144 この世界の裏側で──アルムストレイム神聖王国2
そうしてアルムストレイムが着席した後、使徒座達も着席し、それを確認したホルムクヴィスト枢機卿が説明を始める。
「今日貴殿らに招集をかけたのはナゼール王国の件についてだ。福音聖省に所属していた元尋問官、ヴァシレフが先日奴の組織ごと捕縛されたのは知っているな?」
「俺が生まれる前の話だから良く知らねーけどよー。何であんな奴生かしといたんだよ。さっさと処刑しときゃこんなメンドーな事にならなかったのによー」
「我も全く同意見であるな。そのせいで『穢れし者』共が調子に乗っておるのだぞ」
使徒座の十二人はアルムストレイム聖王国にある、十二の中央行政機関をそれぞれが管理する責任者達でもある。
そんな教会聖省と修道聖省の長である二人が非難の声をあげる。
「其の件に関して今議論をしている場合ではない。本題はナゼール王国に派遣しているイグナート司教から我ら使徒座に『異界の忌み子』を神去らす為の申し入れが有った件についてだ」
ホルムクヴィスト枢機卿の言葉を聞いた使徒座達に緊張が走る。
「現在『異界の忌み子』はナゼール王国に滞在しているのだが、二日以内に帝国へ帰還するとの情報が入っている。今回『異界の忌み子』は飛竜師団を引き連れているものの、その数は少なく人員も絞られているので警備はかなり手薄になっているとの事だ」
「……奴にしては珍しいですわね。いつもであれば過剰なぐらいですのに」
奉献聖省の長が意外そうに言った。
彼女の言う通り、世界でも有数の国である帝国の皇太子は、国外へ出る時は常に周りを警戒し、過剰な戦力を引き連れているという。そこら辺の国が隙を狙って襲撃しようとしても瞬殺で返り討ちにあうだろう。
「じゃあ、今が『忌み子』を殺すチャンスだね!」
「絶好の機会である事には間違いないな!」
司教聖省と典礼聖省の長が喜色を満面に現わして言う。ずっと狙っていた獲物がようやく隙を見せてくれた事が嬉しかったようだ。
「しかし『忌み子』個人の実力は未知数。油断は出来ない」
「……だからこうやって招集がかかっているんだろう? 我々の権限で『八虐の使徒』を発動させる為に」
心配そうだった秘跡聖省の長が、聖堂聖省の長の言葉に今度は眉をひそめる。
「……まあ、その通りだ。『八虐の使徒』を発動するには貴殿ら全員の承認が必要だからな。それに大聖アムレアン騎士団を動かすわけにも行くまい?」
ホルムクヴィスト枢機卿に問いかけられた教理聖省の長は「……うむ」と返答する。
アルムストレイム聖王国が誇る聖堂騎士団の最高位である大聖アムレアン騎士団の名は世界中に知れ渡っている。そして神の御名において祝福され、神聖な力による加護を受けた正義の執行者達である騎士団に暗殺などさせられる訳もなく。
「ならば『八虐の使徒』が一番適任ではないか? 異議あるものは挙手を」
「……………………」
ホルムクヴィスト枢機卿の問いかけに、手をあげる者は誰もいない。
「では、決まりだな。王国のイグナート司教に連絡を──」
ホルムクヴィスト枢機卿が決を採ろうとしたが、手をあげていた人物に気付き思わず言葉を飲み込んだ。
「教皇聖下、大変失礼致しました。聖下は『八虐の使徒』の使用を反対と云う事でよろしいですか?」
「いえ、『八虐の使徒』だけでは不安ですから、第十三神具の使用も許可しましょう」
「「「「──!!」」」」
円卓の間のあちこちで息を飲む声が聞こえる。それだけアルムストレイムが提案した事は意外な事だったからだ。
使徒座達が驚く程のもの──第十三神具と呼ばれる秘礼神具は神器の一種、対魔神殲滅用の武器の事だ。
「……聖下、宜しいのですか?」
「はい、秘礼神具を用いれば確実に『異界の忌み子』を神去らす事が出来るでしょう」
ホルムクヴィスト枢機卿がアルムストレイムに確認を取るが、彼の意志は固いようだ。
「しかし……『忌み子』に第十三神具の使用許可を出されるなど……私は獣王国の『聖獣』に使用するものだとばかり思っておりましたのに」
列聖省の長が戸惑いながらアルムストレイムに問いかける。
帝国と同じ様に獣王国や竜王国も特殊な信仰を持っている国だ。獣王国は「聖獣」を、竜王国は「聖竜」を。
一説によれば、「聖獣」や「聖竜」は長い年月を得て神格を得ると「神獣」や「神竜」へ位階が上がるという。
「今代の『聖獣』はまだ『神獣』へ至っていない様子。ならば今のうちに『聖獣』を神去らすのが得策かと思いますが……」
列聖省の長の言葉に、布教聖省の長が補足する様に意見を出す。
「正直、獣王国はどうとでも出来ますから。それよりも私は帝国皇太子──『忌み子』の方が脅威だと思っています。ですから私は『聖獣』より『忌み子』を一刻も早くこの世から消し去りたいのです。その為には確実に神去らす必要がありますからね」
珍しく饒舌に話すアルムストレイムに、ホルムクヴィスト枢機卿を始めとした使徒座の面々は、それだけ『忌み子』の存在は危険なのだろうと認識を改める。
「……かしこまりました。では『忌み子』への対応を最重要案件として処理致します」
「よろしくお願いしますよ」
──そうして、アルムストレイム聖王国の円卓の間で、バルドゥル帝国皇太子レオンハルト・ティセリウス・エルネスト・バルドゥルを神去らす為の計画が話し合われたのだった。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
登場人物が増えてエライ事に。その内人物紹介作らねば。
次のお話は
「145 この世界の裏側で──アルムストレイム神聖王国3」です。
アルムストレイムの性別が明らかに!(誰得)
どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます