165 ぬりかべ令嬢、野宿をする。

 私が張った結界の効果の事は、ディルクさんが緘口令を敷いてくれたので外に漏れる事は無いみたい。でもディルクさんも言っていたけれど、今回同行してくれている人達は例え緘口令が無かったとしても、簡単に情報を漏らすような事はしないと信じられる。


 皆んなは私の結界がただ植物の成長を促しただけ、と思っているのだろう。実際は空間まるごと位相がずれているのだけれど。

 ……と言うか、きっとディルクさんは空間魔法の件を気付かれない様に配慮してくれたんだと思う。だからわざわざ緘口令という手札を使って気を逸らしてくれたのだ。


 ──空間魔法……。まさか本当に自分が使えるようになるなんて思いもしなかった。以前は冗談で使えたらいいな、って思った事があったけれど。


「さて、食事の準備でもしましょうかね。フォンス達は薪を集めて、ラリサ達は食材の準備をお願いします」


 レオさんがこの場の雰囲気を変えるかのように、それぞれに指示を出す。モブさん達は乗ってきた馬達の手入れをするそうだ。


 私は自分のできる事は何かと考え、食事の準備を手伝う事にする。


 野営料理の定番は肉料理だそうだけれど、女性も多いので野菜料理も幾つか作りたいね、という話になった。


 食材が保管されている箱の中には多種多様な食材が入っていた。箱を開けたらひんやりとした空気が出た来たので、この箱は氷属性を付与した魔道具なのだろう。

 

 箱の中には大きな塊肉やひき肉、色んな野菜が揃っていたので、皆んなでメニューを考えた結果……。

 大きな塊肉をレアで焼いたステーキに、ミートボールとゴロゴロ野菜のラタトゥイユ、グリル野菜のマスタードソースと、きのことほうれん草のソテーにサラダを作ろうということになった。


 ステーキはレオさんに任せ、私とマリアンヌ、リシェさんとラリサさんがそれぞれの料理を作る事になった。マリカにはレグを任せている。ちなみにマリアンヌもデニスさんに鍛えられているから、ものすごく料理が上手なのだ。


 フォンスさん達が、集めた薪を効率よく燃やせるように組んで火をつける。もちろん火は私が魔法でつけたものだ。ちょっと聖属性が混じってるかもしれないけれど、大丈夫だよね。

 料理に使う水も私が出した。これも聖水もどきになっているかもしれないけれど、味に変化はないだろうと普通に使うことにする。


「……聖属性のフルコースや」


 マリカがレグを抱きながら、調理している私の様子を見て呟いた。確かにその通りなんだけどね! 使えるものはどんどん使わないとね!


 次々と料理が仕上がっていき、タープの下に設置されたテーブルの上には所狭しと料理が並べられている。どれもとても美味しそう!


「おお! この肉やけにうめぇな!! いくらでも食えそうだ!」


「確かに全然油っこくなくて美味いなぁ。レオさん、これ何か特別な肉かい?」


 フォンスさんとニックさんが、レオさんが焼いて切り分けた一口サイズのステーキを食べてすごく驚いている。

 私もどんなものかと食べてみると、綺麗に焼き上がったお肉は丁度よい火の通りで、歯ごたえもやわらかく、しっとりしていてとても美味しい!

 レグにも小さく切ったお肉をわけると、しっぽを振って嬉しそうに食べている。


「いえ? 特に変わった事のない普通の肉ですよ」


 レオさんの返答に、喜んで食べていたモブさん達も不思議そうにしている。


「俺、野営でこんなうまい肉食べたの初めてですよ。これが普通の肉だったら何が違うんだろう」


 そんなモブさんの言葉に、マリカやディルクさん達がこちらをじーっと見ているけれど……。


「このラタトゥイユも、野菜のえぐ味がなくてとても美味しいですよ!」


「……ホントだ。いつも食べているのより美味しいかも。味付けは一緒のはずなのに」


 ラウさんとラリサさんが、ラタトゥイユを食べて感動している。

 ちなみにこのラタトゥイユはラリサさんが作ってくれたものだ。いつもお家で食べている味付けで作ってくれたらしく、一口食べてみるとほっとするような、優しい味がした。


 相変わらずマリカが何かを言いたそうにこちらをじーっと見ているけれど、お口は食べるのに忙しいらしく、いつものようなツッコミはまだ無い。

 そんなマリカの態度に、さすがの私でも察しが付きましたよ。

 きっと、私が出した聖火が余分な脂にアクやえぐ味などの成分を燃やしてくれたのでしょう。でも料理が美味しければ問題ないよね!


「水も美味しいし、疲れが取れていくような気がしますね」


「確かに。こんな野営だったら毎日でも大歓迎ですよ」


 リシェさんの感想にベンさんも同意している。飛竜師団の野営は常に緊張感があって、気が休まる暇がないから、食事もちゃんと味わえないらしい。


 テーブルに並んだ料理はどれも美味しく、どんどん減っていく。

 焚き火とランプの温かい光に照らされた皆んなの表情はとても明るく、全く疲れを感じさせない。美味しい料理を食べながら談笑している光景はとても楽しそう。


 そうして楽しい時間はあっという間に過ぎて、皆んなで手分けして片付けをした後は早々に眠る事になった。明日も朝早く出発するらしい……本当に有り難いな、と思う。


 それから夜の火の番は師団員の三人が「いつもやってますから」と言って請け負ってくれた。交代交代で見てくれるそうだ。

 結界を張っているとは言え、何があるかわからないしマリウスさんの話にもあった正体不明の魔物も気になるものね。

 明日の朝食も、皆んなに喜んで貰えるようなものを張り切って作ろう。


 就寝のためのテントは広く、女性陣が五人寝てもまだ余裕があるぐらいだった。

 私達はお喋りをしながら寝る準備をする。宿では別々の部屋だったリシェさんとラリサさん、マリアンヌも一緒だからとても賑やかだ。

 ちなみにレグは私のひざの上で丸くなっている。


「師団員の人たちってホント格好良いわよねー。テキパキと設営してくれる姿に惚れ惚れしちゃったわ」


「そうそう! 動きが全然違うんですよね! ラウさんなんて可愛い顔して力持ちでしたし!」


 あらあら? どうやらランベルト商会のお二人は師団員の人達に興味がおありのようですね。もしかしてこれがガールズトークというやつ……?


「あ、ミアさーん! 私ずっとお聞きしたかったんですけど、レオンハルト殿下とは何処でお知り合いになったんですかー?」


「あ、ユーフェミア様! 私にも教えて下さいよ! 皇太子でしかも美形とか……っ! どうやったらそんな出会いが出来るんですか―!?」


 マリアンヌまで恋バナに参加してきた。そう言えばハルとの馴れ初めを以前から知りたがっていたっけ。


「そうそう! あのラーゲルクランツ国の『黄金の紅蓮姫』が求婚しても見向きもされなかったとか、一時期帝国の社交界ではすごい噂でしたよね! それってミアさんという想い人が居たからなんですね! 納得です!」


 以前、アメリアさんやニコお爺ちゃん達から根掘り葉掘り聞かれた事を思い出す。ランベルト商会の人達って皆んな恋バナが好きなのかな?


 でも、『黄金の紅蓮姫』って誰だろう? ラーゲルクランツって、確か五大国にあげられるバリエンフェルト連邦国の元首国だったっけ……?

 そんな国のお姫様までハルに求婚していたんだ……帝国のミーナさんや貴族令嬢以外にもライバルがいるだなんて……! でもよく考えたらそうだよね。ハルは超大国の皇太子だものね。そりゃあ近隣諸国が放っておかないだろうな……。


 これからの私はそんな手強いライバル達とハルを巡って戦わなければいけないのだ……! 戦いはあまり得意じゃないけれど、これからはそうも言っていられない! 勝ち残るために、私が出来る事を考えないと……っ! その為にはやはり鍛えるしか──……。


「ミア、思考がおかしい方向へ行っている」


 考え込んでいた私にマリカがツッコミを入れてくれたので我に返る。そんな一連のやり取りがハルに似ていて、やっぱり二人は兄妹みたいだな、と思った。




* * * * * *



お読みいただき有難うございました!


次のお話は

「166 ぬりかべ令嬢、魔物と遭遇する。」です。

まったり回(?)から一転、魔物ちゃんの登場です。

ミア達に忍び寄る影的な何か。(適当)


どうぞよろしくお願いいたします!



そして来週ついに1巻が発売です!それまで胃が持つか心配…_(┐「ε:)_

フロンティアワークス様のレーベル、アリアンローズから6/11(金)発売です!


公式サイト様:https://arianrose.jp/


公式サイト様で表紙絵や人物紹介、特典配布書店様の一覧があります。

特に紙書籍の特典SSは是非ともお手に取っていただきたいです。

ぬりかべ令嬢の誕生の謎が明らかに!驚愕の事実に震撼!!(誇大広告)


何卒、よろしくお願いいたしますー!

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