163 ぬりかべ令嬢、秘密が増える。

 私が張った結界が、本当は空間魔法の一種なのだとマリカに告げられた。


「<神の揺り籠>の時からずっと気になっていた。それにエフィムの腕を切断した時も」


 以前私がマリカのために掛けた魔法が法国に伝わる最上級治癒魔法<神の揺り籠>だったという事は先日教えて貰ったところだけれど、マリカ曰くその<神の揺り籠>も聖属性から派生した空間魔法なのでは、と考えているらしい。

 そして私達がアードラー伯爵邸に捕らえられていた時、マリカの危機を救ってくれたブレスレットが放った光もまた空間魔法の一種だったという。


「僕はそのブレスレットが放った光の事は分からないけれど、<神の揺り籠>の中はまるで時が止まっているかの様だったね」


 そうなると私は四属性に加えて空間魔法も持っていることになるんだ。でもそれぞれが聖属性の派生らしいから……。結局は聖属性持ちって事でいいのかな? 五属性持ちというのは勘弁して欲しいです。


「ええっと、じゃあ魔導国で空間魔法の魔道具を作っている術士は全員その血族なのですか?」


 でも、大魔導師の血族って事は、もしかして魔導国の王族になる……?


「そうなるね。確かその血族は王家から分かれた分家筋になるんじゃないかな? だから爵位は公爵になると思うよ」


 ──じゃあ、私の父方のお祖母様は、魔導国の公爵家出身なんだ。だからお父様も冥闇魔法騎士団に入団出来たんだね。


「……でも、この話がもし本当ならよく魔導国王家が婚姻を許可したよね。ミアさんのお祖母様は空間魔法が使えなかったのかな?」


 貴重な血統の令嬢を他国に嫁がせるなんて、余程のことがないと起こりえないものね。


「空間魔法の使い手は年々減っていると聞いた事がある」


 マリカは魔導国からよく勧誘されていた関係もあって、魔導国の事には結構詳しいらしい。


「なるほどね。血族全てが空間魔法を持っている訳じゃない……って、そりゃそうだよね。近親婚を繰り返した弊害かな」


 血統を大切にするあまり、血が濃くなり過ぎて空間魔法が継承されないなんて……。


「だから血が薄まったミアさんに空間魔法が発現したのかな。公爵家にとっては皮肉というか何と言うか……」


 取り敢えずその公爵家が私の親族という事なのかな? 一体どんな人達なんだろう?


「ディルクさんとマリカはその公爵家の事を知っていますか?」


「貴族の事はわからない」


「商会は魔導国と取引していないから、僕も詳しくは知らないんだ。でも法国より閉鎖的ではないから、調べる事はできると思うよ」


 法国は秘密主義だとよく言われているものね。

 でも魔導国か……今まで余り気にした事がなかったな。でもこの機会に魔導国について私も知っておいた方がいいかもしれない。


「すみませんが、魔導国について色々教えて貰ってもいいですか?」


「うん。わかったよ」


 ディルクさんに情報を集めて貰っている内に、私も魔導国について勉強しないとね。


 ……でも、そっかー。私に親戚がいるかもしれないんだ……。お父様がここに居ればすぐわかった事なのにな。

 今までお父様とお母様以外に血が繋がった人と会った事がないから、ちょっと気になってしまうかも。


「ミア、ダメ」


 親族に会ってみたいという気持ちが漏れたのか、マリカが鋭すぎるのか。マリカは私が親族と会うのに反対のようだ。


「今は空間魔法の使い手は貴重。見つかったら囲われる」


 ……え!? そうなの!?


「マリカの言う通りだね。それにミアさんは他にも聖属性と無詠唱の事もあるからね。もし魔導国へ行った時にそれがバレたりしたら……どうなると思う?」


 ──はい、拘束監禁コースでしたっけ。以前そんな事を言っていましたね。


 空間魔法の使い手が減った事で、魔道具の生産に支障が出始めているらしいと、商人の間でちょっと前から噂になっているのだそうだ。だから魔導国は独占状態にある空間魔法が付与された魔道具を安定供給出来るように、優秀な魔道具師を集めているのだという。

 だけど、空間魔法の原理などは未だ解明されていないらしく、術式の研究はほとんど進んでいないそうだ。

 マリカに分からない事が、普通の研究員に分かる訳無いものね!


 でも、空間魔法の使い手でさえ、見つかれば囲われてしまうのに、更に無詠唱の創造魔法を使うとなると──


「監禁拘束だけじゃなく、隅々まで研究される」


 ひーっ! 更に恐ろしいものが追加されてるーーー―!!


「……会わない方が良さそうだね……」


 ちょっと期待しちゃった分、がっかりしてしまった私に「可哀想だとは思うけど、今のところは我慢してくれるかな?」とディルクさんが言ってくれたので、親族の事は胸の中にしまっておく事にした。

 それに親族の事なら尚更お父様に確認を取らなきゃいけないものね。


「今回話した『ミアさんは魔導国王家に連なる人物の可能性がある』と言う内容は機密事項になるから、秘密保持契約書に基づき他言無用だよ」


「ん」


「はい」


 久しぶりにディルクさんから懐かしい台詞を聞く。今日は研究棟に初めて行った時の事をよく思い出す日だな。

 ……でも、ここにはニコお爺ちゃんやリクさん達はいないのだ。


 ランベルト商会の皆んなの事を思い出して私が少し寂しい気持ちになった時、足元で「わふぅ」と言う声がした。


「あ、レグ……もしかして慰めてくれるの?」


 私の足元で、レグがしっぽを振りながら構って欲しそうに前足を上げている。黒い毛から覗くピンクの肉球がたしたしと私の足を叩く姿はとても愛らしくてほっこりする。


 あまりのタイミングの良さに、本当にレグは私の感情がわかるんじゃないかと思ってしまう。でも私とレグの間にはパスが繋がっているのだから、その考えは間違っていないのだろう。


 私はレグを抱き上げて、野営の準備をしてくれている皆んなの元へ、マリカ達と一緒に戻る事にした。


「もうお話は終わられましたか?」


「うん、レオ有難う」


 ディルクさんはレオさんにお礼を言った後、先ほど私達に言った言葉をもう一度ここにいるメンバー全員に伝える。


「今回、ミアさんの張ってくれた結界が植物に成長を促したという事は、ランベルト商会の機密事項となりますので、秘密保持契約書に基づき他言無用です。飛竜師団の皆さんもレオンハルト殿下の名のもとに、帝国皇室禁秘事項として緘口令を発動しますので、くれぐれも注意して下さいね」


 ディルクさんの言葉に、商会の人達も師団員の人達も真剣な顔になり、全員が「はいっ!」と返事をした。


 うーん、この統率力……すごい……。けれど、何だかまたもやハルの名前が聞こえましたよ?


「……あの、ディルクさん。ハルの名前で緘口令を発動って……」


 何となく察してしまっているけれど、念の為ディルクさんに確認してみる。


「うん、旅の間にミアさんがまた何かやらかすだろうって殿下は心配していてね。だから殿下はミアさんの情報が漏洩しないように、一時的に僕へ命令権を譲渡してくれているんだよ。まあ、緘口令を敷かなくてもこの中に情報を漏らす人間は居ないと思うけどね」


 ハルは一体どこまで考えているんだろう……うう、私ってそんなにわかりやすいのかな……?

 きっと他にもハルには色々と見透かされているのだろうな、とちょっぴり悔しさを感じたのは仕方がないと思う。




* * * * * *



お読みいただき有難うございました!


次のお話は

「164 この世界の裏側で──ヴェステルマルク魔導国2」です。


ミア達が帝国に向かっている間に世界の裏側では何が起こっているのか、その動向を魔導国からお送りします。(ニュース風)

次回もどうぞよろしくお願い致します!


このご時世、書店様が休業され、中々お手に取って貰えないかもしれないので、書籍が発売するまで宣伝させていただきます。しつこくてすみません!

でも1巻が売れないと続刊が出ないという世知辛い世の中なのです……。_(┐「ε:)_


拙作「ぬりかべ令嬢、嫁いだ先で幸せになる」が

フロンティアワークス様のレーベル、アリアンローズから書籍化されます!

発売日は6/11(金)となっています。


公式サイト様:https://arianrose.jp/


応援して下さった皆様、本当にありがとうございます!

特典など、詳細がわかりましたらまた報告させていただきます。


内容はWEB版から加筆修正をし、ミアとハルのすれ違い(物理)エピソードも追加しています。他にも書き下ろしエピソードあります。

興味をお持ちいただけましたら是非ともお手に取って貰えると嬉しいです。

既に各書籍販売サイト様で予約も始まっていますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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