。
何かの匂いを嗅ぎ回っているその姿は、私達がいる場所から離れたところにいるにも関わらず、とても大きい身体をしているのが見て取れる。
「……もしかして、マーナガルムか……っ!?」
「でも、大き過ぎです……っ! マーナガルムがあんなに大きい筈無い……っ! しかも目の数がおかしいですよ……!!」
息を潜めて会話していた二人だったけれど、顕れた魔物が予想外だったらしく、混乱しているのか酷く慌てている。
マーナガルムと言うらしいその魔物は黒い狼の様な見た目なので、一瞬レグと同じ種族かなと思ったけれど、その性質は全く違うものだとすぐに気付く。
<穢れを纏う闇>には明確な意思は無かったみたいだけれど、このマーナガルムを見る限り、しっかりと自分の意思を持って行動しているのが分かる。
しかもちゃんと悪意を持って何かを探しているような……そんな危険な感じがする。
慌ててしまった私達の気配に気づいたのか、嗅ぎ回っていたマーナガルムが顔を上げてこちらに向ける。そして紅い目が私達を捉え、禍々しい光を放ったかと思うと、口が徐々に裂けていき鋭い牙が並んだ口内が露わになる。
「──っ!? 気付いた!!」
「ヤバイ!!」
モブさん達が鞘から剣を抜き、マーナガルムから私とレグを守るように構えを取ったと同時に、マーナガルムが大きな口を開けて私達の方へ突進してきた。
「ガルゥア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」
口から涎を巻き散らかしながら物凄い勢いでマーナガルムが突進してくる。大きいとは分かっていたけれど、遠近感が狂うような、予想よりはるかに大きい魔物の姿に恐怖する。
マーナガルムが私達目掛けてその大きな口を開けた時、「ガキィィン!!」と言う音と共に鋭かった牙が粉々に砕け、青白い炎がマーナガルムを包む。
「ガァア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ──────────!!!!!!」
青白い炎がまるで生き物のようにマーナガルムに纏わり付く。
超高温の炎に灼かれたマーナガルムの身体が溶けた蝋燭のようにドロドロになっていく。
そしてあっという間に骨になったかと思うと、その硬そうな骨も数秒で燃やし尽くされ、マーナガルムがいた場所には焼き焦げた土だけが残されていた。
「「………………………………」」
マーナガルムが顕れてから、すごく長い時間が経過したような気がしていたけれど、実際は数分しか経っていなかった。しかも結界に触れて燃やし尽くされるまで一分も掛からなかったから、あっという間の出来事だったのかもしれない。
もしマーナガルムが結界を破って入って来たら、聖火で燃やしてやろうと密かに思っていたから、無事結界が上手く発動してくれて助かった。
ホッとした私とは対象的に、モブさんとベンさんは真っ青な顔をして佇んでいる。
「……い、今のは……ミア様の結界、なんだよな……?」
「な、なんちゅう威力や……! あのマーナガルムが一瞬で燃やし尽くさせるやて……!?」
──ジュリアンさんみたいな訛りの人の正体はベンさんだと判明した。
* * * * * *
お読みいただき有難うございました!
遂に訛りの人の正体が判明です!!(誰も気にしていないっていう)
次のお話は
「167 この世界の裏側で──アルムストレイム神聖王国4」です。
悪巧みしてる奴らです。(適当)
どうぞよろしくお願いいたします!
そして昨日書籍版1巻が発売されました!
既にお手に取っていただいた方もおられるようでとても嬉しいです!
有難うございますー!WEB版との違いをお楽しみ下さい!
紙書籍版の特典SS配布店舗様が増えてました!詳しくは公式サイト様で!
公式サイト様:https://arianrose.jp/
公式サイト様に表紙絵や人物紹介、特典配布書店様の一覧があります。
電子版にも特典SS あります!イルザちゃん好評です(笑)
何卒、よろしくお願いいたしますー!
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