153 ぬりかべ令嬢、ハルの状況を聞く。1

 ちなみにお料理は流石高級の宿という事もあり、とても美味しかった。

 ホカホカの焼き立てパンにブッラティーナチーズとトマトの新鮮なサラダ、鳥のコンフィとこの村の名物であるトゥールズソーセージに白インゲン豆の具沢山な煮込み、柔らかいステーキのマデラソースなどなど。


「あー、これが仕事じゃなかったらなぁ。旨い酒の一杯でも引っ掛けるのに」


「だよなー。こんな高級宿に泊まる機会なんて滅多に無いしな」


「お二人はお酒が入るとポンコツになるんですから、我慢してくださいよ―」


 フォンスさんとニックさんが漏らした言葉に、ラリサさんが注意を入れる。


「帝国に無事着いたら皆んなでお祝いしよう。それまでは我慢してくれるかな」


 ディルクさんの提案に、皆んなが嬉しそうに返事をする。

 

「その祝いの席に、俺達も入れて貰えるんですか?」


 ベンさんの言葉に、ディルクさんが「勿論だよ」と答えると、モブさんやラウさんも「よっしゃー!」と喜んでいた。


 お料理を食べた後、しばらく談笑する頃には、皆んなすっかり打ち解けていた。

 しばらく敬語だった師団員の人達も砕けた話し方になっていたけれど、お固い敬語よりは余程良いと思う。


「じゃあ、食事も終わった事だし、これからの方針の相談や情報交換をしようと思う。リシェやフォンス達は明日の準備をお願いするね。ミアさん、マリカ、マリアンヌさんは疲れていると思うけど大丈夫かな?」


 ディルクさんの質問に、私達は「はい」「ん」「は、はい!」と答えて頷く。

 リシェさん達が退出するとレオさんが魔道具を取り出して起動した。すると部屋全体を膜みたいなものが覆う。どうやらマリカ特製、防音の魔道具みたい。

 リシェさん達を退出させたのは、下手に情報を与えて危険に晒さない為だろう。


「レオ、有難う。じゃあ、モブさん達に聞きたいんだけれど、レオンハルト殿下の容態は聞かされているのかな?」


 ディルクさんの言葉に私はハッとなる。そう言えばハルの事は重体だとしか聞いていない。モブさん達はハルの状態を詳しく知っているのかな……?

 緊張しながら返事を待っていると、モブさんが重々しく口を開いた。


「俺達も詳しくは聞かされていないのですが……」


 そう言ってモブさんが話してくれた内容は──


 ハル達は帝国への帰り道、休憩しているところを奇襲されたのだそうだ。だけど、その奇襲は予想されていたらしく、ハル達は襲撃者達を返り討ちにしていたのだけれど、その者達は陽動だった様で、師団員達とハルは引き離されてしまったと言う。


「最初に襲ってきた奴らに紛れて、認識阻害の魔法か魔道具を持っていた奴らもいたらしくて。そいつらがやたら強かったそうですよ」


 陽動に使われた者達はとにかく数が多く、全員を倒した頃にはハルの居場所を完全に見失っていたらしい。


「でも殿下にはいつも精霊が引っ付いていましたし、マリウス様がすぐに居場所を見つけたそうです」


 マリウスさん達が駆けつけた頃には、破壊され尽くした森に、襲撃者八人の死体が転がっていたのだそうだ。

 とても酷い状況に、私は震える身体を何とか落ち着かせてモブさんの話を聞き続ける。


「それで、殿下なんですが……槍の様な物で胸の中心を貫かれた状態で倒れていたのだそうです」


「……っ!!」


 私はモブさんの言葉に衝撃を受ける。


 ──重体だとは聞いていたけれど、まさかそんな状態だったなんて……!


「ミア、顔色が悪い」


「ユ……ミア様、大丈夫ですか?」


 顔色が真っ青になっていたらしい私をマリカやマリアンヌが心配してくれる。

 ディルクさんやモブさん達も心配そうに私を見ているので、これ以上心配をかけるのは駄目だと思い、何とか心を落ち着かせる。


 ……大丈夫大丈夫。ハルは生きている──そして私を待ってくれている……!


「……うん、ゴメンね。私は大丈夫だよ」


 私がショックを受けても事態は何も変わらない。それに情報はちゃんと共有しておかないと、きっと後で困る事になる。


「……ハルはそんな状態で帝国まで帰ったんですか?」


 上級ポーションを大量に使ったのかな……? それでもそんなひどい怪我が完治するとは思えない。


「そこは殿下が強運の持ち主と言うか何と言うか。まだミアさんが目覚めていない頃、殿下に懇願されてね、以前ミアさんが作ってくれた水を分けた事があったんだ」


 ……え? 私が作った水を……?


 私が不思議に思っていると、ディルクさんがその時のやり取りを教えてくた。


「ミアさんと初めて出逢った時、飲ませてくれた水に命を助けられたからって。お守り代わりに持っていたいって言っていたよ」


「ミアに関わるもの全て奪う勢い」


 ディルクさんとマリカが説明してくれた内容に思わず苦笑いを浮かべてしまう。ハルは私が作ったものや使ったもの全てを帝国に運ぼうとしたらしい。


「ミアさんを独り占めしたいって気持ちの現われだったんだろうね」


「だから<神の揺り籠>もハル達が運んでいた」


 ──ん? <神の揺り籠>?


「ねえマリカ、<神の揺り籠>って何?」


 私は初めて聞く言葉をマリカに質問してみる。すると<神の揺り籠>は、私がマリカのために魔法をかけたベッドの事だと知って驚いた。確か寮には置いておけないってマリカが言ってたっけ。そう言えばそんな大荷物、馬車で運ぶのは大変だものね。


 でもあのベッドが<神の揺り籠>……!? 何だかすごく大それた名前だけど……。


「<神の揺り籠>は法国に於ける最上級治癒魔法ですから。俺もこの目で初めて見ましたよ」


 モブさんは出発の荷造りをしている時に例のベッドを見たらしい。


「俺も見たかったけど、もう魔力遮断の匣に入れられた後でしたしねー」


 ベンさんが残念そうに呟いたけれど、見た目は至って普通のベッドですよ? 見てもきっと楽しくないと思う。


 ハルは私が作った水と、<神の揺り籠>を運んでいたおかげで重体で済んだらしい。でも、咄嗟にそれらのものを使用しようと判断したマリウスさんも凄い人だと思う。


「<神の揺り籠>の中にいれば一先ず命の心配は無いよ。あれは肉体的損傷や病気などの治癒に効果があるからね」


 ディルクさんが私を安心させようと<神の揺り籠>の効果を教えてくれる。でも肉体の損傷は治っていても目覚めない理由はわからないらしい。私の時のように、魔力神経が傷んだ訳では無いみたいだけれど。


「マリウス様はマリカさんに魔眼で殿下の様子を視て貰いたいと仰っていました」


 モブさんの言葉にマリカが頷いた。マリカの魔眼は本当に凄いものね。


「ええっと、襲撃した犯人と言うか、首謀者は分かっているのですか?」


 さっき奇襲は予め予想されていたと言っていたから、ある程度犯人の目星は付いているのでは、と思う。


「はい。我々はアードラー──ヴァシレフも輸送していましたから。殿下はきっと法国がヴァシレフを奪還しに来るだろうと予想しておいででした」


 ラウさんから嫌な思い出しか無い人の名前を聞いてゲンナリする。

 ……そう言えばあの人は帝国預かりになったってハルが教えてくれていたっけ。



* * * * * *



お読みいただき有難うございました!

ハルを襲ったのは誰なんでしょうね―(すっとぼけ)


次のお話は

「154 ぬりかべ令嬢、ハルの状況を聞く。2」です。

元豚伯爵は果たして無事なのでしょうか?(誰も興味ない)


お☆様や♡、コメント有難うございます!とても励みになっております!

話数もかなりあるのに初めからお読みいただいてる方も有難うございます!

まだまだ終わりませんが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします!


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次回もどうぞよろしくお願い致します!

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