133 ぬりかべ令嬢、ペンダントを渡す。

「……ミア、また何か考え過ぎてない? 別にその使用人をどうこうするつもりはないから。でも、ちょっと会ってみたかったなぁ」


「良かった……そうなんだ。マリアンヌはとても良い子だから、何かに巻き込まれたりしているんじゃないかって心配しちゃった」


「誤解させて悪かったな。そのマリアンヌって人に確認したい事があったんだけど……俺、もう明日の朝には王国を発つからなぁ。会うのは無理かー……」


 ハルがとても残念そうに言うのを見て、そう言えばと思い出す。


「ハル、実はマリアンヌも一緒に帝国に行きたいって言ってくれているの。だから帝国で会えるから、ガッカリしなくても大丈夫だよ」


「え? マジ? そりゃ良かった! マリウスも喜ぶよ!」


 ……? ここでマリウスさんの名前が出て来たのはどうしてだろう? でもハルが嬉しそうだからいっか。


 月の輝きが冴え渡り、庭園の花たちを照らし出す。精霊さん達は相変わらず庭園をふわふわと飛んでいて、夢のような光景にうっとりする。


 ……このまま時間が止まればいいのに。一秒でも長く、この時が続いてくれたらな……そんな事を願わずにはいられない。でも無情にも時間は流れ、ハルとのお別れの時間が刻一刻と迫ってくる。


 楽しみだったハルとのダンスも終わり、舞踏会の方も後少しで終わる頃だろうから、渡すなら今しかないと思った私は、ドレスの中からペンダントを取り出した。 


「えっと……私、ハルに渡す物があるんだけど……」


 そう言ってハルにペンダントを差し出すと、ハルはきょとんとした顔をして、「え? あ、これ……!」と言って綺麗な青い瞳を輝かせた。


「ミア、約束通りペンダントにしてくれたんだな! やったー! 俺、すっげー楽しみにしてたんだ!」


 ハルがすごく喜んでくれて良かった! ペンダント、楽しみにしてくれてたんだ……嬉しい!

 

 私からペンダントを受け取ったハルは、紐で編んだ網目をじっと見たり、触ったりして何かを確認しているようだ。


「この網目は……なるほど、聖属性が無くても……うん、これは凄いな……」


 ……んん〜? ハルが網目を見て何かブツブツ言ってるけれど……。


「ハル……何処か変だった? おかしい所があるなら編み直すよ?」


「いやいやいや! とんでもない! おかしいどころか凄いペンダントだよ! スッゲー嬉しい! ミア、ありがとな!」


 ハルが満面の笑みでお礼を言ってくれて、その笑顔にドキッとする。

 ハルの笑顔は太陽みたいだけれど、月明かりの下で見るハルはすごく大人っぽくて、妙な色香を放っている……そんな気がするけれど、それはきっと気の所為じゃないのだろう。


 ──だって、ここに来る前からずっと、ハルの香りにあてられているのか、頭がクラクラしちゃってる……。

 

 もしかしてこれが噂のフェロモン……!? ど、どうしよう……! このままハルと一緒にいたらおかしくなっちゃうかも……!!


 何だか勿体無いけれど、もう会場に戻った方がいいのかもしれない……。じゃないと、ハルに変な事を言ってしまいそう……!


 ──そんな私の心の中を、知ってか知らずか、ハルが私の顔を覗き込んできた。ち、近っ……!!


「……ミア、このペンダントを俺につけてくれない?」


「ふぇっ!? わ、私が……!?」


「うん。駄目かな……?」


 駄目な訳ないのに、駄目なのはドキドキしっぱなしの私の方なのに……!


「わ、わかった……えっと、じゃあ、頭を少し下げてくれる……?」


 一刻も早くハルから離れないといけない、なんて思っているのに、身体が勝手にハルへ引き寄せられるような、そんな錯覚を覚えながら、かすかに震える手で、何とかペンダントをハルの首に通すことが出来た。


 ──いつもならこんな事、何て事もない筈なのに……。何だか熱があるかのように、身体が熱い。


 そうしてハルが頭を下げた分、近くなった距離に、間近で見るハルの綺麗な青い瞳に、心臓がこれ以上無いと云うぐらい高鳴って──ハルの香りが強くなったな、と思った頃には、ハルに唇を塞がれていた。


 本来なら突然の事に驚くのだろうけれど、ハルとの口づけはそれがとても自然なように思えて、私はそっと瞳を閉じ、柔らかい唇の感触をそのまま受け入れる。


 しばらくそうしていると、唇がゆっくり離れていくのを感じてすごく寂しくなる。もっと触れ合っていたい、なんて……。そんな事を考える自分が恥ずかしい……っ!!


 でも、ハルも名残惜しいと思ってくれたのか、ハルの手が腰や後頭部に回されて抱きすくめられると、もう一度唇を塞がれる。


 ──ハルの纏っている香りと心地いい体温に身体を包まれて、何も考えられない。


 ハルは何度か角度を変えて口づけた後、そっと身体を離し、今度は私の手を握ってその指先に口づけた。綺麗な黒髪から覗く、長い睫毛に縁取られた青い瞳は熱を孕んでいて、その瞳にじっと見つめられると、胸の奥にある何かが疼く気配を感じる。

 

 ハルの瞳から目を逸らす事が出来ずにじっと見つめていると、その形の良い唇から漏れるように、甘く掠れた声が、私に囁いた。


「……ユーフェミア……」 


 ──ハルが私の名前を囁いた途端、体の奥底から全身に甘い痺れが走った。

 




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


……ふぅ。やっと一山越えましたよ……砂糖と云う名の山をな!( ー`дー´)キリッ

自分的にはこれぐらいが限界です。すみません。:(;゙゚'ω゚'):プルプル


次のお話は

「閑話 遅すぎた初恋3(エリーアス視点)」です。

時系列的には別の話なのですが、いてまえ打線という事で!(ヤケ)


どうぞよろしくお願いいたします。

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