129 ぬりかべ令嬢、舞踏会に参加する。
今日は遂に舞踏会が開催される日だ。ハルとは一緒にダンスを踊る約束をしているのでとっても楽しみ!
でも上手く踊れるかなぁ……昨日お父様に付き合って貰って少しだけ練習はしたけれど、それまでまともにダンスを踊った事がないから、ハルに迷惑をかけないかとても心配だ。
きっとハルの事だからちゃんとフォローしてくれるとは思うけど。ハルに頼りっぱなしと云うのも申し訳ない。
「ユーフェミア様、浮かない顔をされてどうしました? どこかお体の具合でも……」
準備を手伝ってくれていたダニエラさんが心配そうに聞いてきたので、慌てて誤解を解く。
「違うよ! ハルとのダンスは楽しみなんだけど、失敗してハルに恥をかかせたたらどうしようって……ずっと考えちゃって」
「ダンスですか……? 旦那さまとはとてもお上手に踊っていらっしゃいましたよ?」
ダニエラが言ってくれるように、確かに失敗はしていない……けど……。何だか私のイメージするダンスと違ったんだよね。
「いやいやいや、ダニエラさんの感性もおかしいと思います!」
「確かにユーフェミア様は失敗していませんが、アレはダンスと言うか……」
「……何だか凄く迫力がありましたね」
「鬼気迫ると言うか、生死をかけた戦いのような……?」
「ステップが速過ぎて、足元が見えませんでしたよーぅ!」
……何だか言われようが酷い。必死にステップを踏んでいただけなのに!
「途中でテレンス様大笑いしていましたよね」
「ユーフェミア様が何処まで付いてこられるか試していましたよね、テレンス様」
「ダンスの筈なのに、剣舞でも見ている気分でした」
お父様……! 大笑いなんて酷い! 集中していたから全く気付かなかったよ……! ついムキになった私も馬鹿だけど……! 何かおかしいな、とは思ったけど……! うぅ〜。
「ユーフェミア様、大丈夫! アレだけ反射神経が有れば足を踏んだりぶつかったりする事はありませんよ!」
「そうですよ! それにユーフェミア様は体幹がしっかりしていらっしゃるので、姿勢が最後まで安定していましたし!」
「…………」
皆がフォローしてくれるけど、ダンスってそう云うものじゃ無いよね……? もっと優雅と言うか華麗言うか、そんな鬼気迫るような、熱いものじゃ無いよね……?
──もう二度とお父様とは踊らない! えーん!
* * * * * *
準備が完了し、ドレスアップした私は、舞踏会が行われる王宮へ向かう為の馬車に乗っている……お父様と一緒に。
「いやぁ、ミアはいつも可愛いけれど、今日はまた格別だね! 凄く綺麗だよ」
「…………有難うございます」
お父様が私の装いを褒めてくれるけど、さっきのダンスの一件を引きずっている私はとっても機嫌が悪い。
「ミア、まだ怒っているのかい? そろそろ機嫌を直して欲しいなーって思うんだけど」
「……だって、私はダンスの練習をお願いしたのに、皆んなには手合わせのようだったって言われるし……」
「つい楽しくてスピードアップしてしまったんだ、ゴメンね。でも、あれだけ踊れるのなら全く心配する必要はないと思うよ」
「でも、私が想像するダンスはもっと優雅で美しくて気品があったのに……」
グリンダとマティアス殿下のダンスを思い出す。あの時の二人はキラキラしていてすっごく素敵だった。あんな風にハルとダンスを踊ってみたいな、と思っていたのに。
「ミアの場合は肩の力を抜いて、レオンハルト殿下に全てお任せする気持ちでいればそれで大丈夫だよ。そうすれば殿下とのダンスは絶対に上手くいくよ。無理に上手く踊ろうとか考えなくていいんだ」
「……え? そうなの?」
「うん。ミアは色々考えすぎなんだよ。優雅とか気品とか気にする必要はないんだ。ただ純粋にダンスを楽しむ事が一番大事なんだよ」
お父様の言葉になるほど、と思った。私は人の見る目ばかり気にしていて、本当の目的を見失っていた。
そうだ、私はただ、ハルとのダンスを楽しむ事だけを考えればいいんだ……!
「なるほど……わかりました! さすがお父様ですね。『夜会の帝王』と言われるだけあります!」
「え、ちょ……何それ」
「気分が軽くなりました! お父様ありがとうございます!」
「いや、ミア、誰がミアにそんな言葉を……」
「ハルとのダンス楽しみだなぁ……」
「あれ? ミア、聞こえてる? おーい」
お父様には悪いけど、教えてくれた人の名前を言う訳にはいかないので聞こえないふりをさせて貰おう。デニスさん情報だなんて口が裂けても言えないや。
そうしている内に侯爵家の馬車が王宮に到着したけれど、正門から入り口までずらーっと馬車が列を作っていて、馬車から降りるまでに随分時間がかかってしまった。
お父様にエスコートして貰い、舞踏会会場へ向かう途中、周りからの視線がもの凄くて戸惑ってしまう。
やっぱりぬりかべメイクで来ればよかった……! あれだったら誰にも気付かれず会場入り出来るし、ハルも可愛いって言ってくれていたのに……。
あまりにも反応がおかしいので、そうっと周りを伺うと、ポカーンとした顔の人や頬を染めた御婦人の姿を見かけたので、「そうか! 皆んなお父様を見て驚いているんだ!」と気が付いた。
てっきり自分が見られているのかと思っちゃった。自意識過剰で恥ずかしい……!
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございました。
次のお話は
「130 ぬりかべ令嬢、宰相と会う。」です。
エリーアスパパがまともに登場(笑)です。
どうぞよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます