104 ぬりかべ令嬢、提案をする。

 私の魔力は赤ちゃんレベルまで戻ってしまったと聞いて驚いた。


 しかも聖属性が失くなってしまったなんて……! でも四属性は残っていてくれて良かった!

 どっちにしろ初級魔法ぐらいしか使ったことが無いから魔力が薄くなっても大丈夫だろうし。


 本当なら魔法が使えなくなっていたんだものね。そう考えたら魔法が使えるだけでもありがたいや。

 生活する上で四属性はすごく便利だからなー。すぐお風呂入れるし、髪の毛乾くのも早いし。希少な筈の四属性の使い方じゃないんだろうけど。そう言えばマリカに以前「四属性の無駄遣い」って言われたっけ。


「ミア、魔力の事は心配しなくてもそのうち戻ると思うぞ。魔力神経が切れた事で一時的に弱くなっているんだろうし」


 黙って考え込んでいた私を見て、ハルが心配そうな声で慰めてくれる。私がショックで呆然としていると思われてしまったみたい。


「ハル、ありがとう。聖属性が失くなったのは残念だけど、四属性だけでも残っていて良かったよ!」


「聖属性についてはわからない事だらけだし仕方ないよ。四属性持っているだけでも十分凄いんだからな」


「うん、そうだよね……って、あれ?」


 ハルと話していて、ふと思い出した。そうなるとランベルト商会ではもう働けないのでは? いや、その前に研究棟はどうなったんだろう!?


「マリカ、研究棟はどうなったの? 私が最後に見た時は全部の窓が塗り潰されたみたいに真っ黒だったんだけど」


 私がマリカに質問すると、「研究棟の事以外にも話さないといけない事がある」とマリカが始めから話してくれた。


 ランベルト商会では、「穢れを纏う闇」に襲われた研究棟が穢れで酷いことになっていて手がつけられなかったらしいけど、化粧水を作るために作った魔道具で「聖水もどき」を作り、それを散布する事で事なきを得たらしい。

 もちろん発案者はマリカだ。ホント頭が良いなあ。


 そう言えば化粧水を作る魔道具を作ろうとしていた時、いくつかの魔石に聖属性を付与していたっけ。私が聖属性を失くしてしまった今、とても役立ってくれそうで安心した。


 それからハルとマリカから精霊さん達の話を聞いた。

 私がお世話していたバラ園がいつの間にか精霊さん達の集まる場所になっていたそうだ。普段は気配を消して隠れているらしいけど、全く気付かなかったよ……。


 そして私とマリカが連れ去られた時に、何人かの精霊さんが心配して付いて来てくれていた事、バラ園に来たハルに力を貸してくれた事……。

 精霊さんが協力してくれなかったらきっと間に合っていなかっただろうとハルが言っていた。


 ──精霊さん達ありがとう……! 私は心の中で精霊さん達に感謝する。


「何かお礼をしたいけれど、精霊さんって何を食べるんだろう? お菓子とか作ったら食べてくれるかな?」


 私は精霊さん達について何も知らないので、ハルとマリカに聞いてみた。


「精霊は清浄で神聖なものを好むと聞いた事があるなー。あ、ミアが作ったお菓子は俺が食べるから」


「空気中に含まれている『魔素』だと本で読んだ。ミアのお菓子は私のもの」


 んんー? 二人の意見が分かれましたよ? お菓子は作ったらちゃんと二人にあげるので半分こしましょうね。


「二人の話を合わせると神聖な空気に含まれている魔力の素って事かな?」


 だったら私にはどうしようもないよね。うーん、残念。


「バラ園に行った時にお礼を言えば良いと思うぞ?」


「そう」


 そっかー。じゃあ、また今度感謝の気持ちを込めてお礼を言いに行こうっと。


「お礼と言えば俺、もう一つミアにお礼を言わないと」


 ハルは私にそう言うと、服の袖を捲って見覚えのあるブレスレットを見せてくれた。


「これ、ありがとうな。ミアが作ってくれたって聞いてすっげー嬉しかった。それにこのブレスレットのおかげで何回もキレずに済んだんだ」


「……!? それって……!」


「そう、ディルクがミアに依頼したブレスレット」


 驚く私にマリカが教えてくれて、あの時のやり取りを思い出す。


『ミアさんが守りたい、と思う人へ贈るつもりで作ってくれたら良いよ』


 ──ディルクさんは、初めからハルに渡すつもりで私に作るように言ったんだ……。


「……あれ? と言う事は、ディルクさんはハルが帝国の皇子様って知っていたって事?」


 私がマリカに確認するように聞いてみたら、マリカに「ディルクだけじゃない。私もニコ爺もリクも知っている」と言われて再び驚いた。


「え! ど、どうして知ってたの!?」


「ミアが皇環を見せてくれたから」


 ……ああ、そう言えば初めて研究棟へ行った時、マリカに見せてって言われて指輪を見せたっけ……って、あんな前から!?


「『ハル』の正体が帝国のレオンハルト殿下だと、私達がミアに教えるのは違うと思って黙っていた。ごめんなさい」


 マリカがしゅんとして頭をペコリと下げる。その様子はとっても可愛いけれど、謝って貰うことじゃ無いので慌てて制止する。


「マ、マリカ!? 謝ること無いよ! 顔を上げて? それは私の事を思ってくれたからでしょう? なら、私がお礼を言わないと!」


「でも……」


「あの時ハルが帝国の宮殿にいるって知ってたら、私は居ても立ってもいられず帝国に向かっていたと思う。きっと商会の皆んなに迷惑をかけていたかも。だから、ありがとうマリカ」


「うん……!」


 マリカが顔を上げて笑ってくれた。……か、かわいいっ!! 癒やされる!


 世間知らずだった私が帝国に向かってもきっと上手く行かなかっただろう。ランベルト商会で働いた事と皆んなのおかげで、私はたくさん学ぶ事が出来たのだ。それにマリカとは友達になれなかっただろうし。


「ディルクさんにもお礼を言わないとな……」


 あの人はどこまで計算して行動しているんだろう? アードラー……じゃない、ヴァシレフも只者じゃないみたいな事を言ってたし。


「そう言えば、商会の人間全員このブレスレットをつけているんだな。ハンスが自分も欲しいと言っていたぞ」


「皆んなにお守りを渡す事になって、たくさん作ったんだよ。……あ!」


 そう言えば、私あの時ハルにあげようとブレスレットを作ったんだっけ。


「私、ハルにと思って作ったブレスレットがあるよ。それをハンスさんに渡せば「駄目!!」……え?」


 ハルには既にブレスレットがあるから、もう一つの方をハンスさんにと思ったけれど。


「ミアが俺のために作ってくれたんだよな!? そんなの、他人に渡すわけないだろっ!! ハンスにミアのお守りは勿体無い!!」


 うわぁ。ハンスさんすごい言われようだなあ。でもこれって本当は仲が良いって事だよね。ふふふ。


「でも、ハルはブレスレット二つも要らないでしょう?」


「いる!!」


 あらら。ハルが意地になっちゃってる。そんな様子も可愛く見えてしまう私は末期症状だね。


「ハルはミア絡みだと心が狭い」


「はあ!? んなの当たり前だろ!? じゃあマリカはディルクが作ったものを人にあげられるのか!?」


「無理」


「ほらなっ!!」


 ……うーん、二人は仲が良いなあ。結構共通点もあるし、何だか兄妹みたいで微笑ましい。


「じゃあ、ブレスレットを別のものにする? ペンダントにも出来るよ?」


「え!? そんな事も出来るのか!? ミアは凄いなあ! じゃあ……このブレスレットをペンダントにして貰っていいかな?」


 ハルはそう言うと付けていたブレスレットを外して私に渡して来た。


「うん。ちょっと時間がかかるけど、いい?」


「もちろん! ミアは目が覚めたところだし、俺はいつまでも待てるから、絶対無理しないで欲しい」


「うん、わかった!」


 そうして、本来渡す筈だった方のブレスレットをハルに渡すと、早速腕に付けてくれた。こっちも似合っていて格好良い!!


「こっちはこっちで聖眼石か……凄いな」


 ハルがしみじみとブレスレットを見て呟いている。


「法国の奴等に自慢したらどう言う反応するんだろ……」


「それ見たい」


 いやー! やーめーてー!! マリカも同意しないでー!!




* * * あとがき * * *


お読みいただき有難うございます。


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明日も更新しますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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