162 ぬりかべ令嬢、ルーツを知る。

 マリカ曰く、私が張った結界内は通常の世界と微妙に切り離されていて、現実と理が異なっているそうだ。

 うーん、私には難しくてよくわからないけれど、この結界内は現実世界と常識が違うから、季節感が無い……という事なのかな?


「あら? この時期になると既に落葉しているはずの木に、新芽が出ているわ」


 リシェさんの不思議そうな声に、落ち着いて周りを見てみると、私が張った結界内に生えている植物が次々と葉を芽吹かせ花を咲かして実をならし、見る見るうちに成長していく。


「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」


 ……えーっと。


 私がイメージした結界の効果には植物の成長促進は無かったはずなんだけど……。


「ミアが土に魔力を流したらこうなるのは必然」


 ……あー、なるほどですね。

 私の聖属性からなる土属性には成長促進がありましたね……すっかり失念しておりましたよ。


 マリカにじとーっとした目で見られた私は居たたまれなくなる。

 いい加減、自分の能力を把握して置かないとダメだよね。じゃないと法国や魔導国に目をつけられてしまうし。……初めにディルクさん達から厳重に注意されていたのにな。


 自分の頭の足りなさと成長の無さに自己嫌悪していると、マリカが服の裾をクイクイ引っ張ってきた。


「ミア、来て」


 マリカに呼ばれて後をついて行くと、マリカはディルクさんにも「ディルクも来て」と声を掛ける。


「レオ、僕達はちょっと外すから、後の準備をお願いできるかな」


「承知しました」


 マリカの様子に何かを察したディルクさんがレオさんに後を頼むと、タープが張られた下に設置されているテーブルの方へと向かう。


「ここでもいいかな?」


 ディルクさんが私達に確認をとった後、三人でテーブルにつく。そして私は早速マリカに質問する事にした。


「えっと、マリカはどうしたの? 私が張った結界に何か問題でも有るの?」


 マリカがわざわざ私達を連れてきたのは、何か気になる事があるからだと思うけど……。

 そんな私の質問に、マリカがふるふると首を横に振る。


「違う……ミアは魔導国と関わりがある?」


 マリカが話したいのは結界の事じゃなかったみたい。だけど、魔導国……?


「……えっと、私は魔導国と関わりはないよ? 私じゃなくてお父様の方なら魔導国と関係があるみたいだけれど」


「テレンス卿か……アールグレーン領は魔導国と隣接しているから、その関係で色々と交流が有るのかな?」


 私はアールグレーン領に行った事がないから、何とも言えないけれど……。


「それも有ると思います。私が父から譲り受けた魔法鞄は、父が魔導国の知り合いからいただいたものだと聞いてますし、結婚前は短期間とは言え冥闇魔法騎士団に所属していたみたいですから、魔導国に知り合いは多いかもしれませんね」


 お父様の事をディルクさんに話すと、ディルクさんはお父様が冥闇魔法騎士団に在籍していた事にひどく驚いていた。


「……!? 冥闇魔法騎士団!? テレンス卿が!?」


 世界でも有数の騎士団だものね。それは誰だって驚くだろうな。


「なるほど……マリカが聞きたい事はそっちの方だね?」


 ディルクさんは今の会話でマリカの質問の意図を汲み取ったみたいだけれど、私には何の話なのか相変わらずわからない。

 何だかランベルト商会の研究棟に初めて行った、あの日の事を思い出す。


 ──あの時も、何も知らない私に皆んなが色々教えてくれたっけ……。


 何だか随分と昔のように感じてしまって懐かしくなる……って、ちょっと待って?

 あの時と似た状況というのなら、また私に関する何かが判明するという流れなの……?

 いや、でも私自身に魔導国は全く関係ないよね? 魔導国どころかアールグレーン領にも行った事が無いし。

 いくら考えても、私と魔導国の繋がりが思い出せない。


「あのね、ミアさん。冥闇魔法騎士団は魔導国出身……もしくは縁のある者しか入団できないんだよ。まあ、魔導国に限らず、基本騎士団への入団は身元がはっきりしている事が条件の一つなんだけれど」


 ……!? えっ……!?


 驚きの余り、言葉を失っている私に、ディルクさんが「テレンス卿から何も聞いていないのかな?」と聞いてきたので、私は無言でこくこくと頷いた。


 ええっと、ディルクさんの言葉から察するに、お父様は魔導国と縁があったの……?


 ──全く聞いていませんけど―!! えー! どういう事なの―!?


 心の中でパニックを起こしている私に、マリカが「ミア、落ち着いて」と言ってくれるけど……。


「えっと、マリカ……。私が魔導国と関係があったら、何があるの……?」


 わざわざマリカが確認するのだから、何か重要な事なのだろう。それこそ大魔導師がどうとか……? いやまさか、ねえ……。


 私の疑問にマリカが「あくまでも推測」と言って教えてくれました。本当にいつもありがとうマリカ!!


 結論。

 どうやら私には魔導国に親族がいるらしいです。きっと、お父様のお母様──私にとっての祖母が、魔導国の貴族出身なのでは? という事でした。


「いやいや、ただ魔導国に親族がいるってだけじゃ、この話は終わらないからね」


 ……訂正。

 どうやら結論を出すにはまだ早かったようです。


「あの、終わらないというのは……?」


 結界の事と魔導国の事が何か関係あるのかな? 何だかもう何を言われても驚かない自信が出てきたよ!


「ミアは空間魔法も使っている」


「────!! ええーーーーーーっ!?」


 ……私の自信は一分も持たなかった。……って言うか、どういう事なんだろう?


「そうだよね。この結界自体が既に空間魔法だもんね」


 マリカの言葉に、ディルクさんも納得のご様子。

 ……さっきマリカが『この空間内だけ位相がずれている』って言った意味は、きっとこの事なのだろう。


「空間魔法が付与された魔道具が魔導国の独占状態だって言うのはさっき話したと思うんだけれど、それには魔導国のとある貴族が関わっていてね。どうやら空間魔法はその貴族の血統だけが持つ固有属性じゃないかって話があるんだ」


 マリカでも再現が難しい空間魔法……それがディルクさんの言う通り、限られた血統だけが持つ固有の属性なのであれば──……。


「そしてその話を裏付けるように、伝説の大魔導師──魔導国最初の王である魔導王は、空間魔法の使い手だったという伝承やお伽噺が世界中に残されているんだよ」


 ──空間魔法を使う事が出来る私は、古の大魔導師の血統だという事になる。




* * * * * *



お読みいただき有難うございました!


次のお話は

「163 ぬりかべ令嬢、秘密が増える。」です。


ミアの出生が明らかに!そしてミアパパ、説明しなさすぎなので、代わりにマリカとディルクが説明してくれるようです。

次回もどうぞよろしくお願い致します!


発売するまで何度も宣伝させていただきます。


拙作「ぬりかべ令嬢、介護要員として嫁いだ先で幸せになる。」が、

「ぬりかべ令嬢、嫁いだ先で幸せになる」とタイトルを変更し、

フロンティアワークス様のレーベル、アリアンローズから書籍化していただける事になりました。

発売日は6/11(金)となっています。


公式サイト様:https://arianrose.jp/


応援して下さった皆様、本当にありがとうございます!

特典など、詳細がわかりましたらまた報告させていただきます。


内容はWEB版から加筆修正をし、ミアとハルのすれ違い(物理)エピソードも追加しています。他にも書き下ろしエピソードあります。

興味をお持ちいただけましたら是非ともお手に取って貰えると嬉しいです。

既に各書籍販売サイト様で予約も始まっていますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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