143 この世界の裏側で──アルムストレイム神聖王国1

ある意味説明回です。


* * * * * *





 ──ナゼール王国で晩餐会が開かれる前日に時は遡る。


 アルムストレイム神聖王国は、世界を創造したと云われている唯一無二の絶対神──至上神を信仰する、この世界に於いて最大派閥の宗教、アルムストレイム教の中心国である。


 帝国や獣王国、竜王国など特殊な信仰を持つ一部の国以外の、ほぼ全ての国に神殿を構えており、アルムストレイム教を国教としている国も多い為、その影響力は計り知れない。

 

 そのアルムストレイム神聖王国の中心地に、圧倒的存在感を放ち聳え立っているのはアルムストレイム教の総本山であるオーケリエルム大神殿だ。

 長い時間の中で、改築を繰り返された大神殿はその時代の建築様式が反映されているため、部分部分で雰囲気が違うのだが、それが却って歴史を感じさせている。

 大神殿の中に入るとすぐ目につくのが高い天井とそれを支える太い柱だ。柱には聖人の彫刻や宗教画などが描かれ、繊細で美しい装飾が施されている。そして高い天井を支えるリブ・ヴォールトも、複雑な模様を描いていて美しい。

 

 このオーケリエルム大神殿には、一般の信徒が使用する祭壇がある神殿とは別に、司教以上の者しか入ることが出来ない主祭壇があるもう一つの神殿がある。

 その主神殿は青で統一された絢爛豪華な祭壇に、装飾が施された天井と柱、窓にはステンドグラスが輝き、青い光が染める神殿内は神々しく、信仰心が無い者でも神を身近に感じるような不思議な雰囲気が漂っている。

 

 そんな青い光に満たされた主神殿の祭壇の前で、祈りを捧げている人物が居た。

 金色の髪は青い光の中で月の様に煌めき、今は祈りの為に目を閉じているものの、その横顔は溜息が出る程美しい。肌は陶器のように滑らかでシミや黒子などは一切見当たらない。

 

 正に神が創り賜うた芸術品の如き美しいこの人物の名は──アルムストレイム。


 彼は世界中に影響力を及ぼすアルムストレイム教の最高位に座する教皇であり、聖なる力を持った聖人である。

 

 アルムストレイム教の「アルムストレイム」は神の名ではない。

 唯一無二の絶対神・至上神の代理者としてその教えを説き、人々を正しき道へ導く為に、至上神から遣わされた神の子として、教皇の座に就いた者だけがその名を名乗る事が出来るのだ。

 

 そして当代のアルムストレイムは、膨大な魔力量と聖属性を持って生まれ、幼き頃よりその才能を開花させている。そして慈愛と叡智を持った素晴らしい人物として誰もが彼を褒め称え、法国に於いて絶大な人気を誇っている。

 

 神秘的な青い光に包まれた神殿の中で、至高神に祈りを捧げていたアルムストレイムは朝焼け色──やや橙色がかった桃色の瞳を開き立ち上がると、神殿の入口までやって来た神官に声を掛ける。

 

「何か急ぎの用件ですか?」


「お祈りの邪魔をしてしまい申し訳ありません。使徒座に招集が掛かりまして、首座であるホルムクヴィスト枢機卿がアルムストレイム様にもご同席賜りたいと仰っておりますが、如何なさいますか?」


「……それは珍しいですね。わかりました、私も同席しましょう」


 神官の言葉にアルムストレイムは少し考えた後、同席する旨伝えるように指示を出す。

 神官は恭しく一礼した後、首座──使徒座の中で一番位階が高く、使徒座を纏めているホルムクヴィスト枢機卿の元へ、了承の意を伝達すべく急いで神殿を出て行った。

 



* * * * * *




 オーケリエルム大神殿内にある円卓の間に、アルムストレイム教の中でも絶大な権威を付与された者達──至上神に全てを捧げ、意のままに動く御使いの座に就く事が許された者──使徒座と呼ばれる十二人の者達が一堂に集結していた。

 

 円卓には既に全員が着席しており、聖座──最高権力を有するアルムストレイム教の頂点である教皇、アルムストレイムの到着を待っている。

 しかしその様子は様々だ。居眠りをする者や読書をする者、鼻歌を歌っている者、腕を組んで目を瞑りじっとしている者……。そこに世界最大派閥の宗教の、更に使徒の座を有する上位の者達が持つであろう緊張感は一切ない。

 それどころかめちゃくちゃリラックスムードだ。

 

 ちなみに使徒座の十二人は年齢も性別も性格も好みもバラバラだ。しかし、それぞれがアルムストレイム教に於いて重要な役目を担っている。

 

 ──そんな何もかもバラバラな使徒座にある共通点はただ一つだけ。

 

 しばらくすると円卓の間の扉が開かれた。教皇アルムストレイムが到着したのだ。

 

 アルムストレイムが姿を表した瞬間、リラックスムードだった円卓の間が一転し、まるで戦場のような緊張感が走る。

 そして使徒座達が一斉に立ち上がり姿勢を正すと、統率が取れた騎士達のように一糸乱れぬ動きでアルムストレイムに礼を取る。

 

「皆さんお揃いでしたか。お待たせしてしまいましたね、申し訳ありません」


 アルムストレイムが申し訳なさそうに使徒座達に声を掛けると、首座であるホルムクヴィスト枢機卿がアルムストレイムへ進言する。

 

「教皇聖下、お忙しい御身をお呼び立てし、誠に申し訳ありません。我ら使徒座、教皇聖下に拝謁賜りました事、大変光栄に存じます」


 本来であればこの様に使徒座が勢揃いする事は滅多に無い。最高位に座する者達だからこそ多忙で、それぞれが職務を全うしている為に予定を合わせづらいのだ。

 

「いえいえ、皆さんもお疲れ様です。お忙しい中よく集まって下さいましたね。皆さんのお顔を拝見出来て私はとても嬉しいです」


「勿体無いお言葉です」


 ホルムクヴィスト枢機卿が礼を取ると、他の者達も同じ様に礼をする。しかし先程までの緊張感は既に薄れ、使徒座達はみんなどこか嬉しそうな雰囲気だ。

 

 ──そう、使徒座達の唯一の共通点、それは──全員がアルムストレイムに心酔している、と云う事であった。





* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


アルムストレイムが登場です。紹介だけで終わってしまいました。_(┐「ε:)_

話が進まずすみません!また明日更新します。


次のお話は

「144 この世界の裏側で──アルムストレイム神聖王国2」です。

会議の様子です。


どうぞよろしくお願いいたします。

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