138 ぬりかべ令嬢、お礼を言う。
ハルが去って行った空を見上げながら、しばらく突っ立っていたけれど、気が付けば周りは私達だけで、他の人達は既に引き上げて帰って行くところだった。
結構時間が立っていた事に焦りながらも、何時までもウジウジしている場合じゃないと思い直し、自分に気合を入れる。
──よしっ! 一刻も早くハルと会うために準備を進めよう! やらなければいけない事は沢山あるのだ!
私がやる気を出していると、マリカがじーっと私を見ている事に気が付いた。
「マリカ、どうしたの?」
「ミアは泣くと思ってた」
まあ、確かに泣きかけたけれど……かなり危なかったけれど……!
「泣いている時間が勿体無いもの! その分、早く帝国に行く準備をした方が有意義だし!」
ちょっと強がっている自覚はあるけれど、早くハルと再会する為にも、私は最短ルートを目指すのだ!
「それより待っていてくれてありがとう。 二人とも忙しいのに……」
ハルと別れて、しばらく動かなかった私を黙って見守ってくれていたのだろう、その心遣いが嬉しかった。
「ふふ、殿下と再会してミアさんは随分強くなったね」
ディルクさんがまるで子供の成長を見守る親のように、慈愛に満ちた瞳で見てくるから、何だかとても恥ずかしい。
「そ、そうですか? 自分ではわからないんですけど」
「ミアは心身共に強くなっている……だから」
マリカがディルクさんの言葉に同意してくれたけど……何だろう?
何かを言いかけていたのに、黙ってしまったマリカの言葉を待っていると、マリカが再び私をじっと見つめていて……あ、これは何かを「視て」いるのだと気が付いた。
「……ミア、戻っている」
「え? 戻る? 何が?」
「聖属性」
「──────ええっ!?」
マリカの意外な言葉にとても驚いた。それを聞いていたディルクさんとマリアンヌもかなり驚いた様で、二人して息を呑んでいる。
「ひえー! ユーフェミア様が、聖属性を……すごいです……!」
マリアンヌを始め、屋敷の皆んなは私が聖属性を持っていると云うのを知らないので、初めて知ったマリアンヌはとても驚いている。「さすがヒロイン! さすヒロ!」「聖女フラグキタコレ!」とか何とか意味不明な事を言ってすごく興奮しているけれど……大丈夫かな。ちょっと心配。
そんなマリアンヌとは対象的に、ディルクさんは静かに何かを考えている様だ。
「一度失った属性って復活するものなのかな?」
ディルクさんがマリカに聞いてみたけれど、マリカもその事は知らないらしく、首をふるふると振っている。
「ええと、実は私が聖属性を失くしたのは二回目みたいで……」
昔、私が聖属性を持っていたと言う事をお母様から聞いたとお父様が言っていたし……復活したのも二回目になるんだよね。
「……それはちょっとここでする話ではないね。ミアさん、時間があるのなら、一緒にランベルト商会に来てくれないかな? そこでゆっくり話を聞かせて貰いたいんだけど」
「私も来て欲しい」
私も久しぶりにランベルト商会に行けるのは嬉しいので、マリアンヌと一緒に行く事にした。
そう言えばマリアンヌに二人を紹介していなかったので、改めて紹介すると、またもやとても驚いていた。
「えっ!? ランベルト商会の方だったのですか!? ……へ? 次期会頭に帝国筆頭魔道具師……?」
あまりの事にマリアンヌがアワアワしている。……そうだよね、よく考えたらこの二人って凄い肩書を持っているんだよね。
「えぇ……大財閥の御曹司に発明の天才って事……? しかもロリで博士っ!?」
マリアンヌがまた意味不明な事を呟いている……今日は何だか多いなぁ。
「刺さる〜! 性癖に刺さる〜! ここは天国……? モノホン皇太子の溺愛に鬼畜眼鏡も間近で見れたし……ああ、わが人生に悔いなし……っ!」
………………えーっと。どうしよう。
取り敢えず思考が何処かへトリップしているマリアンヌを馬車に乗せ、ランベルト商会へ向かう。この前はろくに挨拶も出来ずにお屋敷へ帰っちゃったから、皆んなに謝らないと。
しばらく馬車に揺られ、ランベルト商会に到着する。今日は朝早く屋敷を出たので、今はお昼を少し過ぎた時間だ。
相変わらずお店は人で溢れていて活気があった。
お客さん達もキラキラした目で店内を物色していて、とても楽しそう。
「お昼時だし、昼食を食べてから研究棟へ行こうか」
ディルクさんに提案され、皆んなで食堂へ向かう。途中にあるバラやハーブが植えられている庭も相変わらず色取り取りで美しい……って、あれ?
「えーっと、もうすぐ冬だよね……? 何だかこの庭のバラ達、満開なんだけど……」
冬と言っても王国は温暖な気候なので、そんなに寒くはならないけれど、それでも冬には植物達も眠りにつく筈なのに。
先日見た王宮のバラ達は、もう葉を落としつつあったよね……?
それなのに久しぶりに見たランベルト商会の庭は、私が来た頃と変わらず、花が咲き乱れている。
「マリカが植物の成長を促す様な魔道具でも作ったの?」
私がマリカなら作りそうだったので尋ねると、マリカはふるふると首を振って否定した。
「私じゃない、ミア」
「え? 私?」
まさか私、また何かやらかしていたの……!?
ひーっ! と、顔が青くなる私にマリカが色々教えてくれた事によると、前は存在を隠しているのか、チラチラ姿を見かけるだけだった精霊さん達が、私とマリカが拐われてからは堂々と姿を現して、活発に活動するようになったらしい。
そしてその活発な活動というのが、このバラやハーブ達のお手入れ……だとか。
だから、この庭をお世話していた私が居なくなってもバラ達は元気なんだ……! 元気すぎる気がしなくも無いけれど……。
「精霊さん達ありがとう……! 来るのが遅くなってごめんね」
ハルに協力して私達を助けてくれた事も合わせて、心からお礼を言うと、今まで何処に居たのか、バラやハーブの影から精霊さん達がぶわっと現れた。
目の前が何百の光に満たされて、視界が光に埋め尽くされる。
私に精霊さんの言葉はわからないけれど、とても喜んでくれているのが伝わって来た。
「心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だから安心してね」
私の言葉を聞いた精霊さん達は、まるで労う様に優しい光を放つと、今度はバラやハーブの周りをくるくると周り始めた。
もしかして、こうして植物達を元気にしているのかな。
その優しくて美しい光景に、私の胸はじんわりと温かくなったのだった。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
予想通りの聖属性復活でした。
次のお話は
「139 ぬりかべ令嬢、驚く。」です。
ランベルト商会の面々が再登場です。
近況ノートに書く余裕が無いのでここでお礼を。
拙作に☆や♡、フォローいただき本当に有難うございます!
すごく励みになっております!
いつも応援くださる皆様のお名前は暗記する勢いです(怖!)
通知が来る度にお礼を叫んでいます。(相変わらず脳内で)
もうすぐ一区切り(?)する予定ですので引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます