132 ぬりかべ令嬢、ダンスを踊る。

 精霊さん達の光と、月明かりに照らされてキラキラ輝く噴水の水に、咲き誇る花に彩られたこの場所はまるで別世界のよう。

 

「うわぁ……! 綺麗……!」


 更に、少し離れた大広間から風に乗って音楽が流れて来るので、ここは正にダンスを踊るのにぴったりの場所だと思う。


「ミア、踊ろう」


 ハルが微笑みながら差し出してくれた手に、私はそっと自分の手を乗せて答える。


「はい……!」


 そして私はハルと一緒にワルツを踊った。


 練習の時、頭の中では滑らかで優雅な回転運動とか、姿勢を崩さないようにとか色々考えていたけれど、ハルと踊り始めたら、そう言うもの全部何処かに行ってしまった。

 

 ハルが積極的にリードしてくれるおかげで、身体が勝手に動いてくれるみたい。

 まるで自分がとても上手になったような、そんな不思議な気分になって、まるで夢心地のよう。


 私達が踊るのに合わせて、精霊さん達もくるくると回ったり、跳ねるように飛んだりするものだから、ますます楽しくなってくる。


 そうしてしばらく踊った後、広間の方で休憩に入ったらしく、音楽も止まったのでハルと一緒に近くのベンチで休憩する事に。


「は〜楽しかった! ハルがリードしてくれたから、とても踊りやすかったよ!」


「ミアこそ、予想以上に上手で驚いたよ。身体のラインが片時も崩れずに安定していたしな。それに俺と呼吸を合わせてくれたからリードしやすかったし、すごく楽しく踊れたよ。ありがとな」


 ハルに上手って言われてとても嬉しい……! お父様のアドバイスのおかげかも! 何かお礼しなくっちゃ……!


「……また一緒に踊れるかな……?」


 私の心配そうな質問に、ハルは笑顔で答えてくれた。


「もちろん! ミアが帝国に来てくれたら、毎日一緒に踊れるよ」


「うん……! そうだよね!」


 ダンスがこんなに楽しいと思ったのも、きっとハルと一緒だからなんだと思う。

 ハルと一緒にいるだけで、苦手だったものの見方がどんどん変わって来て、世界が広がっていくのを感じる。


 ──きっとハルが一緒にいてくれたなら、ただそれだけで、きっと何も怖くない……なんて。


 本当にそんな事を思えてしまうほど、私の中のハルの存在は大きい。


「……あーあ、ハルとしばらくお別れか……寂しいなぁ」


 明日になったらハルは帝国に帰ってしまう。私も後で行くとはいえ、半月近く会えなくなるのがとても寂しい。


 ──七年間ずっと会えなかったのに、半月会えないだけでこんなに寂しくなるなんて。


 自分がどんどん欲張りになっていく……ハル限定だけど。

 正直、こんなに人を好きになるなんて思わなかった。前からハルの事は大好きで、その気持はもういっぱいいっぱいだと思っていたのに、まだその先があるなんて知らなかった。


 ハルのすべてが欲しくて、独り占めしたい、なんて……ハルが知ったら怖がっちゃうかも。


 ──はっ! まさか……! もしかしてこれがヤンデレと言うモノなの……!?


 思考の海に飛び込みかけた私を引き止めるように、ハルがそっと私の手を握る。


「帝国に帰って仕事を片付けたらミアを迎えに行くよ。さっさと仕事をやっつけるから、もっと早く会えると思う。俺もミアと少しでも離れるのは寂しいし」


「ハル……! ありがとう! 迎えに来てくれるのは嬉しいけれど、すれ違ったりするんじゃないの? 大丈夫?」


「ああ、それなら大丈夫。師団員を何人かミア達の護衛につけるから。そいつらと定期的に連絡を取る予定だし」


「そうなんだ! なら大丈夫だね。でも師団員さん達忙しいんじゃない? 護衛なんかしてもらっていいのかな?」


 帝国でも優秀な人達だろうし、そんな人達が抜けたらハルの仕事にも差し支えそう。


「ミアの護衛なんて、これ以上無いぐらいの最重要任務だからな! 出来れば俺がやりたいぐらいだよ! それなのに……! くそっ!」


 おおぅ……! ハルがとても悔しそう。でもハルに護衛して貰うなんて、恐れ多くて無理無理! ……って言うか、ハルも護衛して貰う立場だよね!


「ミアの護衛、あいつら皆んなやりたがって、メンバーを選ぶのにすっっごく苦労したんだぞ。いきなり全員でトーナメント始めようとするしさ……」


 エリートな飛竜師団の人達とは云え、結構気性が激しいのかも。でも何だかとても楽しそう。


「あんなにキリッとして格好良いのに、面白い人達なんだね」


「見た目に騙されちゃ駄目だぞ、ミア。紳士に振る舞っているけどな、あいつら中身はただのケダモノだから!」


 ハルはそんな事を言うけれど、師団員さん達の事気に入っているんだな、と云うのがよく分かって微笑ましい。


「あ、そうだ! ミアは師団員達の着ていた服、何か知ってたよな?」


 何かを思い出したらしいハルが聞いてきたので、私は思った事をそのまま伝える。


「え? 確か軍服だよね? 今日も着ていたけど、とても格好良いよね、軍服!」


「うん、それなんだけど、ミアは何処で『軍服』を知ったのかなって」


「何処で……? ……ええっと、侯爵家にマリアンヌって名前の使用人が居て、そのマリアンヌがハルの服を見て、そう呟いていたんだけれど……」


「……は!? 使用人!?」


 私の答えが意外だったのか、ハルがびっくりしたのを見て私もびっくりした。


「マジかー! まさか使用人だったとは……」


「え? どうしたの? マリアンヌが何かあるの?」


 マリアンヌは「軍服」が凄く好きそうだったから、「軍服」関係で何か問題でも起こしちゃったのかな……?

 でもマリアンヌは侯爵家でずっと働いてくれている優秀な使用人だし、性格だって時々おかしな事を言うけれど、明るくて優しいし、それにとても綺麗だから市場のおじちゃん達の人気者だってデニスさんが言っていたのに……。

 マリアンヌが一緒に仕入れに行くと、いつもより食材の量が増えて助かるとも言っていたっけ。

 そんな皆んなに愛されているマリアンヌが、帝国に目をつけられるような何かをするとは、とてもじゃないけど思えない。


 そう云えばマリアンヌが帝国に行きたいって言うのも、何か「軍服」に関係が──!?






* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございました。


自分で甘々に絶えられず、ちょっと控えめにしました。(自主規制)


次のお話は

「133 ぬりかべ令嬢、ペンダントを渡す。」です。

たぶん糖度MAXです。(2020年11月現在)

( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ


どうぞよろしくお願いいたします。

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