151 ぬりかべ令嬢、初めて宿に泊まる。1
マリカとディルクさん、マリアンヌを交えてお喋りしながら馬車で進む事しばらく、日が暮れだしたので、少し早いけれど宿をとって休憩する事になった。
出発したのが午後という事もあり、このままギリギリ進んだら森の中で野宿する事になってしまうので、それなら早い内に休んで明日朝早く出発しようとなったのだ。
「いきなりミアさん達女性陣に野宿をさせるのも忍びないしね。それに、この旅に同行している皆んなを紹介しないとね」
そう言えば急遽出発してしまったから、顔合わせも碌にしないままここまで来てしまったんだった。ちゃんと皆さんに挨拶せねば! 挨拶は基本だものね!
それから私達は旅をする人がよく利用すると言う、帝国へ向かう途中にある宿場町へと馬車を進めた。
その宿場町は王都の町並みとは違い、ノスタルジックな雰囲気の建物が建ち並んでいて、何とも風情ある雰囲気を醸し出している。私は初めて見るその光景にワクワクしてしまう。
本当は一刻も早くハルのもとへ行きたいけれど、それで無理をして私が身体を壊してしまうと元も子もないし、皆んなの事も考えると勝手な事をする訳にも行かないし……。私は自分にそう言い聞かせて、逸る心を仕舞い込む。そしてどうせならこの旅を楽しもう! と考えを改める。
宿場町をしばらく馬車で進み、街の真ん中あたりまで来ると、ようやく馬車が停まった。窓から外を覗くと、馬車の前に立派な建物が。
「ええと……ここに泊まるんですか?」
おそらくこの宿場町で一番高級であろう宿を見て怖気づいた私は、ディルクさんに確認を取る。
「そうだよ。この街で一番良い宿なんだ。貴族であるミアさんから見たら、そう見えないかもしれないけど」
いやいやいや!! 私はほとんど貴族として過ごしていないので、貴族扱いは勘弁して欲しい。……と云うか、貴族枠から外して欲しい。
「こんな高そうな宿じゃなくても私は大丈夫ですよ? まだ出発したばかりですし、宿代は節約した方が……」
私がこれからの事を心配して提案すると、ディルクさんが楽しそうに笑いだした。
「ははは! 流石だなあ……レオンハルト殿下はミアさんの事をよく理解しているんだね……。本当に感心するよ」
突然ハルの名前が出て、何の事か分からず首を傾げている私に、ディルクさんが明かしてくれた事によると……。
「今回の帝国行きだけれどね、元々は僕が本店に戻って後継者としての勉強をしようと思った事がきっかけだったんだけど……」
帝国へ行くと決まった直後に私とマリカが拐われて、運良くハルに助けられたけれど、その事件があったせいでハルとディルクさんはかなり危機感を持ったらしい。
そこで二人で話し合い、利害が一致したのも有って、今回の帝国行きはハルがディルクさんに仕事として依頼したのだそうだ。
「だから僕たちの仕事はミアさんを快適に帝国まで無事に送り届ける事なんだよ。そのための資金も十分貰っていてね。この宿だったら一年は貸し切りに出来るんじゃないかな」
ええー!? そ、そんなに高い依頼を……!? ハルってばいつの間に!
ディルクさんの話に驚いた私だったけれど、まだ話は終わっていないみたいで、更にディルクさんが裏話を教えてくれた。
「殿下からミアさんは安宿で良いって言うだろうけれど、絶対その場所で一番良い宿に泊まらせて欲しいって言われていたんだ。高い宿は安全面でも優れているからね。師団員を三人も付けてくれているけれど、殿下はそれでも心配みたいだったよ」
──ハル……!
ハルの気遣いに嬉しくなる。本当に私を想ってくれている事を知り、胸に温かい気持ちが湧いてくる。
「本当は国賓として招きたかったみたいだけれど、準備する時間が無かったらしくてね。飛び出すように帝国から駆けつけたみたいだから」
正直、国賓扱いは遠慮したかったので、今の扱いで良かったと胸を撫で下ろす。
「それなら、ハルに心配をかけない為にも、今回の旅の事はディルクさんにお任せしますね。すみませんが、よろしくお願いします」
私の言葉にディルクさんは満足そうに頷いてくれた。
* * * * * *
宿に入って受付を済ますと、それぞれ部屋割りをする。
その時に、今回の旅で同行してくれる人達を紹介して貰った。
「じゃあ、まずは飛竜師団の方達の紹介かな」
ディルクさんの言葉に、体格が良くていかにも強そうな三人が前に出る。
「ユーフェミア様、改めましてモブと申します。レオンハルト殿下からくれぐれもユーフェミア様に不便を掛けぬよう命令されておりますので、どうぞ何なりとお申し付けください」
モブさんはハルを見送った時に一度会った事がある団員さんだ。
「私はベンと申します。どうぞお知りおき下さい。レオンハルト殿下の大切な方であるユーフェミア様を護衛出来、とても光栄に存じます」
「えっと、僕……私はラウと申します。この命に変えてもユーフェミア様の事はお守りしますので!」
モブさんはこげ茶色の髪で精悍な顔立ちをしており、ベンさんは金色の髪の綺麗な顔をした人で、ラウさんは赤い髪の毛の少し幼い印象の人だった。三人共すごく強いのだろうな。
「挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。ご存知だと思いますが、私はユーフェミア・ウォード・アールグレーンと申します。帝国までどうぞよろしくお願い致します」
私が頭を下げて挨拶すると、何故か慌てた雰囲気が伝わって来た。
「ど、どうか御顔をお上げ下さい! 殿下からはユーフェミア様を<桜妃>として扱えと申し付けられております! 我らにその様なお気遣いは無用です!」
モブさん達はハルからくれぐれも私に粗相のないようにと釘を刺されているらしい。
──けれど、<桜妃>って何だろう……?
聞いた事がない言葉だったので、モブさんに聞いてみたところ……。
「<桜妃>とは帝国の始祖様が作られた言葉らしく、始祖様がこよなく大切に想っていた方の事だそうです。それにちなんで、皇族にとって大切な方……俗に言う婚約者の方をその様にお呼びしているのです」
……なるほど。
モブさん達にとって私はハルの婚約者扱いなんだ……。確かに立場ははっきりさせておいた方が良いかもしれないものね。ちょっと恥ずかしいけれど、ハルが私の事をそう思ってくれているのがとても嬉しい。
* * * * * *
お読みいただき有難うございました!
まさかモブがレギュラー入り(?)するとは自分でも思いませんでした。
次のお話は
「152 ぬりかべ令嬢、初めて宿に泊まる。2」です。
メンバー紹介の続きです。
更新はTwitterの方でお知らせしています。
次回もどうぞよろしくお願い致します!
それとこの場をお借りしてお礼を言わせていただきます。
先日この作品にレビューをいただきました!(人´∀`).☆.。.:*・゚
すっっごく嬉しいです―!(∩´∀`)∩ワーイ
視点変更の多さはすみません、こういうスタイルなので!としか。
ちなみに、なろうさんの方では閑話は隔離していますのでお好みでどうぞ!
キャラが魅力的と仰って貰えて感無量です!本当に有難うございます!
これからも更新頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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