131 ぬりかべ令嬢、舞踏会を抜け出す。
私がハルの姿を眺めていると、大広間中をさっと見渡していたハルと目が合った。……と思うんだけど、気の所為じゃないよね……? 自意識過剰じゃないよね……?
ハルはじっとこちらを見ているので、私の気のせいじゃないみたい……良かった!
……でもその綺麗な青い瞳にじっと見つめられていると、胸がどきどきと高鳴ってしまう。
一瞬、ハルに微笑まれたらどうしよう……! そんな事されたらきっと挙動不審になっちゃう……! と、警戒したけれど、ハルは予想に反して目元を和らげただけで、微笑む事はしなかった。
その様子にほっと安心したものの、ちょっと残念に思ってしまった私って……つくづく我儘だなぁと思う。
でもハルが表情を少し和らげただけで、案の定、周りの御婦人やご令嬢方は顔を赤くしてぽ〜っとなっていて、あちこちで黄色い悲鳴があがっている。
もしこれで微笑んでいたりしたら、失神者が続出していただろう……。きっと大惨事になっていたに違いない!
恐らくマリウスさん辺りがハルに微笑まないように進言してくれたのかもしれない。ハルの微笑みの破壊力は私が身を以て体験しているからよく分かる。犠牲者が出なくて本当に良かったよ……!
「この度はこの様な歓迎の場を用意していただき感謝する。今回の一件は俺一人の功績では無く、我がバルドゥル帝国飛竜師団、団員達が尽力してくれたからこそである」
ハルが心地良い、良く通る声でそう宣言すると、軍服を着た団員さん達がズラッと並んで整列する。
飛竜さんを見学させて貰った時も思ったけれど、皆さんキリッとしていてとても迫力があって格好良い。ご令嬢達もきゃあきゃあと好みのタイプを物色しているご様子。
「貴国の為に奮闘した我が団員達を労っていただけると有り難い。そして我がバルドゥル帝国とナゼール王国が協力しあい、共に発展して行く事を望む」
ハルの言葉に会場中から拍手が湧き起こり、大きな歓声と共に王宮中が喜んでいるみたいに盛り上がっている。帝国と王国が同盟を結んだと同意の言葉を帝国皇太子が宣言したからだろう。
そしてハルが姿を消すと同時に宮廷音楽団が曲を奏で、ダンスが始まった。
ハルと入れ替わるように飛竜師団の団員さん達が前に出て、次々とご令嬢をダンスに誘う。誘われたご令嬢達は頬を染めてうっとりとした顔で応じている。
ただでさえ洗練された帝国の男性の中でも、エリートとして高名な飛竜師団に所属している人達なのだ。王国のご令嬢達が骨抜きにされてしまうのは間違いない。
そんなあっという間の出来事にポカーンとしていると、誰かに手を握られてぎょっとする。でも驚いたのは一瞬で、何度か握ったことが有る手の感触に、大好きな人の存在を感じて嬉しくなる。
「……ハル!」
私の手を取ったのはやはりハルで、先程は見る事が出来なかった微笑みを浮かべていたので、うっかりときめきで倒れるところだった。
……よしっ! 耐性が付いて来たぞっ! すごい進歩だ! 頑張ってる私!
ハルはそんな私の手をギュッと握ると、握っていない方の手の人差し指を口元に当て、「しー」と声を出さないように伝えてくる。
その秘めやかな様子に私の心臓はどきどきしっぱなしになってしまって……うぅ、ときめきが止まらなくて辛い……っ!
そしてハルは私の手を引いて会場の中を歩くけれど、ハルがこんなところにいたら皆んな大騒ぎで寄って来そうなのに、誰もハルに気付かない。
ええー? こんなに目立つハルが此処に居るのに、どうしたんだろう……?
もしかしてハルが魔法で何か目眩ましみたいな事をやっているのかもしれない。だから誰も気付いていないのかもと思ったところでお父様を思い出す。
あ、お父様に黙って行ったら駄目だよね……! 一言言っておかないと! と、思ってお父様へ振り返ると、笑顔で手を振っているお父様が目に入ったので、ハルといる事に気付いてくれたみたい。
お父様には私達が見えている様だけど、一体どう云う原理なのだろう……?
ハルは光属性を持っているらしく、グリンダの<魅了>と違って、その魔法は多種多様だ。だから私では予想もつかないような魔法を使っているんだろうな……ハルって本当に凄い!
そうしてハルに連れて来られたところは、会場から少し離れたところにある庭園の一つだった。王宮の中には庭園がいくつかあるけれど、ここは初めて来た場所だ。
噴水の水が月明かりを受けキラキラと輝いて、とっても綺麗!
ダリアやデルフィニウム、セージなどの花々が咲いていて、秋を彩る花の世界に思わず見入ってしまう。
「ここなら誰にも邪魔されず、ミアとゆっくりダンスが出来ると思って来て貰ったんだけど……どうかな?」
「その為に連れて来てくれたの? 私はとっても嬉しいよ! あの会場でハルと踊るのって、すっごく勇気がいりそうだし……」
ハルの気遣いがとても嬉しい! お父様にはダンスを楽しめって言われたけれど、あまりの人の多さと、さっきの刺さるような視線が気になって、きっと素直にダンスを楽しめなかったかも。
「そうか、良かった……!」
ハルが嬉しそうな笑顔を浮かべるので、私も一緒に嬉しくなる。すると、空から光の粒がふわふわと降って来て、その見覚えのある光にビックリする。
「えっ……! まさか精霊さん……!?」
「……ああ、どうやらその様だな……全く、コイツらは……」
ハルは精霊さんを歓迎していないようだけど、たくさんの精霊さんが放つ淡い光に照らされた庭園は、とても幻想的な美しさを醸し出していた。
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
まだ自分では甘々成分低めかな、と。
ちなみに飛竜師団の面々はハルの隠れ蓑に使われてます。でもWin-Winです。
次のお話は
「132 ぬりかべ令嬢、ダンスを踊る。」です。
だんだん糖度が高くなるかと。( ゚д゚)、ペッ ( ゚д゚)、ペッ ←糖度指数
どうぞよろしくお願いいたします。
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