160 ぬりかべ令嬢、スマフォンから報告を聞く。

 昨日の夜、私はレグと一緒にベッドで眠った。

 誰かと一緒に眠るなんて初めてだったけれど、レグのふわふわな毛並みとほんのり温かい体温のおかげでいつの間にか熟睡していたらしく、翌朝はとてもスッキリした気分で目が覚めた。


 私が目覚めた時、既にレグは起きていたらしく、部屋の中の匂いを嗅ぎ回っていた。私が目覚めたことに気付くと、しっぽを振りながらベッドに上がってきて、私の顔をペロペロと舐めてくる。


「……っ、ふふ……っ レグおはよう」


 私は身体を起こし、レグをそっと抱きしめる。そしてふわふわの毛並みを撫でていると、向かいのベッドで寝ていたマリカと目が合った。


「あ、マリカおはよう。起こしちゃったかな?」


「ん、大丈夫」


 マリカも丁度目を覚ましたところらしく、目をこすこすと擦りながら体を起こした。寝癖なのか、一房だけぴょこんとはねた髪の毛が可愛らしい。


 そんな起き立てのマリカがこちらをじーっと見ている。マリカもレグをモフりたいのかな? と思ったけれど。


「……ハルが妬きそう」


 ……と、一言ぽつりと呟いた。


「え? え? ハルが? 何に妬くの!?」


 まさかレグの事……? いや、まさか。……そんな、ねぇ。


「いくら可愛いと言ってもレグはオス」


 マリカの言葉に、その意味を察する。

 確かに、レグはオスだと知っているけれど……だからって動物にまでヤキモチ妬くかなぁ……?


「ハルの執着を舐めてはダメ」


 マリカが珍しくキリッとした顔で言う。


「う、うん。じゃあ、ハルの前では気をつけるね」


「ん。それが良い」


 ……何だかマリカが言うとすっごく説得力があるような気がする。さすが似た者同士。ここは素直に頷いておこう。


 マリカとそんな会話をした後、マリアンヌに呼ばれた私達は朝食を食べるために身支度を整える。


 美味しかった朝食を終えるとさっと荷物をまとめ、準備を終えた私達は休むこと無く早々に宿を発つ。

 まだ帝国までの距離を半分も超えていないけれど、モブさん曰く、「馬車の旅にしては驚異的な進み具合ですよ」と言ってくれたので、きっとそれは同行している皆んなが協力してくれているおかげなのだろうと思う。


「今日の予定だけど、この宿場町から出たらしばらく宿が無いんだよね。だからミアさんとマリアンヌさんは初めての野宿になると思う。馬車で出来るだけ進んだら野営の設営をするから、皆んなもそのつもりでよろしくね」


 出発前にディルクさんから予定を伝えられた皆んなは一斉に「はい!」と返事をする。そんな皆んなの様子から、野宿に慣れていることが伺える。


 うわー! 野宿……!! 何だかドキドキするなぁ……!!


 私は初めて経験するであろう野宿にワクワクする。皆んなで焚き火を囲んでご飯を食べたりするんだよね……? 楽しそう!


「マリカは野宿の経験が有るんだね。準備とか大変?」


「ん。野営地を探してテントを設営するから、結構忙しい」


 全員が馬車で寝られる訳ないものね。テントを張って寝床を整えて水を確保して、火をおこして料理の準備……うわぁ、やる事がいっぱいだ。私でも役に立てるかな。


「ミアには活躍してもらう」


「本当? 私に出来る事があればいいけど」


 マリカ達と野宿についてアレコレ言っていると、モブさんが少し慌てた様子でやって来た。


「ディルクさん、ミア様、すみません、ちょっとよろしいですか?」


 モブさんのそんな様子に、何かを察したディルクさんは「わかった。じゃあ、馬車の中で話そうか」と言って、私とマリカも呼ばれ、四人一緒に馬車に乗り込んだ。


 馬車に乗り込むとディルクさんがマリカ特製防音の魔道具を発動する。


「それで、一体どうしたのかな?」


 ディルクさんがモブさんに話すように促すと、モブさんが胸ポケットから四角い板状の箱の様なものを取り出した。


「これは『スマフォン』と言う連絡を取り合う魔道具です。一度メッセージを聞くと、二度聞くことが出来ないので、皆さんもご一緒にお聞きいただこうかと思いまして」


 以前話していた帝国と連絡を取る為の魔道具「スマフォン」に、マリウスさんから連絡があったらしい。

 もしかするとハルの事について連絡が来ているかもとの事で、念の為私にも声を掛けてくれたのだそうだ。


「じゃあ、マリカの集音の魔道具を使おう。それでスマフォンの音を集音すれば何度でも聞けるしね」


 ディルクさんの提案にモブさんが「おお! そんな魔道具が!? 助かります!」と言ってすごく喜んでいた。ベンさんとラウさんにも聞かせる事が出来るものね。


 モブさんが「スマフォン」を起動させると、久しぶりに聞くマリウスさんの声が。


『昨日は連絡出来なくてすまない。今、帝国は少々ごたついているから、これからは連絡が出来ない日があると思う』


 聞こえてきた内容に少し心配になる。帝国が何やら大変って事なのかな?

 モブさんに聞いてみたいけど、今私が喋るとマリウスさんの声と一緒に集音されちゃうから、後で質問しよう。


『そちらはレフラの森を抜けた頃だと思う。最近、その森の周辺で人々が正体不明の魔物らしきものに襲われているという情報が入っているから、くれぐれも注意してくれ。こちらでも討伐隊を編成して対応するが、決してミア様を危険に晒さないように』


 え……正体不明の魔物……? すごく不穏なんだけど、大丈夫かな……。


 それにマリウスさんも何だか疲れた声をしている。きっとハルが倒れたところにゴタゴタがあって、更に正体不明の魔物だものね……。

 きっと対応に追われているのだろうと考えていると、『そして殿下の事だが……』と言うマリウスさんの声にハッとなる。


『<神の揺り籠>のおかげで容体は安定しているので安心して欲しい。肉体的損傷も全快しているが、意識だけが戻らない状態だ。そして囚人を尋問した結果、殿下を負傷させた武器の事が判明した。そちらは帝国に到着次第報告する。以上だ』


 ハルの容体は大丈夫と聞いて安心する。ああ、良かった……! 魔法のベッド、ちゃんと効果があるんだなぁ。

 私は帝国にある魔法のベッドに「その調子で頑張って!」と念を送る。……ちゃんと届くかはわからないけれど。


「うん、ちゃんと集音出来たみたいだから、後でベンさん達にも聞かせられるよ」


 ディルクさんがチェックした魔道具をモブさんに手渡すと、「有難うございます!」と嬉しそうに受け取っていた。


「このマリカさんが作った集音の魔道具は保存が出来るんですね……いやぁ、凄いですよね! 流石ですよ。このスマフォンも保存が出来れば助かるんですけどね」


 ハル達が作ったスマフォンは離れている任意の人に声を届ける事が出来るけれど保存が出来ず、マリカが作ったブローチ型の魔道具は近くの音しか集める事が出来ないけれど、音を保存出来る。……この魔道具の性能を合わせたら凄いものが出来そう。


「スマフォン……改造したい」


……あ、マリカの魔道具魂に火がついたようです。




* * * * * *



お読みいただき有難うございました!


次のお話は

「161 ぬりかべ令嬢、野宿の準備をする。」です。


久しぶりにミアがやらかします。

次回もどうぞよろしくお願い致します!


何度もすみませんが、しつこく宣伝です。


拙作「ぬりかべ令嬢、介護要員として嫁いだ先で幸せになる。」が、

「ぬりかべ令嬢、嫁いだ先で幸せになる」とタイトルを変更し、

フロンティアワークス様のレーベル、アリアンローズから書籍化していただける事になりました。

発売日は6/11(金)となっています。


応援して下さった皆様、本当にありがとうございます!


内容はWEB版から加筆修正をし、意外なあの人が早々に登場したりと展開もまた違うものとなっていますので、興味をお持ちいただけましたら是非ともお手に取って貰えると嬉しいです。

既に各書籍販売サイト様で予約も始まっていますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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