107 ぬりかべ令嬢、母親を知る。

 お母様のまさかの過去を聞いて絶句する。男装して騎士団に入っていたなんて……!!

 そこからどうやってお父様と結婚まで行き着いたのか非常に興味がある! 聞きたい!


「侯爵とはどこで知り合いに?」


 そこそこ!! そこが知りたい!!


「それにお父様がバラしてしまったって、一体? それに退団したお母様はどうなったのですか?」


「まあまあ、落ち着いて。その時僕は魔導国の冥闇魔法騎士団にいてね。ちょっとしたイザコザがあって、その時一度だけリアと剣を交えた事があったんだけど……」


 ええっ!? お父様とお母様は敵同士だったの……っ!?


「冥闇魔法騎士団……!? 魔導国の!?」


 ハルも余りの事に驚いている。冥闇魔法騎士団も大聖アムレアン騎士団と同じくらい強いんだっけ……。ひょっとして、私の両親強すぎ……!?


「アールグレーン領は魔導国寄りだし、知人から修行がてら入団してみないかと言われてね。僕も腕試しのつもりで入団したんだけど……まさかそこでリアと知り合うとはね。世の中何が起こるかわからないなぁ」


 お父様は当時を思い出しているのだろう、しみじみと呟いた。


 ちなみに私が以前お父様からと言われて渡された、空間魔法が付与された鞄はこの知り合いから譲り受けたものだそうだ。

 うーん、なるほど。確かにあんな高性能な鞄、王国で手に入る様なものじゃないものね。


「リアと剣を交えた時、どうして女の子が大聖アムレアン騎士団に居るのか不思議で、思わず『何故こんな可愛い少女が大聖アムレアン騎士団に?』って言ってしまったんだ。それを聞いたあっちの団長が酷く驚いてね。まさか性別を隠しているとは思わなくて。戦闘後、法国へ戻ったリアは団長に問い詰められて、性別を偽っていた事を白状したらしいよ」


 お父様はその事について随分お母様に恨まれていたらしい。お母様は騎士団員であることを誇りに思っていたそうだ。


「リアは当時、ウォーレン大司教と言う方にとても可愛がられていてね。そのウォーレン大司教がリアの身柄を秘密裏に引き取ってくれたんだよ。リアの本当の性別を知った人間はほんの数名だったしね。内々に処理されたと言うか……まあ、法国中にバレていたら大騒ぎだろうし。だからリアにとってウォーレン大司教は恩人だね」


 ウォーレン大司教……とても良い方だったんだろうな。


「しかし、あの大聖アムレアン騎士団に入団できるって、ミアの母君はかなりの手練だったのですね」


 法国でも最高位って言っていたものね。どれ位強かったんだろう?


「リアは騎士団在籍当時は『リアン』と名乗っていてね。風の上位属性の雷属性持ちで、騎士にとっては不利だと言われている小柄な身体を逆手に取って、風魔法と組み合わせた戦法で戦うんだけど、とにかく速いんだよ。動きや剣を振るう速度が。油断すると一瞬で首を刎ねられるんだ」


 ……ひえー! く、首っ! 怖い! 記憶の中のお母様はたしかに厳しかったけれど……。そう言えば、護身術を教えてくれたのは騎士団時代の名残……? 当時は疑問に思わなかったけど、今考えると侯爵夫人自ら護身術っておかしいよね?


「リアは八歳で騎士の学校に入学してね。それから卒業と同時に大聖アムレアン騎士団に入団したんだよ。主席だったしね」


 主席……! お母様スゴい!! 格好良い!!


「え、でも……どうしてそこから結婚する事になったの?」


 剣を交えた事から何か友情みたいなものが芽生えたとか?


「僕も領地を治める勉強の為に騎士団を退団したんだけど、その後リアと再会してね。リアはすぐ僕の事がわかったらしいけど、でも僕はリアの事がわからなくて……でも仕方ないよね? まさか一度会ったきりの、しかも戦った相手が再会してみたら令嬢になっていたなんて、わかる訳無いと思わない?」


 うーん、確かに。騎士だと思っていた人間が令嬢に変わってたなんて……普通はわからないよね。でもその事でお母様に色々言われたんだろうな。


「どこで再会したの? 法国? 魔導国?」


「王国だよ。リアはウォーレン大司教に引き取られたと言っただろう? そのウォーレン大司教は王国の神殿に赴任する事になってね。だからリアも一緒に王国へやって来たんだ」


 おお……! そこで二人は劇的な再会を果たしたのね……!!


「王国では大司教に一代限りの爵位を叙爵するんだ。その叙爵式でリアはウォーレン大司教の養女として社交界デビューしてね。まあ、そんなこんなで再会した僕たちは色々あったけど、お互い理解し合って結婚したんだ」


 そんなこんなや、色々あったというところをもっと詳しく知りたいけど……ハルも居るし、帰りが遅くなったら駄目だろうし、また今度教えてもらおうっと。


「ここから本題なんだけどね、リアは僕の事を愛してくれる様になってから聖属性の力が発現したらしいんだ」


「……えっ!? お母様が!?」


「マジか……もしかして聖属性は生まれた時から持っているとは限らないのか……」


 お父様を愛するようになってから聖属性が発現するなんて……。そう言えば、私も初めは四属性だけだって判断されていたよね……? もしかして私も、後から聖属性が発現したのかな?


「リア曰く、『人を愛した事がない人間に、人を救う為の聖属性が現れる訳が無い』らしいけどね」


 法国の施設で生まれたお母様は、両親から愛情を貰うことが出来ず、教育係達にまるで作業するかのように育てられたらしい。

 だから、人を愛することも、愛されることもわからないままだったから、本来持っていたはずの聖属性が現れなかったのだろう、という事だった。


「だからと言って、リアがウォーレン大司教や騎士団の仲間たちを嫌っていたと言う訳じゃないよ。ちゃんと親愛の情や尊敬の念は持っていたらしいから」


 一言で「愛」と言っても、色んな形があるものね。


「聖属性の素質がある者が愛に満たされて育てられていれば、八歳の魔力測定の時に判別できるんだろうけど……実際、素質がある子ども自体少ないしね。環境次第で発現の有り無しが決まるのなら、更に見つかる確率は減ってしまうよね」


 ──じゃあ、もしかして私が聖属性を判定されなかったのはその時の環境が悪かったから……?


「ここで、ミアからの質問に答える事になるんだけれど……リアが聖属性に目覚めただろう? 彼女の力はミアのような強力な癒やしや浄化ではなくてね、癒やしの力が少しと『夢見』だったんだ」


 お母様の力が「夢見」……!? それって、夢で何かを見るって事だよね?


「『夢見』……って、夢で未来を見るという、聖女の力……」


 ハルの呟く声を聞いて考える。お母様は「夢見」でどんな未来を見たのだろう……? それが私への答えになるのかな?


「リアが何を見たのか、僕は詳しく教えて貰えなかったんだ。『未来を変えてしまうから』ってね。だから、リアの望み通りの行動しか取れなくて……」


 ──私の未来を変えないために、お父様はお母様との約束を守っていた……?


「リアはね、自分の未来を視ることは出来なかったけれど、愛しい娘であるミアの未来を垣間見たんだそうだよ。レオンハルト様と出会う未来をね」


 じゃあ、お母様の最期の言葉にあった「素敵な人」って、やっぱりハルの事だったんだ……!


「だから、その未来を壊さないように……リアが僕にお願いをして来たんだ。一生に一度の、最初で最後の願いをね」


 お父様はそう言うと、笑顔なのに、とても悲しそうな瞳をして微笑んだ。


「──ミアが、自分から屋敷を出るまでは、ミアとは一切の関わりを持たないで、とね」




* * * あとがき * * *


お読みいただきありがとうございます。


☆や♡、フォローに感想、とても嬉しいです!本当に有難うございます!

今も通知が来る度に心の中でお礼を言ってます。ありがたやー。


次のお話は

「108 ぬりかべ令嬢、理由を知る。」です。


次回の更新は19日(土)12時の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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