111 ぬりかべ令嬢、将来に悩む。
「ミアはレオンハルト様が好きなんだろう? なのにミアにも貴族籍を抜けて貰う事になってしまって申し訳ない。だけど、今回のような事件を起こした責任を取るためにはこうするしか無くてね」
あれ? 私、ハルが好きって言っていないし、お父様が知っているはず無いんだけど……なのにどうして知ってるの!?
私がお父様の言葉にあわあわしていると、お父様がおかしそうに言った。
「ははは。そんなの、二人でいるところを見れば誰だって一目でわかるよ。お互いの事を大事に想っているんだなって」
きゃーーー!! 恥ずかしいっ!! 私の感情ってダダ漏れなの……!? それは色々とマズイかも!! これからは注意しなきゃ!! 平常心平常心!
……ふぅ。
でもそうか、家から重罪人を二人も出してしまったのだから、何かしらの責任は取らないといけないよね。お父様も私も貴族籍にはそんなに執着が無い人間で良かったかも。
平民である私が三大国に名を挙げられる程の超大国である、帝国の皇太子と結婚──そんな場面を想像してみる。
……はい、どう考えても無理ですね。
それ以前に、貴族のままだったとしても、重罪人を出した家の人間を娶る物好きなんていないだろうし、ハルが良くても周りがなぁ……。
なら、最初の案だった宮殿の侍女はどうだろう。平民でも雇って貰えるのかな。でも宮殿の侍女なんて、身分がしっかりしていないと採用して貰えなかったような気がする。じゃあこの案も駄目か……。
──あれ? そうなるともうハルの傍に居る方法が無いんじゃ……!?
私が顔面蒼白になっているのに気が付いたハルが、心配そうな声で聞いてきた。
「……ミア。何となく考えてる事が分かるんだけど……身分とか気にする必要ないからな? 何だったらマリウスん家に頼んで養女にして貰えばいいんだし」
「そうだよミア。もうウォードは名乗れないけど、アーベルに頼めば別の貴族籍を用意する事も出来るよ。あ、アーベルと言うのは宰相のアーベル・ネルリンガーの事ね。奴には学生時代の貸しがまだたくさん残ってるし、カーティス……国王にも言えば、身分は保証してもらえるよ」
「え? そうなの? じゃあ、侍女として雇って貰えるかも! 良かった!」
流石にマリウスさんのお家に養女だなんて、おこがましくて無理だけど、身分さえ保証して貰えれば宮殿の侍女が駄目だったとしても、いくらでも働き口が見つかるだろうから、これで少なくとも飢える心配は無くなったぞ!
私がほっと安心していると、ハルとお父様が少し驚いたような目で私を見ているのに気が付いた。
「……? どうしたの?」
「えっと、どうして侍女として働く前提なのかなって」
「そうそう、貴族籍に入れて貰えるから、侍女になる必要は無いんだよ?」
二人は貴族の養女になれば、何不自由なく生活できると思っているみたいだけど、そんなのは私が嫌だ。
「だって、身分を保証してもらえるだけで有り難いのに、生活の面倒まで見て貰うなんて、そんなつもりは全くないよ? 自分の事は自分で何とか出来るような人間にならないと成長出来ないってお母様が言っていたし」
実際、お母様は私に厳しく教育を施してくれたし、使用人の皆んなも協力してくれたから、一人で生きようと思えば何とかなる……と思う。……ちょっと世界情勢には疎いけど。
「だから、自分の生活費は自分で稼ぎたいんだけど、ハルに会えなくなるのは嫌だなって。その点、宮殿の侍女ならハルに会える機会がまだあるかな、と思ったのだけれど……」
「ミア……!」
私の呟きにハルが嬉しそうな顔をする。ハルが嬉しそうだと私も嬉しい。こんな風に毎日ハルの笑顔が見れたらいいのに、身分が違うとそれも叶わないんだ。
それによくよく考えれば、侍女になってもハルに会えるだけだった。会えるだけじゃ駄目なんだよね。
どうすればハルの横に並ぶことが出来るんだろう? 私にはなんの取り柄もないし、唯一のアピールポイントだった聖属性も失くなってしまった今、新たな芸を身に付けるしか私には未来がない……! もしくは何かの功績を上げるとか……? 功績と言えば戦勝を挙げるのが一番よね。となると、お母様のように騎士団に……あ! これだ!!
「ハル!! 帝国の騎士団に入るにはどうすればいい? まだ間に合う? 女でも入れるの?」
「えぇ!? ちょっと待って、ミア! どうしてそういう方向になるの!? また変なこと考えてる?」
私から突然騎士団について聞かれたハルが慌てている。侍女の次は騎士団に入りたいだから、そりゃ驚くよね。
「お父様とお母様は最高位レベルの騎士団に入団していたでしょう? なら私も今から訓練すれば、二人ほどじゃ無いにしても強くなれるかなって! そうすれば私もハルを守れるし!」
これはいい考え! と思っていたけれど、ハルは反対なのか、あまり嬉しそうじゃない表情をしている。
「ミアの気持ちは嬉しいけれど、俺馬車の中で言ったよな? ミアは俺が守りたいって」
「ハル……!」
ああ、そうだった! どうしてそんな大事な事が抜けていたんだろう……。
「ごめんね、ハルと一緒にいたいって想いが暴走してしまったみたいで、つい……」
「ミア、そういう事は一人で考えるんじゃ無くて、二人で一緒に考えよう?」
「……うんっ!」
私とハルがそんなやり取りをしていると、前から「ゴホン!」と言う声がしてはっとする。
「いやぁ、仲が良くて大変微笑ましいのですが、目の前でいちゃつかれると流石にイラつ……目の毒でしてね。そういう事は二人きりの時にお願いします」
ひぃ! お父様から何だか凄くドス黒いオーラが……! 笑顔を浮かべている筈なのに……!
「それは大変失礼しました。ついでに厚かましいお願いなのですが、ミアと今後の事で相談がしたいので、後ほど部屋をお借りしてもよろしいでしょうか?」
私は初めて見るお父様の様子にビクついているけれど、ハルは全く気にする事なく普通に話している。さすが皇子!
「それはもちろん結構ですよ。私は退出しますので、どうぞこの部屋でお話し下さい。ミア、レオンハルト様とよく話し合って、結論が出たら僕にも教えてくれるかな。結果がどうあれ、最大限の手助けはするからね」
「お父様……! ありがとうございます……!」
思わぬお父様からの援護に喜びで心が一杯になる。早速お父様は私を甘やかす事にしたらしい。自分で言ったものの、何だか恥ずかしいな。
「そうそう、レオンハルト様、王宮から近い内に連絡が行くと思いますが、近日中に王宮で舞踏会が開催されるそうですよ。裁判のゴタゴタでレオンハルト様を歓迎する宴を開いていませんでしたしね。今回の罪人を輸送した後になりますが、長年王国を悩ませていた膿が一掃されたという事もあって、かなり盛大に祝うそうです」
「げっ……!」
お父様から舞踏会のことを聞かされたハルがもの凄く嫌そうな顔をしている。舞踏会、好きじゃ無さそうだもんね。
「ミア、他人事のような顔をしているけどね、もちろん君も参加だからね」
「えっ……!」
「爵位を返上するとは言え、まだ侯爵家令嬢だからね、当然だろう? ああ、着飾ったミアはさぞや美しいんだろうなあ。ふふふ、楽しみだなあ」
お父様がデレている……!? でもこの顔はマリカがよく言う「アカンやつ」だ! いつもの貴公子然としたお父様の顔がスゴいことに……!
あ、見兼ねたエルマーさんが声を掛けてくれた。よかった。
「ミアのドレス姿が見られるのなら、俺も喜んで参加するよ!」
ええっ! ハルまで!? ど、どうしよう……。舞踏会なんて今までまともに参加したこと無いから、恥をかかなきゃいいんだけど……。
でもハルやお父様が喜んでくれるなら……目一杯おしゃれしなきゃ駄目だよね!
──よし! 久しぶりだけど、ぬりかべメイクで頑張るぞー!
……そう意気込んでいたけれど、マリアンヌ達使用人の皆んなにぬりかべメイクは猛反対されてしまいました……無念!
* * * あとがき * * *
お読みいただきありがとうございます。
☆や♡、フォローに感想、有難うございますー!感謝感激でございます!
近況ノートにも書きましたが、鶴守 樹 様からレビューいただきました!
本当に有難うございます!これでしばらく生きていけそうです。
次のお話は
「112 ぬりかべ令嬢、約束を交わす。」です。
相変わらずのイチャコラ話です。何の約束でしょうねー?(すっとぼけ)
ちなみに自分をフォローしてくださった作家様方にフォロー返しさせていただきました。作品をフォロー下さっている作家様へのフォロー返しも徐々にやっていきますので、しばらくお待ち下さいませ。見落としがあったらすみません!
作品の方も合間を縫って拝読させていただきます。いきなり♡や☆を送ると思います。ご了承下さい!
面白そうな作品がたくさんあって読むのが楽しみです!ぐへへ。
次回の更新はストックが貯まれば明日更新するかもです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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